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其の島に伝はる民話
その島には、白い夜が訪れる。
霧である。
月が出ると、その様相は一層引き立つ。
おぞましいほどに美しい。
その原因は誰も知らぬ。
漂う海風の具合か、それとも大地の呼吸がためか。
そもそも島の人間は、そんなことを気にも留めぬ。
そう在るものだと思っている。
特殊である。
異様である。
昼に見た景色は、そこにはもうない。
漁港の明かりは幻想的だ。
夜になって尚、光を唯一失わない。
海沿いのコンクリートは絶えず濡れている。
降りかかるは潮か、
はたまた立ち込める濃い霧か……。
この島は内地と違い過ぎる。
――異形の者も、居る。