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この町だって都会からみれば小さいのかもしれないが、この界隈では大きい方だ。
百合が知らないからといって、その人がよその町から来た人だという確証はない。
「どんな人だったの?」
「あのね、何かこわい顔してたよ」
「怖い顔?」
「うん」
百合は、知らないおばちゃんに会ったときの事を思い出そうと頑張る。
しかし、思い出そうとすればするほどに、その人の顔がわからない。
「そう…それで、そのおばちゃんに何て言われたの?」
「えっとね」
顔や服装はぼんやりとしか思い出せないのに、そのおばちゃんに言われた言葉はその人の声とともに百合の記憶にはっきりと刻まれていた。
『 隠れ坊に気をつけるんだぞ 』
「かくれんぼ?」
「うん、そう」
かくれんぼをしている時に、かくれんぼを気をつけろだなんて。
何て変なこというんだろう。百合はずっと思っていた。
「ねぇ、かくれんぼって危ないの?」
「そんな事ないわ。とっても、楽しい遊びよ」
「じゃぁ―――」
どうして、あのおばちゃんはあんな事を?
「あのね、百合ちゃん。それはきっと隠れ坊の事かもしれないわ」
「かくれんぼう?」
「そうよ」
そういって、美奈子は積み重ねられた本の山から一冊の本を取り出した。
古ぼけた紙、消えかかっていて読みづらいタイトル、しっかりと紐で綴じられたその本をみるだけで、百合の心はワクワクと躍る。
「ほら、コレ」
そう言って美奈子が開いたページには、薄くなった文字で 隠れ坊 とかいてあった。
そこに描かれた画には、小さな子供たちが林や建物の裏に身を隠し、中央には両手で両目を隠した鬼のお面をつけた子供が一人。
中央の子供が違うだけで、その画は百合たちの大好きなかくれんぼの画であった。
「この子は…?」
百合は、恐る恐る真ん中の子供を指差した。
「あぁ、この子は≪オニ≫だと書いてあるわね」
「オニ?」
言葉は同じなのに、響きが違うように聞こえるのは何故なのだろう。
百合はふと疑問に思った。百合たちが毎日のように遊んでいるかくれんぼにも鬼がいる。
隠れている友達を捜し当てる人の事だ。なのに、この画は何故だか違うような気持ちになる。
「かくれんぼの鬼じゃないの?」
「違うみたいね、この子は≪隠れ坊のオニ≫というらしいね」
ミミズがのたくったような汚い文字で書かれた説明らしきものを、美奈子はすらすらと読んでいく。
ボールペンやエンピツとは違う、炭でかかれたその文字らしきものは百合にとっては呪文のようなものだ。
「ねぇ、美奈子おねぇちゃん。隠れ坊ってどういう遊びなの?」
「そうねぇ」
そう言って美奈子はゆっくりと文字を言葉にしていく。
この時をまっていた百合の心は興奮でいっぱいで、知らぬ間に頬が火照っていくのにも気づかない。
「隠れ坊とは、ある村に伝わる伝統の遊びである。
しかし、ある時刻になるとその遊びは儀式へと変わる。
その時刻に、行ってはならない。
その時間は――――――――。