第4話
「ここが冒険者ギルドか……」
リディの道案内で辿り着いた建物を見上げながら、呟く。
乱雑とした酒場の延長線上みたいな想像をしていたんだが、外観を見ると市役所みたいな印象を受ける。
道中、気になっていたこの国の貨幣制度についてリディに聞いてみた。
どうやら、ここはユードラス大陸にあるシェルキア王国、ガルドニア辺境伯領なのだが、貨幣は大陸共通らしい。
単位はゴルド。ユードラス硬貨が流通しており、鉄貨が一枚十ゴルド、銅貨が一枚百ゴルド、銀貨が一枚一万ゴルド、金貨が一枚百万ゴルド、白金貨が一枚一億ゴルドだとか。
鉄貨以外は百掛けづつの価値になっているから、一度覚えてしまえば分かりやすいな。
しかし、金貨は目にする機会はあるかもしれないが、白金貨なんて生涯目にすることはなさそうだな。
リディにそう言うと、国庫にあるか大商会や冒険者ギルドが取り扱っているかどうか怪しいレベルの幻の貨幣らしい。
物価はどうなっているのかも聞いてみたが、日本にいた頃に聞く額と大差ないので、円=ゴルドって感覚でいてよさそうだ。
隣にいるリディに視線を向ける。
「リディ、案内ありがとう。手続きが終わるまで待っててくれるか?」
「分かった。表で待ってるよ。冒険者には柄の悪い奴もいるから気を付けてね、イオリ兄ちゃん」
「おう」
手を振るリディに手を上げて応える。
そして建物のドアを開いて中に足を踏み入れた。
ギルドの建物内は外観のイメージとの相違はなく、広いロビーに受付があり、どことなく清潔感がある。
今が日が昇った昼時だからかもしれないが、人もまばらだ。
受付に並ぶ人も少ない。
早速空いている受付の前に行き、下を向いて書類らしきものを見ていた受付のお姉さんに声をかける。
「あの、冒険者登録をしたいのですが受付はここで合っていますか?」
紺色の髪の上に生えた兎耳がぴょこん、と動いた途端、お姉さんがガバッと顔を上げた。
「わ、申し訳ありません! えっと、冒険者登録ですね! 少しお待ちください」
焦った様子のお姉さんの口元に光るものが見えて、この人もしかして寝ていたのではなかろうかと思ったが、わざわざ口には出さない。
閑散としている時間帯のようだし、お昼時って眠くなるよね。
分かる分かる。
それにしても、お姉さんの頭に生えた耳は飾りじゃないよな。
耳以外は普通の人間に見えるし、獣人にもいろんなタイプがいるんだな。
わたわたしているお姉さんの挙動にほっこりしていると、お姉さんが紙を手に戻ってきた。
「お待たせしました~。こちらが冒険者登録用紙です。まずは各項目の記入をお願いします」
「分かりました」
登録用紙を受け取り、渡された羽ペンとインクでぎこちない手つきで書こうとする瞬間、手を止める。
そういえば、言語は何故か日本語に聞こえるが、文字はどうなんだ?
流石に異世界で日本語表記は違和感が半端ない。
「あの~、もしよかったら代筆いたしましょうか?」
迷っている様子を見かねてか、恐る恐るお姉さんが声をかけてきた。
非常にありがたいのだが、書こうとしておいて文字が書けませんでしたは格好がつかない。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
思い切って日本語で書いてみて、駄目だったらその時は母国語ですみませんと改めて代筆を頼もう。
意を決して羽ペンを動かすと、日本語で書いているはずなのに知らない文字を流れるように書いていく。
書き終わった文字を見ると、不思議なことに自分の名前だと認識できるようだ。
本当に意味が分からないが、どうやら異世界言語に障害はないらしい。
そのまま他の項目も書ける部分を埋めて、お姉さんに書き終わった登録用紙を渡す。
「はい、ご記入ありがとうございます。イオリ・クルスさん、ですね。種族は人族。年齢は35歳、と……ん? さ、35歳!?」
お姉さんが年齢の欄を読み上げてから、俺の顔を二度見して驚いた。
ああ、そうか。
俺の外見は若返っていて十代に見えるんだった。
「申し訳ありません。書き間違いで、年齢は17歳です」
「あ、そうですよね〜。人族の方じゃないのかと思いました。では17歳に訂正、と……出身はニホン? ですか?」
「東方の島国の国名です。ご存知ないですか?」
しれっと違う世界の国名を出して反応を窺うが、特に怪訝な表情はされなかった。
「聞いたことないですね〜。まあ大陸外の知らない国名はよくありますので問題ないでしょう。はい、はい、他の項目は特に問題はなさそうですね〜」
そんな適当で大丈夫なのか、と思ったが、たかが駆け出し冒険者の出身地なんてそこまで細かく気にすることでもないのだろう。
「冒険者について何かご質問はございますか~?」
「冒険者については何も分からないので、基本的な事を教えてもらえますか?」
「かしこまりました~。まず、冒険者についてですね~。冒険者とは、魔物を討伐を主目的とした職業です。冒険者ギルドが設立された当初、魔物討伐を目的としていたので、それが現在に至るまで続いています。ですが、時を経るにつれて魔物討伐以外にも、護衛、採集、調査といった多岐に渡る依頼も今ではこなすようになっています。当ギルドはそういった依頼の管理・仲介をする組織となっています。ここまではいいですか~?」
「はい、大丈夫です」
「はい、続けますね~。冒険者には等級が分けられていまして、最初は皆さん鉄級から始まり、等級に見合った依頼の達成や魔物討伐数といった実績が優れた方を、ギルドが評価して昇級していく制度となっています」
「魔物討伐数というのは、どうやって数えているんですか?」
「魔石が討伐証明になりますね~。当ギルドでは魔石の買取をしていますので、その買取数が魔物討伐数として記録されるんですよ~」
まあ、そうだよな。
魔物を倒すと消滅して残るのは魔石だけだし、それ以外に証明がしようがない。
魔石という単語が出たので、この機会に聞いてみる。
「すみません。話が脱線してしまいますが、魔石というのはどういった用途に使われているのですか?」
「あら、イオリさんの故郷では魔導具はないんですか?」
「魔導具? は、はい。俺の故郷ではなかったです」
「そうなんですね~。魔導具っていうのは魔石を動力源とした道具のことで、冷蔵庫とか魔導灯とか色んなものがあるんですよ~。この大陸では、魔導具が人々の生活の助けになっているんですよね~。なので、昔から需要が途絶えることがない必要不可欠な物資として取引されています」
この世界では魔石が電力の代わりを担っているのか。
で、魔導具は家電製品や街灯といったもののことか。
異世界で生活レベルの心配をしていたが、そういった便利なものがあるのならそこまで不便に思うことは少ないかもしれないな。
良い事を聞いた。
魔石が生活に直結しているのなら確かに需要が無くなることはないし、魔物を倒せる力があれば冒険者というのは安定して稼げそうだな。
「なるほど。魔石の買取をすることでギルドは魔石の流通の中心になれる、冒険者は収入源と自分の実績を形として残せるんですね」
「あはは、まあそんな感じです! ギルドの大事な財源が魔石なのは否定できないですね~。なので、イオリさんにも沢山納品してもらえると大変助かります!」
「はは、丁度この後、魔石の買取をお願いしようと思っていたところです」
むしろこれが本題なまである。
今日を生きる糧すらない状態なのだ。
死活問題である。
「承知いたしました~、では後ほど買取もしましょう!」
「はい、よろしくお願いします」
「はい、では話を戻しまして……冒険者の方々には日々、依頼を受けながら魔物を討伐に貢献してもらいます。そして、有事の際には大規模の殲滅戦や街の防衛に協力義務が課せられます」




