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魔法少女※誓約

 三年が過ぎわたしは高校生になった。

 親友の文奈ちゃんと共に無事に地元の進学校に入学。

 面白いカリキュラムや部活の仲間に囲まれ充実した日々を送ってる。

 ……筈なのに。

 わたしの胸の内には言い様の無い喪失感と焦りにも似た焦燥感が付き纏う。

 わたしは何かを忘れてる。

 わたしは何かを告げたい。

 そんな想いがグルグルと渦巻く。

 今も最近元気がないわたしを心配した友達とカラオケした帰り道だ。

 暗くなり始めた道を歩きながら、早く元に戻らなきゃと思う。


(でも……元のわたしって何?)


 答えの出ない方程式を解くようなもどかしさ。

 わたしは嘆息する。

 そんなわたしの視界の隅、見覚えのある白い影が足元をよぎった。

 あれはもしかして!?

 わたしは逸る鼓動を押さえ後を追う。

 路地裏に入る白い影。

 わたしは後を追おうとして


「いてっ!」


 そこにたむろしていたガラの悪い男達にぶつかってしまった。


「あ、あの……すみません!」


 急ぎ頭を下げ走り去ろうとするわたし。

 その瞬間、わたしは制服の裾を掴まれ壁際に押し遣られる。


「おいおい……

 定番だけど、謝ったからって話は終わらねーよな?」


 下種な笑みを浮かべ近寄ってくる男達。

 恐怖に身体が震える。


「あ、あの……じゃあどうすれば……?」

「な~に、その制服ってあのお嬢さん学校のでしょ?

 ボク達お金が欲しい訳。

 だからさ、色々仲良くなろうよ。

 体の隅々まで、さ」


 言い様スカートに手が伸びてくる。

 制服の上着がゆっくりと脱がされる。

 駄目。

 怖くて逃げだしたいのに。

 嫌悪で震えるのに。

 足が、動かない。


(助けて  さん!!)


 絶体絶命のわたし。

 絶望に閉眼し、心の奥底で祈った時、


「そこまでにするんだな」

 

 若いのに渋い声が路地裏に響き渡る。

 激しく鼓動する心臓。

 わたしは、この声の主を知ってる……?


「あ~何だ、おめー?」

「お前ら風に言うなら、定番だけどヤラレ役はやめろよ、三下。

 何から何までテンプレ通りで恥ずかしくないのか?」

「頭おかしいのか?

 どれ、いっちょ遊んでやろーか」

「それはこっちの台詞だ。

 いたいけな少女に手を出しやがって、骨の髄まで叩き直してやるよ」

「上等だ!」


 勇ましい啖呵と共に、争い合う音が聞こえ始める。

 わたしは安堵と共に膝が崩れ落ちるのを感じた。

 両手を地面について大きく肩で息をする。

 目を開けたわたし。

 震えて汚れた自分の手が見える。

 そして気付いた。

 恐ろしい程の静寂。

 喧騒が、いつの間にか収まっていた。


「くそ、覚えてやがれ!」

「誰が覚えるか。

 少しは独創的な捨て台詞ぐらい吐けよ……ったく」


 顔を上げれば、遠くで負け惜しみを言い放ち立ち去る男達の姿。

 そんな男達を呆れた台詞で見送る制服姿の少年の後ろ姿。

 何だろう?

 その後ろ姿を見ただけで泣きそうになる。


「ま、無事間に合ったから良しとするか。

 じゃあ気をつけろよ。

 こんな夕刻に人気のないとこへ女性が入るもんじゃない。

 可愛いんだからさ」


 ヒラヒラと手を振り歩み去ろうとする少年。

 振り返ろうとはせず。

 都合の悪い事を誤魔化すかのように。

 だからわたしは、


「待ってください!!」


 大声で彼を呼び止めていた。

 わたしの叫びに躊躇う様に足を止める少年。


「……何だい?」


 逡巡する彼の声。

 わたしは勇気を以って尋ねる。


「危ないとこを助けて頂き、ありがとうございます」

「いや、俺は別に……」

「顔を見せて頂けないのは何か事情があるのでしょう。

 でもせめて……

 せめて名前だけでも教えてくれませんか?」


 数秒の間。

 彼が苦悶してるのが分かる。

 でもわたしも譲る気はない。

 だってあと少しなんだ。

 あと少しで彼の事を思い出す。

 魂の奥底に刻まれた、わたしの想いがそう告げる。

 

「……恭介」

「え?」

「俺の名は武藤……武藤恭介だ」


 観念したかのように呟かれる彼の名。

 霞が掛かった脳裏が一瞬にして晴れ渡る。

 そうだ、何故忘れてたのだろう。

 どうしてこの名前を聞くだけで嬉しくなるのだろう。 

 彼は……武藤恭介はわたしの……


「恭介さん!!」


 わたしは迸る衝動の赴くまま恭介さんの背に抱きついた。

 慌てる恭介さん。

 でも離さない。

 うん、絶対離さないんだから。


「恭介さん!

 恭介さん!!

 恭介さん!!!」


 叫びと共に涙が自然と浮かんでくる。

 悲しみじゃない。

 嬉しくても涙が止まらない事をわたしは初めて知った。

 わたしの呼び掛けに恭介さんは大きな溜息を一つ付き振り返る。

 かなり若い少年の顔。

 襟章を見るに他校の二年生らしい。

 でも間違いなく恭介さんだった。


「まったく舞香に気付かれないように立ち去るつもりだったんだけどな……

 俺の事、覚えてたのか?」

「いいえ。ず~~~っと霞掛かってたのが、今恭介さんに会った瞬間に晴れました」

「そっか……やっぱり直接の接触が不味かったか。

 でも舞香の窮地を見逃せるはずがないし……」


 何やら煩悶する恭介さん。

 難しい事情があるのは分かるけど、ここは言っておかないと。


「ねえ、恭介さん」

「ん?」

「まずは何か言う事があるんじゃないんですか?」

「うっ……やっぱり言わなきゃ駄目か?」

「ええ、三年前の約束です」

「はあ……美人度だけでなく押しの強さもアップしたな」

「フフ……ママ譲りですから。

 ねえ、恭介さん。お願いします

 貴方の口から聞かせて下さい」

「ああ、男に二言は無い。

 じゃあ、一度だけ言うぞ?

 俺は舞香を一番好きだし、 

 これからもずっと傍にいる……

 いや……違う。

 こうじゃないな……舞香!!」

「は、はい!」

「俺は……お前を愛してる!

 絶対離さない!」


 赤面した恭介さんがわたしを抱き締めながら言う。

 涙がホントに止まらない。

 顔だってぐしゃぐしゃだ。

 幸せ過ぎて頭がおかしくなる。

 三年越しの告白の返事を聞きながら舞い上がるわたし。

 だからわたしの返事なんて決まってる。


「はい……わたしも好きです。

 恭介さんの事、ず~~~~~と!

 ず~~~~~~~~と前から大好きでした!!

 我儘は言いません。

 だからこれからも傍にいて下さい!!」


 熱く抱擁し返すわたし。

 わたしだって負けない。

 恭介さんを想う気持ちは本当なんだ。

 頬に掛かる指。

 少年の顔をした恭介さん。

 嬉しくておかしくなりそう。

 鼓動がウルサイほどドキドキする。

 一秒だって恭介さんから視線を離したくない。

 でもわたしは目を閉ざし唇を上に向ける。

 いつの日か誓った儀式を成就させる為。

 想いを結ぶ誓約を。

 やがて重なる唇。

 わたしは歓喜に溺れながら声を押し殺し泣いた。

 3年間付けてきた薬指の指輪。

 先生に見つからない様一生懸命守り通してきた指輪が一際輝いた気がした。


「ただいま、舞香」

「おかえりなさい、恭介さん」



 次回エピローグで第一部終了となります。

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