文化祭
温かい日差しに包まれて起床する。
僕は目覚めるとまず彼女に連絡をする。これが日々の日課である。
「おはよう!美智也くん!今日も一緒に学校行こっか!」
彼女に会えるだけでウキウキする。震えた手で返信する。
少し浮かれた様子で身支度をする。玄関の扉を開けると彼女が佇んでいた。僕が姿を現すと彼女はいつもの笑顔で話しかけてくる。
その笑顔が一番好きだ。でも口には出来ない。今日も生きたいと思える、学校に行きたいと思える理由はすぐ側にある。
学校までの距離は遠いはずなのにいつの間にか到着している事がほとんどだ。
そして授業が始まると時が止まったように感じる。それでも彼女の姿を見る度に時計の針は動き出す。
そして昼休みになる。
「そういえば、小物作り終わった?まだあるなら手伝うよ」
「大丈夫だよ、吹雪さんと白鷺君にも手伝ってもらえて早めに終わったから」
「これ、食べる?」
突然の提案に戸惑ってしまう
「え?あ…いいの?」
「うん!私が作ったから!口開けて」
少しためらってゆっくり口を開ける。ふわっとした卵焼きの風味が口に広がる。
「美味しい?」
「うん。甘くて美味しいよ!」
「良かった……」
椛さんは右手をそっと撫でる。薬指の小指に絆創膏が貼ってあるのを僕は見逃さなかった。
卵焼きを作る工程で怪我するのかな。
昼休みが終わって文化祭の前日準備に取り掛かる。
白鷺くんと吹雪さんが演劇の主役とヒロインをすることになったらしい。
椛さんは友達役をするらしい。それでも凄いなって思う。
「美智也、何してるの?」
「少し休憩」
日陰で休憩していたら白鷺くんに話しかけられた。
「最近吹雪さんと仲良くしてる?」
「うん。ずっと仲いいよ。大好きだから」
「好き……好きってなんだろうね…」
僕は深く考える。そんな姿を見て彼は噴き出すように笑う。
「難しく考えなくてもいいんじゃない。僕は吹雪さんが大切だった。これ以上にない胸が焼け落ちるぐらいの思いだった。好きの定義なんて要らないと思うよ。好きを好きって言えることが大切だと思うよ。辛くて悲しい胸が痛むだけが愛でも恋でもない。儚くて壊れやすい、それでも大切に持って生きている。それで十分だよ」
「分からないけど…何となく理解した」
「全く理解してるようには見えないけど…まぁいっか……」
「それじゃ、練習に戻るね」
「あ!それと椛さんが美智也の事を探してたよ」
「え………それを先に言ってよ…」
僕はゆっくり立ち上がって椛さんを探す。それでも広い校舎から1人を探すのは困難な物だった。
「疲れた…」
僕は校舎裏でまた休憩をする。木漏れ日は孤独を明るみにする。椛さんに会える気がしない。なぜが悲しくなる。
汗なのか涙なのか分からない水滴がアスファルトにシミを一つ二つ作る。
「あ!見つけた…」
声をする先を見ると椛さんがいた。なんであんなに必死に探してたのか分からなくなった。
彼女は僕の表情を見て心配そうに隣に座る。
「大丈夫?何かあったの」
「大丈夫だよ…ただ…悲しくなって…」
彼女は僕の涙を指でそっと拭く
「私がいるから大丈夫だよ…側にいてあげるから…今日も明日も貴方だけを思っていますよ…」
彼女の言葉に僕は目を見開く
「それって…」
彼女は自分の言った事の意味に気づいたのか慌てて話す
「あ…ちが…そうじゃなくて……思うのは…大切に思ってる意味で…友達として…みたいな…」
その言葉を、聞いて僕はションボリする。勝手に舞い上がってしまった自分に嫌悪感を抱く
「あ……大切だから!」
彼女は両手で僕の手を包み込む
「本当に大切だから…信じてほしい…」
沈黙の後に僕は鮮やかな言葉を放つ
「好きです…」
この言葉を言って後悔なんて無かった。ただ自然と言ってしまった、気づいたら口ずさんていた。
静かでこの沈黙がいつもと違って心地よかった。
彼女は驚きのあまり口をパクパクさせて言葉にならない声を言ってるだけだった。それなのに手を握る力は強くなっていた
秋の終わりが僕と彼女を優しく見守っていた。
蝉の声がまだ少しだけ聞こえる。いつまでも夏が続いているようだった。この想いにも終わりが来ないように。
そっと彼女の手を握り返した。




