魔法少女☆決断
エピナールに戻り、一風呂浴びて汗を流す。
今日も何だか慌ただしくも充実した一日だった。
軽く身仕度を整えた後、舞香と共に本格会席「那珂川」を訪れる。
純和風の店内は個室で仕切られており、人目を気にせずのんびり寛ぐ事が出来る。
俺も舞香も肩肘を張る事ない店の雰囲気を一発で気に入った。
舞香は前菜を、俺は蔵元兼ソムリエが選んでくれた日本酒を堪能してるとこである。
「どうだ、舞香。会席といえど堅苦しくないだろ?」
「はい……もっと作法にウルサイとこだと思ってました」
「最低限のマナーは必要だけどな。
会席はまず人を持て成す心から生まれると俺は思う」
「そうですね……派手さはないけど心尽くしの繊細な趣向が嬉しいですね」
「お。通な意見だな」
「そんなことはないです」
「まぁ舞香が喜んでくれるなら何よりだ。
さてと、醤油は……」
「あ、わたしが……」
卓上を二人の手が触れ合う。
「おっ……と」
「あっ……」
どちらかとなく手を引き合う。
舞香は顔を赤らめると胸元で左手を抱いた。
薬指に輝く蒼の色彩。
「……随分気に入ったんだな、ソレ」
「だって……な人に頂いた指輪ですから……。
女の子なら誰だって……」
俯きながらはにかむ舞香。
そんな舞香を見ながら、俺は先延ばしにしてきた決断をしなくてはならないと思った。
「あの、舞香!」
「あの、恭介さん!」
二人の声が同時に発せられハモる。
「えっと……その、どうぞ」
「いえ、恭介さんこそ……」
「いやいや。舞香に譲るよ」
「そ、そうですか? じゃあ失礼して」
舞香は大きく息を吸い込む。
「恭介さん……聞いて下さい。
わ、わたし……わたしずっと前から恭介さんの事を!」
俺を真剣に見つめ、震えながらも精一杯勇気を振り絞る舞香。
そんな舞香に俺はついに答えを
「「「ふははっははははっははあっはあっはははははははっはっははははっははははははははっはははあはははははははっはははっはははははっははははっははははあはははっははははっはははっはは!!!」」」
「きゃああああああ!!!」
「うわああああああ!!!」
その瞬間、複数の馬鹿笑いと悲鳴とが俺達の告白を断ち切った。
「ちっ! よりによってこんな時に!」
「あっ……うん。そうですね……」
肩透かしというか拍子が抜けたかのように惚けた表情で頷く舞香。
「どうするんだ、舞香? 変身するのか?
ここなら個室だから誰にも見られず大丈夫だと思うが」
「え? あっ……はい。じゃあわたし……変身しますので……。
恭介さん、少し席を外して戴けますか?」
「ああ。避難を手伝ってくる!
舞香……いや、魔法少女パフューム。皆を頼むぞ」
「はい……。わたし、頑張ります」
どこか痛々しげな笑顔で答える舞香。
俺はフォローしようと声を掛けようとしたが、止まらない悲鳴がそれを許さない。
「じゃあ先に行く。後でな」
俺を見詰める舞香の切なげな視線。
後ろ髪を引かれる様な想いを無理やり振り切り、俺は惨劇の舞台へ駆け出すのだった。




