みんなのいた時代
この物語のサブタイトルにもなっている『もしこの世界が全て夢だったら』。これは僕自信が昔から考えている思想的なもので、それを軸にこの物語を作ってみました。拙い文章ですが、暇があれば読んでみてください
『もしこの世界が全て夢だとしたら』
雑誌でそのような見出しの記事を読んだ記憶がある。その記事にはこう書かれていた。
「もしかしたら本当はあなたの存在がなく、もしくは小さい頃に何か事故で意識を失い、そのまま植物状態に陥ったと仮定しよう。けれど、あなたのあまりにも強い『生』の力によってそれが夢となりあなたの脳内に映し出される。それはあくまであなたがこうありたいと望んだ世界。現実から目を背けた結果引き起こされる幻なのです。そしてそれは・・・」
などと訳の解らない理論を並べていた学者がいた。とらえ方によっては質の悪い宗教みたいでもあった。
くだいらない。そんな理論並べるよりもっとまともな研究があったのではないのだろうか。自分が現実に存在している。そんなこと分かりきっている。
でも、もしそんな非現実的なことがあったのなら・・・。この世界は今よりもずっと面白く、深い世界になっているだろう。と、肯定的な感情を持つ自分もいた。
毎日が同じ繰り返しな訳なんだが、どうも僕はそれが好きらしい。毎日同じ時間に起き、同じ時間に家を出て学校で授業を受ける。大学が終われば部活に精進し、毎日同じ時間に家に帰る。決して特別な生活でもない。ありきたりの普通に生活。それが僕にとって一番の宝物だった。
今朝は久しぶりに寝過ごした。別に遅刻するほどの寝坊ではなかった。僕は焦ることもなく、いつも通りのペースで身支度をすませる。家を出たのはいつもより15分遅かった。いつもよりは遅かったが学校には十分間に合う。
学校に行く途中でいろんな人に会う。近所のおばちゃんやおじいちゃん。その全ての人に挨拶をするのが僕の日課になっている。今日は少し遅いせいもあり、いつもとは違った顔ぶれも多かった。登校中に会う学校の生徒が良い例だ。だいたい登校の時間というのは人によって偏りがあり、この時間帯には決まって同じ顔を目にすることが多い。しかし、今日の生徒の顔を見てみるといつもとは違う顔が多い。いや、正確に言うなら僕が違うのだが。
ふと目の前に見知った後ろ姿を見つけた。
「聡。おっはよー」
彼は聡。僕と同じクラスで部活も一緒だ。
「あれ?翔・・・今日は珍しく寝坊か」
聡とは中学校からの仲で、その時から僕たちはいつも一緒にいた。
僕たちは談笑しながら学校に向かった。話してたせいもあって学校に着いたと同時に授業の予鈴が鳴った。
「ふぅ~ギリッギリ。たまにはこれくらいのスリルもいいんじゃね?」
「たまには・・・ね。ま、個人的には時間に余裕を持って行動したいけど」
などと話していると隣からこれまた同じ部活の結衣が話しかけてきた。
「ほんまよ。スリルっていっても遅れちゃったら意味ねえやん」
「気にすんなや。結果間に合ったんだし。」
「まぁ、あんたらが遅刻しようが私には関係ねえけど。あ!それより、今日部活先生おらんから自主練だって。どうする?自主練行く?私は行くつもりやけど」
「自主練かぁ・・・。まぁどうせ暇やし行くかな。翔は?」
「あぁ。聡が行くなら行くわ。ほういや早紀は行くって言ってた?」
「うん。早紀も行くって。もうすぐ大会であの子凄く張り切ってるし」
早紀っていうのは僕の彼女で中学校から付き合っている。もうすぐ春季大会。僕たち3年生にとっては最後の大会で、早紀を中心に皆が試合に向けて練習をしている。
その時ちょうど授業の始まるチャイムが鳴った。
基本的に授業中の先生の話は聞かない主義だ。自慢ではないんだが授業をまともに聞かなくてもテストではある程度の点数をとれるので授業中は終始上の空で終わってしまうことも多々ある。
気がつくと今日の授業が終了し放課後を知らせるチャイムが鳴り、家に帰る者や部活に行くもの、教室で勉強する者など色んな方法で放課後を過ごしている。
僕たち3人は一緒に教室を出た。その時隣の教室から早紀が出てくるのが見えたので3人で歩み寄った。そのまま4人で話しながら弓道場に向かった。
弓道部は3年生10人、2年生9人、1年生11人の30人で活動しており、運動部でありながらあまり運動しない。そしてなにより袴がカッコいいと単純な理由で入部した人が過半数以上を占めるある意味謎めいた部活である。一見弓道は簡単そうに見えて意外と奥が深く面白いスポーツである。
弓道場に着いた僕たちは袴に着替え、的の準備をしてから練習を始めた。最初は僕たち4人だけだったが、順番に部員達が弓道場に集まり最後には12人での自主練だった。
練習が終わり、後始末を行うと僕と早紀は一緒に弓道場を後にした。僕たちは家が近いこともあり、登下校は基本的に一緒に行っている。
「今日は寝坊したの?」
「うん・・・まぁ。」
「遅くまでゲームしてたんでしょ?」
「しゃあねぇやん。最近面白いの出たんやから。」
「ほどほどにしとかな。あまり無理すると射にも影響でちゃうよ」
これもありきたりの会話だった。ふと彼女が話しを変えてきた。
「あ!ちょっと聞いて。昨日ある雑誌読んでたんだけど、その中でね面白い話題を取り上げてやーたんやけど。聞きたい
?」
彼女は僕の返事も聞かずに話を続けた。
「あのね、『もしこの世界が全て夢だったら』ってタイトルなんだけど。」
そのフレーズには聞き覚えがあった。なんだっけ・・・。そうだ、僕もその雑誌を読んだんだ
「あぁ・・・。それなら僕も読んだかも・・・。」
「ほんま!どうやった?私的には凄く面白い内容だと思うんだけど」
「ん~どうだろね。個人的には質の悪い宗教みたいにも感じれたけど。」
「もぅ~。翔には夢がないの?もし、そうだったら面白くない?」
「面白いけど・・・ねぇ?」
すると彼女は少し拗ねたように下を向いた。その仕草が可愛く僕は彼女の頭の上に手を置いた。
坂上の分かれ道で早紀と別れそれぞれの家路に付いた。
家に帰るやいなや自分の部屋に入り布団に潜り込んだ。どうもさっき早紀と話した事が頭から離れない。
「全てが夢・・・ねぇ。」
いつの間にか僕は眠りに付いていた。