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文化祭③


僕は帰り道でこんなにも寂しい事は無かった。空いた隣の空間をいつまでも見つめてしまうぐらいに彼女の事を想っていた。


右手には清々しい風が吹き付けて温かい体温を容赦なく奪っていく。


このまま家に帰りたくなかった。


公園のベンチに座って空を見つめる。


「一番星が貴方を照らしていますよ」

声のする方を見つめると吹雪さんと白鷺くんが恋人繋ぎをしながらこちらに近づいてきた。


「こんな所で何をしてるの?椛さんと喧嘩したとか?」

「ただ…気まずいだけ………好きって伝えたから…」


二人は少し間を置いて声を出して笑い始める。

「え?……何か変だったかな…」

「ごめんね、大丈夫だよ…君はおかしくないよ……でも心配する必要はないと思うよ。椛さんはきっと自分らしい答えを出すと思うよ」

吹雪さんは優しく親が子ども見守るような目線でこちらを見る。


「美智也は好きを伝えたんでしょ。それなら立派だよ。自分の想いを自分の言葉で相手に伝える事は簡単に出来るものじゃないからね………好きと言った君は立派だよ。後は椛さんの答えを待つだけでいいよ」



何度呼吸をしても息を捨てている気がしなかった。


夕焼けが終わり薄暗いだけの小道に彷徨うだけだった。


玄関の扉はいつも以上に開けづらかった。


「ただいま」

「おかえりなさい。ご飯出来てるから冷めちゃう前に食べなさいよ」

「分かった」


重苦しいため息が暗闇の一人部屋に溢れかえる。勢いで言ってしまった。放課後の気まずさは恐怖でしかなかった。


彼女からの返事は何もなく、明日の文化祭の後に伝えるらしい。今日は考えたいから一人で帰ると言って先に帰ってしまった。



少し出来た切傷の手当てをしていると消毒液の匂いが鼻を突く。

「あれ…」


この匂いあの日の病院と同じ匂いがする。なんか、彼女と同じような人と病院で会ったことあるような。


僕は、なんで病院にいたんだ、あの人は誰なんだ


それだけを思い出してしまうと急激な頭痛に見舞われる。知りたいのにあともう少しで大切な事を知れそうなのに。


なんで、どうして、頭が空っぽに感じる。愚かな僕を見つめるようなアルバムは暗闇に飲み込まれている。


力なくベランダに出る。


ただ星空は僕の寂しさも辛さも孤独も包みこまない。でも見てくれる。何もしない、それが一番して欲しいことかもしれないのにどうしても傲慢になってしまう。


一等星は僕を嘲笑うことも微笑む事もしない。ただ輝きの象徴でいるだけだった。


「どうすればよかったの?」

自然と溢れた感情に彼女はどう思ったのか。


「ごめんね。今は返事出来ない…」


どんな表情だったのか、どんな声色だったのか知る由もない。ただ彼女の残り香だけが頭の中に漂っているだけ。


泣きたいのに涙が出てこない。夜に抱きつきたいのに何もかも消えてゆく。


震える左手で視界をそっと遮る。


こんな思いを抱えて生きていくことは正しいことなのかな。


「好きと言えた事は立派だよ」


思い出す彼の言葉がどうしようもない感情の答えだった。

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