第5話
「大規模の殲滅戦、ですか……」
「はい、肥大化した魔素溜まりが発見された場合の対処としてですね~。放置しておくとスタンピードが発生してしまいますから」
「魔素溜まり、ですか?」
「魔素溜まりとは、空気中の魔素濃度が高くなった場所のことです。魔物は魔素溜まりから発生するのですが、稀にそういった魔素溜まりが集まって肥大化することがあります」
「肥大化すると、魔物の発生数も増えて、スタンピードに発展する……?」
「そういうことですね~。そうなる前に発生した魔物を殲滅してしまえば、肥大化した魔素溜まりが霧散してスタンピードを未然に防げるって寸法です! まあ、どういう原理かは分からないんですけどね、えへ」
ペロ、と舌を出して笑う兎耳お姉さん可愛いかよ。
「そして万が一、スタンピードや他国の侵攻を受けた場合は街の防衛に尽力していただくことになります。今は隣国との関係は良好ですし、スタンピードもそう起こる事ではないので頭の片隅にでも置いておいてください」
「分かりました」
スタンピードか。
起きてしまったら防衛に徹するしかないほどの災害なら、想像を絶するものなのだろう。
「基本的な説明はこんなところかと思いますが、気になることはございますか?」
「いえ、概ね理解できましたので大丈夫です。ありがとうございました」
「はい、もし気になることがありましたらいつでも当職員にお聞きくださいね。ではギルドカードの発行をいたしますので、ここの水晶に手を置いてもらえますか〜」
目の前に正方形の台座が置かれた。
真ん中には水晶のような球体が取り付けられている。
「これは?」
「これも先ほどの話に出ていた魔導具ですよ~。魔導具にイオリさんの情報を入力しましたので、最後にイオリさんの手を置くとイオリさんの生体情報を読み込んだギルドカードが出来上がるんです~、ささ、どうぞ」
「はあ、凄いですね……」
建物とか街並みは中世ヨーロッパぐらいの文明っぽかったのだが、何だか魔導具だけ異常にハイテクだよな。
少し戸惑いながらも水晶に手を置くと、水晶が発光してから徐々に光が消えていった。
「はい、認証できました。このギルドカードがイオリさんの身分証となりますので、大切に扱ってくださいね〜」
魔導具の差し込み口から抜き取ったギルドカードを渡された。
鉄製の薄いプレートのようなギルドカードは、表面に俺の名前が記載されている。
上部に細い穴が開いていて、紐を通せば首から提げることもできそうだ。
後で見繕っておくか。
「これでイオリさんは鉄級冒険者となりました! 依頼はあちらの掲示板に張り出されているので、ご自分の等級の掲示板に張られている依頼の紙を受付に持ってきていただいたら受理しますので、是非とも頑張ってくださいね~!」
「ありがとうございます。頑張ります」
これで冒険者登録は済んだかな。
そう思い、俺は腰にあった小袋をカウンターに置く。
「早速で申し訳ないのですが、魔石の買取をお願いします」
「は~い、かしこまりました! では、再度ギルドカードの提出をお願いします――わ、凄いですね。この量の魔物をお一人で討伐されたんですか?」
中身を確認されるとやはり兵士さん同様、兎耳お姉さんにも驚かれた。
まあ、一月分のサバイバルで集まった量だからだろうな。
おそらく長期間の遠征なんかしない限り、多くても数日分の魔石をその都度納品しているんだろう。
「ええ、まあ。森を彷徨っている中で魔物と鉢合わせている内に……」
そう言いながら、先ほど貰ったギルドカードもカウンターに置く。
「はえ~、そういう経緯でですね~。失礼しました。こんなに魔石を納品されることが中々ないので驚いてしまいました。では買取査定してきますので、ロビーでお待ちください」
兎耳お姉さんは立ち上がって頭を下げると、奥に引っ込んでいった。
少し時間がかかりそうなので、椅子に座って待とう。
椅子に座るのも久しぶりだ。
サバイバル中は地べたか石とか木の上にしか座れなかったからな。
椅子はいい。お尻の負担が段違いだ。
文明の利器に感動しながら足を休めていると、目の前の床に影が差した。
「よお、少年」
そう声をかけてきたのは、二十代前半ぐらいの冒険者の身なりをした茶髪の男。
肩から背中に剣を背負っているから前衛っぽい。
後ろには黒いローブを着て杖を持った女と、弓を背負った軽装の女だ。
どちらも茶髪の男と同年代に見える。
見たところ冒険者パーティといった感じだな。
「どうも、俺に何か用でしょうか?」
「いや、さっき受付で見えたんだが、あの魔石は君が魔物から手に入れたのか?」
「ええ、そうですけど。一月分溜まっていたものなので」
そう答えると、三人は顔を見合わせる。
なんだなんだ、まさか見た目だけだが年下にたかろうとしてるんじゃないだろうな。
不躾な質問に少し警戒心が高まっていく。
そんな俺の様子を見て、茶髪の男が苦笑を浮かべる。
「ああ、違う違う。カツアゲをしようとしてるわけじゃない。あの魔石を一人で集められる力を持っているなら、パーティに勧誘したいと思って声をかけたんだ」
「パーティ……俺を、ですか?」
「そう、俺達は《虎狼の牙》。俺達三人とこの場にはいないがもう一人の銅級四人でパーティを組んでる。彼女達は後衛でそいつは斥候や遊撃担当なんだよ。前衛が俺しかいないから、前衛を担当できる人を探していてな。君、見たところ俺と同じ剣士だろう? どうだ?」
バランスは良い構成だが、前衛が薄いのは確かに不安要素なのだろう。
とはいえ、まだこの街に来て間もない。
冒険者になってみたはいいものの、今後の方針も何も考えていないのだ。
何しろ異世界に放り出されてからサバイバルを強いられてそんな事を考える余裕もなかったからな。
悪い人たちではなさそうだし、パーティ勧誘も悪くない話だとは思ったが、即断できるほどに魅力的だとは思えなかった。
「あの、俺、まだこの街に来て冒険者になったばかりで、今後の事をゆっくり考えたくて。せっかくのお話ですが、すみません」
「そうか、残念だ……まあ、気が変わったら声をかけてくれよ! その時にはもうお前の席が埋まっちまってるかもしれないけどな!」
頭を下げて勧誘を断ると、茶髪の男が少し肩を落としながら陽気に笑う。
「ありがとうございます、えっと――」
「ああ、すまない、まだ名乗ってなかったな。俺はロンド。こっちはサーシャとルーシーだ」
「サーシャよ」
「ルーシーです」
腕を組みながら名乗る黒いローブの女がサーシャで、軽装の女がルーシーと名乗った。
「俺はイオリ・クルスです。今後も同業としてよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな。んじゃ、邪魔したな。ソロでやるのはいいが、無理だけはするなよ」
「ご忠告、感謝します」
「おう、またな」
ロンドが後ろ向きに手をひらひらと振って去っていく後ろを、サーシャとルーシーが追いかけていった。
パーティか。
確かに一人じゃ勝てない敵にも勝てるようになるんだろう。
ただ、果たして俺の不死身の能力を受け入れてもらえるのだろうか。
気味悪がられたら?化け物だと思われて剣を向けられるかもしれない。
そういった不安もあったから、その手を取るのに躊躇してしまった。
「しばらくはソロでやるしかないよなあ……」
「イオリさ~ん! 受付までお越し下さ~い!」
兎耳お姉さんの呼ぶ声が聞こえたので、受付へと足を向けた。




