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イモータルニート ~異世界でも働きたくないのでネオニート目指します~  作者: 狛月ともる
第一章

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第1話 

 目を覚ますと、木々の合間から覗かせる青空が視界に広がった。


「ん……あー、良く寝たわ」


 むくりと起き上がり、背伸びして身体をほぐす。

 まだ覚醒しきっていない頭のまま、辺りを見渡す。


 辺り一面、どこを見ても木々しかないところを見ると、どうやらここは森の中らしい。

 森の中で俺は寝ていたということになるが、そこまで至った経緯に心当たりがない。

 記憶を掘り返してみれば、最後に覚えているのは目の前に迫るトラックと今まで受けたことのない物理的な衝撃だ。


「そうだ……俺、確かにトラックに轢かれたよな。あの後にトラックを避けることなんかできるわけないし、どう考えても即死案件だわ」


 となると、間違いなく俺は死んだことになっているわけだが、一体全体、何がどうなって森の中で寝ている状況になるのだろうか。

 普通に考えても分かるわけもない問いに、一つだけ思い当たる答えがあった。


 ネット小説を読み漁っていた俺だからこそ、もしかしたらと思いつく現象。

 現実に起こりうることなんてあり得ないが、もし自分がそうなったらどうするか、なんて妄想をはかどらせることができる素敵な超常現象。

 今の状況に当てはまるものを、俺は知っている。


「まさか――ここは異世界なのか? 俺、転生したの? マジ?」


 ――異世界転生。

 味がしなくなったのに更に長時間噛み続けられたガムの如く、ネット小説で使われ続けている題材だ。

 トラックに轢かれて異世界に転生しました、なんてありきたりな展開がまさか自分に起こるとは夢にも思わなかったが、頬をつねったらちゃんと痛いし、これは間違いなく現実なのだろう。


 死んでしまったのは確実だろうから、おそらく元の世界には戻れはしないだろうな。

 特に未練はないが、世話になった両親を残して先に逝ってしまったことだけは胸が痛む。

 親不孝をしてごめんよ。

 でも、穀潰しが最後に人助けをして死ねたから、不肖の息子でしたが誇りに思ってくれたら幸いです。

 父さん母さん、愛してくれてありがとう。

 俺は異世界で頑張っていくよ。


 しばらく感傷に浸っていたが、ふと自身の身なりに違和感を覚えた。

 今更ながらに気付いたが、服装が見たこともないものに変わっていた。

 スーツを着ていたはずなのに、麻っぽい生地の服の上から革でできた防具のようなものを身に纏っている。

 どうりでなんかごわごわすると思ったわけだ。

 腰には短くも長くもない剣を帯びている。

 俺の中のイメージにある駆け出しの冒険者っぽい身なりになっているが、もちろん身に着けた覚えはない。


 体型にも変化が出ている。

 長年の不摂生によって膨らんでいた腹が引っ込んでおり、肌がどことなく若々しい。

 全体的に身体が引き締まっている感覚がある。

 事故でぐちゃぐちゃになったであろう俺の身体を、いるのかいないのか分からん神様とやらが作り変えてくれたのだろうか。

 ありがとう、神様。

 ただ、できれば転生前に事前説明をして欲しかったです。


「これが異世界転生だとすれば――ス、ステータス、オープンッ!」


 声に出すのは恥ずかしいが、これは確認しておかねば。

 しかし、声に出して言ってはみたがしばらく経っても何も起こらない。

 言い方を変えて何度か試したが、うんともすんとも言わない。


 辺りに静寂が立ち込めると、誰もいない中一人恥ずかしさに悶える。

 ふう、確認作業とはいえ、精神を削られるぜ。

 これはなかったことにしよう。


「ふーむ、分かったのは状況からして異世界に来たのはほぼ確定ということだけか。なんにせよ、ここでこうしてても仕方ないし、とりあえず街を目指すか」


 周りは木々が生い茂り、道らしい道がない。

 どの方角に行けば街があるかなども分からない。なんなら方角すら分からん。


 というか、そもそもこの世界に人類が存在するのかどうかも定かではないが、そこを考えていても意味を見出せないので、存在することを前提に物事を考えよう。

 分からないことだらけの上、何かしらの転生特典を貰った覚えもないことから、今の俺は争いごとに縁のないただの引きこもりだ。


 野生動物に襲われる危険もあり、何より飢え死にする可能性がある。

 一刻も早く街に辿り着くか、せめて水源を見つけないと。


 闇雲に道なき道を歩いていると、茂みがガサガサと揺れだした。

 ビクッと動きを止めて、未だ抜いたことのない剣の柄に手をかけて、揺れ続ける茂みを注視する。


 茂みから姿を現したのは、灰色の体毛を身に纏った狼だった。

 だが、その身体は俺の腰ほども高さがあり、普通の狼よりも大きく感じた。

 もっとも、普通ではないと感じたのは、狼の目がルビーのように真っ赤に染まっていたからだった。


 ――魔物。

 俺の脳内ファンタジー知識と、直感で目の前の生物をそう判断した。


 グルルルル、と唸り声を鳴らし、俺を獲物として狙っているのが分かった。

 腰が引けて、震える足でじりじりと後ずさる。

 後ろに下がった分、灰狼が距離を詰めてくるので、灰狼との間合いは変わらない。


 ゴクリ、と喉が鳴る。

 異世界に来れた、と喜んだのも束の間、何の能力もないまま森の中に放り出され、魔物と遭遇してしまった。

 物語のような主人公なら、ここでチートスキルの確認がてら、あっさりと倒してしまうのだろう。

 だがこれは紛れのない現実で、ここにいるのはへっぴり腰のビビり散らかしたただの引きこもりだ。

 それでも、このままでは飛びかかられて殺されるだけだ。

 覚悟を決める必要がある。


 深呼吸をして、震える手で剣を鞘から抜き、中段に構える。

 幸い、この身体はそれなりに筋肉がついており、特段剣の重みを感じることはなかった。


「覚悟決めろ、俺! どうせ一度死んだ身だ。やってやるよ……来いや犬っころ!」


 俺が戦闘態勢に入ったところで、灰狼が飛びかかってきた。


 かろうじて動きを目で追えるほど跳躍した動きは素早く、咄嗟に身を捩ってゴロゴロと転がりながら避ける。


 灰狼の爪が掠ったのか、二の腕から血が滲む。

 立ち上がった頃には灰狼が再びこちらに飛びかかろうとしていた。

 灰狼の足が地を蹴ったのと同時に、左側に避けながら剣を振る。


 ぶつかった衝撃と肉が裂けるような感触が剣から伝わるのと、灰狼の悲鳴に近い鳴き声が辺りに響くのは同時だった。


 そこまで深くはなさそうだが、腹が裂けて灰狼がのたうち回っている。

 すかさず近づき、灰狼の首に剣を突き刺す。

 何度か突き刺して止めを刺すと、灰狼の身体が黒い霧となって消滅した。

 それとは別に、うっすら輝く白い光が俺の身体に吸い込まれていく。


 残ったのは、饅頭ぐらいのサイズの黒い石だった。

 拾い上げて観察しても何かは分からないが、魔物が消滅した後に唯一残ったものだから懐にしまっておく。


 そこで張りつめていた緊張の糸が切れて、荒くなった息を吐きながら腰を落とす。

 興奮していて気付かなかったが、頬が切り裂かれていて血が流れている。

 今更ながら頬と二の腕がじくじくと痛みだして顔を顰めた。


「はあ、はあ、な、なんとかなったな……それにしても、魔物は死ぬと消えるし、なんか光が俺に吸い込まれてったし、残った黒い石は何かは分からないけど、ここはゲームみたいな世界っぽいな。と、なると……さっきの光は経験値的なものなのか?」


 人に聞いて情報収集しないことには確証は持てないので、この世界のことは後回しだ。


 森の中に魔物がいるなら、さっさと森を抜けたい。

 見晴らしのよい場所なら先程のような鉢合わせも避けれるだろう。


 先を進もうと腰を上げた時、再び茂みの奥からガサガサと音がした。

 先ほどとは違い、今度は複数の気配と音がした。


 それを認識した瞬間、俺は地を蹴って反対方向へと駆け出した。


「流石に複数は無理だろおおおおおお!!!!」


 後ろをちらり、と一瞬振り返ると、先ほどとは別個体の灰狼が複数体追いかけてきている。

 倒した灰狼は、たまたま少しはぐれただけで群れで行動していたらしい。

 追いつかれたら一巻の終わりだろう。

 立て続けに迫る死の恐怖に足が震える。


 懸命に駆けていると、木々の間隔が疎らになり、森から抜けつつあるのが分かった。

 後ろから迫る獰猛な気配はすぐ側まで来ており、追いつかれる寸前でついに森を抜けた。


 そして、目の前の光景に絶望した。

 地面が途切れており、その先は崖。

 先に進むことができなくなり、足が止まる。


 動きを止めた俺に、灰狼が襲いかかる。

 反射的に剣を盾にして、噛みつこうとする灰狼を弾き返す。

 すかさず別の灰狼が飛びかかり、俺の肩に噛みついてきた。


「ぐっ!」


 牙が肉に食い込み、激しい痛みが襲う。

 灰狼の巨体の勢いに吹き飛ばされ、灰狼と共に地を転がる。

 その先の崖に、俺と灰狼は宙に投げ出された。


「う、うわああああああ!!!!」


 あ、終わったわ。

 一瞬の浮遊感の後、重力に逆らえずに落下していく感覚で俺は気を失った。


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