魔法少女☆終幕
「やれやれ……ひと騒動あったけど、
どうにかなるようになったのかな?」
寒風吹き荒れる高層ビルの屋上。
薄暗い路地裏を見下ろしながらコメットは呟く。
普段の道化さは鳴りを潜め、そこにあるのは超越者のみが持つ
達観した絶対の雰囲気。
コメットの視線の先には再会の誓いを果たした少年と少女がいた。
余程嬉しかったのか、少女の方は歓喜の涙すら浮かべている。
「ま、どうでもいいけどね。
ボクは契約を代理履行しただけだし。
12歳以上は守備範囲外だし」
誰に語る訳でもなく呟くコメット。
洩れた言葉は言い訳か本音か区別が付き辛い。
「それがアナタの本音なの?
あたしにはそう思えないな」
韜晦するコメットの背後から声を掛けたのは、
いつの間にかいた10にも満たないであろう幼女だった。
幾星霜を経た幽玄とも云える妖しさと蠱惑さを讃えた容貌。
纏いし清廉なる気は人々に荘厳な永久の趣きを連想させる。
誰もが無意識に傅き敬いたくなる威厳。
図りきれぬその存在を形容するのなら、まさに……
「おやおや。
杜の都の守護者サクヤじゃないか。
いいのかい、こんなとこで油を売って?
君のとこには確か世界の敵が侵入したって聞いたけど」
「あたしのとこはスタッフが優秀だから大丈夫。
まあ長時間留守には出来ないけどね」
「ふ~ん。突発性事態に焦りはない、か。
組織で対抗するのもいい案だね。
ボク達は突出した個で対応するのが一番だと思うけど」
「いざとなれば使い潰せるから?」
「さて、何の事やら」
「ねえ、コメット」
「何だい、サクヤ」
「一つだけ質問いい?」
「構わないよ」
「異界からの侵略者に対して魔法少女を以て対抗する。
その働きには感謝してる。
この世界の守護者の一柱として礼を述べても足りないくらい」
「そりゃどうも」
「でもね」
「うん?」
「アナタ達は……いったい何者なの?
ペテルギウスの旧神」
畏怖すら込めて尋ねたサクヤの問いにコメットは嗤う。
嘲笑するように。
哄笑するように。
苦笑するように。
「君は自分が何者なのか完全に理解してるのかい?
ボク達は昔から繰り返してきた。
何千年。
いや、何万年かな?
世界を生み出す様々な可能性。
それを見守り、育ててきた」
「……知ってる」
「あるいは世界を定めるシステムの一環なのかもしれない。
異物に対する抗体のように自浄作用を促す存在。
望まざる終末を回避するべく動く駒。
ボク達自身もよくは分からないのさ。
ただ、これだけは言える」
「なに?」
「この面白い世界を終わらせたくないのさ。
荒唐で、滑稽で、愚かしく。
されど驚くほど高尚で気高き人々。
正しき怒りを以て不条理に対峙する人々への最後の砦」
「なるほどね……
あたしたち神々とは違うスタンスをとるんだ」
「君達は人類の守護者だろ?
ボク達はいうなれば可能性の監視者であり助力者かな」
「そう……やっと疑問が解けたかな」
「そりゃ~よかった」
「でも……ひと段落はついたんでしょ?
それで、これからどうするの?」
「勿論続けるさ。
幸い可能性の種子は撒かれたし。
悪趣味だけど……覗き見させてもらう」
「はあ……コメットって……
ホントにダメダメね」
「正気じゃこんな事してらんないのさ。
ボクは幼女にくんかくんかする変態。
そんな侮られる認識の方が色々欺きやすい」
「それってホントに口実?」
「……ちょっとは真実、かな?」
「だよね~」
規格外の存在であるコメットとサクヤは誰もいないビルの屋上で笑い合う。
誰にも理解されないであろう意志を共感し合いながら。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うあ~マジで遅刻する!!」
一昔前の漫画の様な台詞が口から出る。
僕は制服を着ると慌てて階段を駆け下りる。
「おはよ~父さん」
「おはよ、神楽。
今朝も遅いな」
「仕方ないじゃないか!
つい先程まで闘ってたんだからださ!」
「あ~また来たのか?
懲りない奴等だな」
「たまには手伝いにきてよ。
いい加減限界なんだけど」
「俺の時も仕事と兼ね合いをしながら闘ったもんだぞ。
まあ打ち切りされないのは人気のある証拠だ。
とにかく頑張れ」
ダンディな笑みを浮かべ親指を立てる父さん。
くそ、人事だと思って!
僕は慌てて朝食を詰め込むと、バックを手に玄関に向かう。
「じゃあ行ってきま~~す!」
「おう。気をつけろよ~」
朝日が輝く通学路。
学校までの距離を思い出し、僕は溜息をつきながら駆け出した。
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「あら、神楽は行ったの?
今日も遅かったみたいだけど」
「ああ。また闘いらしい」
「まあ……大変ね」
「君も手伝いに行くかい?」
「フフ……もう少女、って歳じゃないですもの」
「そうかな?
俺の前の君は、いつでも可愛いままなんだけどな」
「貴方ったら……お世辞でも嬉しいけど」
「お世辞じゃない。
偽りなきホントの気持ちさ」
「もう……ありがとう、恭介さん」
「どういたしまして、舞香」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「大変だよ、神楽!
また奴等が襲ってきた!
早く変身してたたかぷぎゅる!」
足元に転移してくるなり大声で騒ぎ立てるナマモノ。
僕は見なかった事にして問答無用で踏み潰す。
完全に道路と一体化したのにすぐに復元する。
そして何事もなく追い掛けてくるし。
くそ~しつこい。
「ひ、ひどいじゃないか神楽!
ボクにどんな恨みが……」
「腐る程あるわ!
大体いたいけな僕を闘いに駆り出してる時点でおかしいだろ!」
「いや~他に適役がいなくてさ」
「嘘つけ!」
「本当だよ。
秘密を洩らさない、なんて条件で扱き使える人材なんて他にいないし」
「それが本音かい!
はあ……何でこんなことに……
僕は普通のオトコノコなのに」
「え?」
「あん?」
「いや~だってさ。
初めて会った時は驚いたよ?
凄い美少女だと思ったら……」
「言うな!」
「まさか男の娘、だったなんて」
高尚な趣味を指摘され僕は怒鳴る。
女装が好きなんじゃない。
僕はただ綺麗な恰好をするのが好きなだけなんだ。
その過程でメイクやスカートを履くだけで。
半年前趣味に興じてた時にこいつに遭遇したのが運の尽きだ。
以来奴隷の様に扱き使われる毎日。
もう~嫌だ。
「ほらほら、言葉では嫌がっても身体は正直だよ?
さあ~早く言うんだ!
変身の為のキーワードを!」
「くっそ!
今回だけだからな!
パラレルパラレルシューティングスター☆
らぶらぶマジカル~♪」
意味もなく迸る七色の閃光。
ド派手な効果音と共に、あたしは変身する。
可憐なる衣装を身に纏い、
悪と対峙しうる希望の象徴。
その名も、
「愛と希望の魔法少女プリティ☆スター参上♪
月に代わって無差別成敗よ!」
あたしの闘いは始まったばかりだ。
とほほ……。
「娘が最近デレ始めたんだが、どう思う?」
END
NEXT>「男の娘なのに魔法少女やってます」 に続く(え?)
続きをお待ちいただいた皆様。
大変お待たせ致しました。
全作品更新第一弾、
魔法少女シリーズ完結です。
さりげなく次回への伏線を漂わせてますけど。
今まで応援して下さり、ありがとうございました。
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