魔法少女☆旅行(18)
同時三作品進行とか……もう、ね(はぁ)
少しバーで飲んで夜風に当たってくる。
緊張してたのか、マンションに着くなり船を漕ぎ始めた舞香。
寝室に誘導し、そう告げて鍵を閉めた後、本館の屋上ラウンジへ向かう。
メインタワー最上階のバー、ラ・ステラ。
薄暗い店内で妙齢の艶やかな女性が一人、カウンターでグラスを見つめていた。
摩耶だった。
服飾デザイナーをしている摩耶だが、仕事で近くまで来る予定があった為、強引に誘い出したのだ。
「お待たせ。隣り、いいかな?」
「ううん。待ってないわ。2週間ぶりね、アナタ」
「まだそんなもんだっけ? もう半年は会ってない気がした」
「フフ……わたしもよ」
オーダーを待つバーテンに不味いと分かっているのにドライマティーニを頼む。
無駄な金だと思うが、30を越えた男のくだらないこだわりだ。
「そういえば、舞香の事ありがとう。
今日もいっぱい写メが届いたわ。
最近のあの娘、羽化した蝶の様に日々華やかになっていく感じね」
「俺は何もしてない。ただ、助言して感謝しただけさ」
「そうなの? でもそれだけのことがあの娘には何よりの救いだったのよ」
「なのか? 良く分からんが。それより……君が心配してるのはアレだろ?」
「ええ。まさか舞香まで魔法少女になるなんてね……想定外だったわ」
「まぁ……なるようになるさ。禍福は糾える縄のごとし。色々考えてもしょうがない」
「そうだけど……でも、もう理解してるんでしょ?
今のこの平穏な一時が、仮初めの凪の時間だという事に」
「ああ」
ここ一週間もの間、奴等は現れる事無く、舞香と穏やかな日々を過ごしてきた。
因果を歪める魔法少女が二人もいるのに、だ。
これは嵐の前の静けさ。
引き絞られた弓は惨劇という災厄を解き放たれるのを待つばかり。
「それなのにアナタは諦めないのね」
「ああ。それが曲りなりも希望の起源を持つ者としての矜持だからな」
「はぁ……アナタの強さが羨ましくなる。
舞香はいいわね、こんな素敵な人の傍にいられるんですもの」
「摩耶だって構わないぞ」
「今……少ぉ~しだけ決心が揺らいだけど、舞香が悲しむからやめておくわ」
「はぁ~残念。また振られたか」
「こっちこそ。舞香に嫉妬するような馬鹿な女にはなりたくないもの」
「違いない」
互いに顔を見合わせ、苦笑する。
「そういえば、今日はここに泊まっていくのか? 手配するぞ」
「いいえ。もう少ししたら無料送迎バスの最終便が出るから、それに乗っていくわ」
「そっか。じゃあここまでだな」
カウンターから降り、摩耶を見詰める。
摩耶も俺を優しく見つめ返すと、縋る様に頼んできた。
「守ってくれる? あの娘を」
「ああ、任せておけ」
俺は力強く胸元を叩くと、舞香を一人にさせない為、マンションへ戻る事にした。




