秋雨に溢れた感情
朝の目覚めには強すぎるメッセージが届いた。
「少し熱が出たから学校休むね」
僕はどんな返事をしたらいいのか分からずに既読だけしてスマホを閉じる。
スマホを持つ手が震える。今からでも彼女の家に行って看病したかった。なのに足は震えるだけだった。
ただ無気力に学校に向かう。なんで気づかなかったのか。無理してたのかもしれない。僕が気づけてたら今頃笑顔だったかもしれないのに。
たった一つの席が空いてるだけなのに、こんなにも損失感が強いのだろうか。
何もしなくてもため息が出る。
「全く…悩み事なら友達を頼れよな」
なんでこんな時に現れるのか。
「白鷺、どうかしたのか?」
「それはこっちのセリフだよ。椛さんが休んでるからテンション低いのか?」
「そうだね…でもそれだけじゃなくて…体調悪いらしいから心配…」
「メールは送ったの?」
「いいや…特に」
「え?大丈夫?とか送らないと…言葉だけでも案外体調は良くなるものだぞ」
「後で電話するよ」
「頑張ってね。ちゃんとお見舞い行けよ」
「言われなくても行きますよ」
満足そうに笑って教室から出ていく。
嵐のように来て嵐のように去っていく。来るときいつも荒れてる時なんだけどな。
早く学校が終わってほしいと思っていた。終業のチャイムと同時に僕は彼女に電話をする。
1コール
2コール
3コール
――――
8コールが鳴ると着信拒否されてしまった。
もう一度電話をする。
今度は3コール目で着信拒否をされた。
3度目の正直で電話をする。
今度は1コール目で出てくれた。
「大丈夫?!ごめんねメール送れなくて…」
「うん…大丈夫だよ…心配しないで…」
苦しそうな彼女の声に胸が締め付けられる。
「今すぐ、家に行くから!」
電話を切って彼女の家に行く。道中で花を買う。
時雨が降る中僕は必死に走る。寒いも疲れたも感じなかった。
そして彼女の家に着いてゆっくりインターホンを鳴らす。何回鳴らしても誰も出てこないので扉を引くと鍵は掛かっていなかった。
勝手に入るのは気が引けるので一応彼女にメールをして許可を得てから家に入った。
彼女の家はシンプルで無駄な物が少なく見える。一歩を踏み出すたびに床の軋む音が無音の家に響き渡る。
明かりのついている部屋を見つけてノックする。
ドアを開くと彼女はベッドにぐったりとして寝ていた。
こちらの存在に気づいて身じろぎをしてこちらを見ようとする。
「大丈夫?」
僕は彼女に近づいた。
そっとおでこに手を当てようとする。
その時病人とは思えない力で手を払いのけられた。僕は一瞬何が起きたのか分からなかった。
「早く帰って…」
「え……な、なにかしたかな…」
僕はビニール袋をベッドの側に置いて彼女に近寄る。
「ごめんなさい…迷惑だったかな…」
少しだけ手に触れた。彼女の手は冷たくて生きているのか分からなかった。
「触らないで!」
彼女は僕を押しのけるように突き飛ばす。
「帰って…お願いだから…」
震える声で言う彼女の肩は震えていて顔は髪で見えなかったがベッドのシーツに一つ二つの染みが出来ていた。
窓の外から雨脚の強まる音が聞こえる。
どう声をかけていいか分からなくなった。これ以上何かいったら嫌われるかもしれない。でも謝罪の言葉も見つからない。
僕はこれ以上彼女を怒らせないように一度も振り返らないで部屋の扉を閉める。
扉を閉める音だけが廊下に響く。
この場に立っていられなくなって泣き崩れてしまう。彼女を怒らせた事も全て僕のせいだ。
ここは人の家だと思い出して急いで玄関を飛び出す。
人の目線もどうでも良かった。なんで嫌われたのかあんな態度だったのか分からない。
朝のメールを返事しなかった事が原因かもしれない。手が真っ白になるほど握り締めてしまう。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
夕日は海の底に沈んでいた。




