魔法少女☆凛然
魔法少女の力の源、魔力とは何か?
そもそも魔とは?
魔法少女たる俺が推測するに、魔とは「自浄作用で浄化し切れない世界の汚れ」なのだろう。
それを魔法少女達は身体に取り込んで濾過、自らの望む力と為す。
では長年魔法少女を続けた者はどうなるのか?
許容し切れない魔を受け入れた者は?
そして最大の疑問……何故「変身呪文」等というものを必要とするのか?
答えは簡単だ。
深淵を覗く者は自らも深淵となる。
自らの器を零れ落ちた魔は容易く自らと世界を侵食する。
それが故に変身呪文が必要となる。
自分を世界に留める為の鋳型であり、制約。
そう……魔法少女は変身呪文を唱えなくとも「変身」することが出来る。
さらに世界の法則に囚われず制限からも解放されるので、莫大な力を手に入れる事が出来る。
しかしそれを行うのは諸刃の剣。
力の代償としてフィルターされない魔による汚染を身に受ける。
身体を蝕む「それ」は、下手をすれば二度と日常生活を行えなくなるかもしれない。
(だからどうした!)
拳を握る。
自らを媒介として世界の澱みが集う。
そしてそれは魔力となり我が身を覆う絶対の化身となる。
無論対価が無い訳じゃない。
濾過し切れない魔力が俺の心と体を蝕んでいく。
だがそんな事は今の俺には関係なかった。
こんな世界など、舞香を守れなかったこの俺なんぞどうなっても!
絶望に身を委ね闇に堕ちようとした時、
(駄目……)
物を言わぬ身となった舞香の声を聴いた。
慌てて見下ろすと、舞香の左薬指で輝く蒼き清浄なる魔力光。
舞香に残された最後の燈火。
(恭介さんは……愛と希望の魔法少女でしょ? 絶望なんかに負けちゃ駄目)
(お前気付いて……)
(分かるよ、好きな人の事だもん。最初は驚いたけど)
(舞香……俺は、俺はお前を守れなかった……)
(そんなことないよ。恭介さんはいつでもわたしを守ってくれた。わたしを愛してくれた)
(でも……お前を幸せに出来なかった……)
(ううん。わたし、今すごく幸せだよ? 好きな人に報いてもらった。世界で一番幸せな女の子だと思う)
(だがもっとお前と一緒にいたかった!)
(……ありがとう、恭介さん。わたしも、もっと貴方と共に在りたかった。でも……そろそろ御終いみたい)
(逝くのか?)
(うん。残念だけど。わたしの死は確定事項みたい)
(そうか……すぐに俺も後を追う)
(恭介さん? 冗談でもそんなこと言ったらわたし怒ります)
(だがそれじゃあ!)
(……わたしの死は確定事項。でも運命はまだ覆せるかもしれない)
(え?)
(だから恭介さんに委ねます。わたしの想い、大事にして下さいね)
(待て舞香! 逝くな!?)
(恭介さん……いえ、魔法少女プリティ☆スター。最後のお願いです。戦って! 貴方(貴女)には、待ってる人が……守るべき人達が……そして未来がある。だから……)
(だから立ち上がって! 他の誰かの為だけじゃなく、恭介さん自身の幸せの為に!!)
「そうだよな……」
俺は胸の内から迸る衝動のまま詠唱を刻む。
逃げ惑う人々の間から聞こえる微かな悲鳴。
喧騒に掻き消されそうになる、助けを求める声。
そこに助けを求める者がいるなら俺は闘わなくてはならない。
だって俺は「魔法少女」だから。
愛と希望の魔法少女だから。
絶望を希望に変えなきゃ……カッコ悪いだろう?
掌に集う数多の魔力。
希望という名のそれは、絶大な奔流をあげる星々の煌めきとなり「あたし」を変身させる!!
「愛と勇気の魔法少女プリティ☆スター参上! 星々に代わっておしおきよ!」
あたしは迷いなき瞳で今、完全なる魔法少女として宣言した。




