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冬隣の貴方に


「朝あったらいきなり抱きついて泣きついたら?」

「キスしちゃえよ」

「なんで我慢しちゃうの?人間なんて愚かな感情しか抱かないのにさ。たった一つの言葉で一喜一憂しちゃって。大変だよね、まぁ…それが恋ってやつなんだろうけど…」


黒い彼女は夜にまた心に現れた。

「もう勝手にしてよ…」

私は膝を抱えてうずくまる。目が痒くなるほど泣いてしまった。


どんな顔で彼に会えばいいの。スマホに一通のメールが届く。きっと彼からだろう。


見たくなかった。もしも拒絶のメールだったら、諦めかもしれない。


それでもメールを開いてしまう。枯れたはずの涙が再び潤い始める。


「ごめんね…君の事考えてなかった、今日はゆっくり休んで、無理しないでね」


ただ既読しか出来なかった。手の震えが酷く文字なんて到底打てなかった。


力が抜けてスマホを落としてしまう。

「あ……う……」


呼吸するだけで棘を吸っているようだ。

「優し過ぎるよ…怒ってよ…」


「良いじゃん、彼が謝ってるのにさ、和解しちゃえよ」


さらに黒くなった私が耳元に囁いてくる。


「出来ない…出来ないよ…」

「面倒くさいね…ほんと…」


夜の暗闇に溶け込むように彼女は私の後ろに張り付いてくる。

「もう、手遅れかもね」


もう反論の言葉は口から出なかった。ただ布団に包まって震える体を少しでも温めようとした。


夢の中に早く逃げたかった。



――――

「早くこっち来てよ!」

黒い彼女とはまた別の声が聞こえてくる。幼くて彼に似てる声。


「どうしたの?」

子供の彼は懐かしくて唇を噛んでしまう。


「大丈夫?涙出てる…」

彼は綺麗なタンポポの綿毛をくれた。

「これ綺麗だよ!元気出して!」


え…私は少し戸惑い、震える手をそっと伸ばす。

「ありがとう…」


「えへへ!笑顔だね!」

「…ほんとだ…」


私は自然と笑みが溢れていた。なんで彼を好きになるのか昔から惹かれていく理由があった。


彼の存在で明るくなる。無意識だった。考えることすら無かった。当たり前だったから。


「ねぇ…私の事どう思ってるの?」

「ん?………好きだよ!」


無邪気な笑顔が私の影を薄めていく。

「でも…少しだけ素直になってもいいのにな…沢山甘えても僕は大丈夫だよ!」


そっか…私は逃げてるんだ。今の彼と向き合わないといけないのに。


私はしゃがんで目線を合わせる。

「ずっとそのままでいてね」

「うん!」


 

いきなり巨大な影に引っ張られた。


―――

「夢…そっか…喧嘩してる…」

意識が混沌とする中ベッドから体を起こす。

彼からのメールはあれ以降来ていなかった。


「謝らないと…」

メールを送ろうとした瞬間に影が落ちる。指が動かなくなる。

葛藤する私を横目に黒い彼女は優越な笑みを浮かべてる。


「送らないの?それとも送る勇気がないの?気まずいから?」

送信ボタンが押せなくなる。直接の方が良いかもしれない。でもすぐ謝ったほうが大事にならずに済むかもしれない。


「優柔不断だね」


急いで着替えて彼の家に向かった。黒い彼女の声なんて気に入らなかった。


インターホンを鳴らすと彼の母親が出てくる。

「ごめんなさいね…美智也はもう学校に行ってね…」

「そうですか…すみませんいきなり来てしまって…」

彼の母親は少し俯いて言葉を放つ。

「気を付けてね…少し元気なさそうだったから…」


「え…う…そんな…」

爪が食い込むほど手を握る。取り返しのつかないことをしたかもしれない。


私の体は酷く震えている。浅く礼をしてその場を後にして学校に向かった。


色んな人の話し声や車のエンジン音も耳に入らない。孤独の世界に入ったように全て通り過ぎる。


学校に着いて昇降口にいる吹雪さんに話しかける

「ねぇ…美智也くん見かけた?」

「美智也くん?今日は見かけてないかな……朝早く来て校舎裏で寝てるかも…」


教室に荷物を置いて校舎裏に向かおうとした時誰かに話しかけられる。

「椛さん…だよね、ちょっといいかな」

「白鷺くん?どうしたの?今急いでて…」


「美智也の事で少し話がしたくてね。元気無かったから何かあったのかなって」

私は顔を青ざめて唇は震える。

「あ…無理に言わなくていいから!ただ…大丈夫かなって…」


「私が悪いの…」

震えた声で話す。

「後で話そ。今は美智也の所行ったほうがいいね…」

「うん…ごめんなさい」


走って向かう。階段で足がもつれこけてしまう。痛みは感じなかった。ただ彼に会うために力を振り絞って向かう。


「美智也くん…」

彼の姿はそこにあった。木陰に包まれながら寝るこれは神秘的で触れられない、触れてはいけないそんな雰囲気だった。


その隣には誰かがいた。普段だったら私が隣にいる。その場所に誰かがいる。何か話しているようだった。


私は彼に見つからないように角に隠れる。立ってるのがままならなくなり、膝から崩れ落ちる。


「誰…なの…」

私はもうこの場所にいたくなかった。足音を消して教室に向かった。


「椛さん!どう…だった…」

私はきっと酷い顔をしている。

「私…いる意味あるのかな…」

「うん!当たり前だよ!」


「でも彼の隣に知らない人がいた…」

「え…吹雪さんじゃなかった?」

少し間を開けて話す。

「うん…知らない人だった」

「そっか…でも!勘違いかもしれない!まだ」


私は彼の言葉を遮って話す。

「ううん…もう大丈夫だから…」

彼は少し俯く。

「僕が話してくるから、何とかする!絶対諦めないでよ!」


そんな事言われても、彼の隣に私はいない。


美智也くんは授業が始まっても教室に戻って来なかった。白鷺くんも同じだった。保険室の先生と話しているらしい。


色んな人に迷惑掛けてる。なのに私はただ座っているだけ。どうすることも出来ない。私が原因なのに。その思いが私を突き動かした。


授業中もお構いなしに席を立って教室を後にする。周りの静止も無視して彼の所に向かった。


「うん?何してるの」

誰かに呼び止められた気がした。誰かと話すそんな悠長な暇なない。


そう思って走り去ろうとする。その時肩を掴まれてしまい動きにくくなる。

「え、離してください…」

「駄目よ…授業中なのに。着いてきなさい」


きっと怒られる。面倒事にはしたくなかったので先生についていった。


着いた先は生徒相談室だった。

「さぁ、座って」

「えっと…カウンセラーの先生ですか?」

「はい!少し貴方と話がしたくて」


「でも私急いで」

「知ってるわ。でも急ぎすぎるとこけてしまうわよ。話してほしいな君の事」


「実はその……彼氏と喧嘩しちゃって…」

「そうねぇ…喧嘩…具体的にどんなふうに?」

「私が一方的に拒絶して…でも!嫌いになったとかじゃなくて…もうどうしたらいいか分からなくて」


「貴方は良い人よ。悪くないわ」

「私が彼の純粋な心を汚してしまいそうで…私が彼に嫉妬したりして我慢出来なくなりそうで…」

「十分よ。これ以上自分を卑下しないで。状況は把握出来たわ。貴方は良い人過ぎて心が疲れてしまう。嫉妬は仕方ないわ、それだけ彼の事を想っている証拠よ。それに我慢できるのはもう大人と一緒よ。それで彼はどんな反応してたの?」


膝の上で手を握る

「悲しんでました。きっと傷ついています。私の事嫌いになったかも」

先生は少し頷いた。

「心配しないで。きっと貴方が思う以上にお互い想い合っているわ。すれ違いがあっただけで話し合えばきっと分かるわ」


「貴方はどうしたい?彼とまた仲良くしたい?」

迷いなく涙目で大きく頷いた。

「はい!もう彼を悲しませたくありません…」


「なら…きっと大丈夫よ…彼と向き合えば分かり合えるよ…時間を取ってしまってごめんなさいね。もう行って大丈夫よ…」


「ありがとうごさいました」



急いで保健室に向かったが誰もいなかった。

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