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44 呪いは愛に

 学園に、再び華やかな夜が訪れた。

 仕切り直しとなった学内パーティーの開催を告げる鐘の音が、夕闇迫る空に響き渡る。メインホールは、慌ただしくも以前よりも一層きらびやかな装飾が施され、生徒たちのざわめきと、軽やかな音楽が満ちていた。


 あたしはヘンドリック様の隣に立ち、少しばかり緊張していた。

 今日、あたしは、彼の瞳の色に合わせたエメラルドのペンダントを身につけていた。ジルベール様が手配してくれた、彼の国では最高級とされる翠玉だ。

 その輝きはあたしの心をじんわりと温めてくれる。


 ヘンドリック様はそんなあたしの様子を気遣うように、そっと手を握ってくれた。その大きな手が、あたしの不安を溶かしていく。


「大丈夫だ。君は最高の輝きを放っているよ、コレット」


 彼の言葉に、あたしは小さく微笑んだ。



 その時、ホールの入口に、再びざわめきが起こった。あたしたちの視線が、自然とそちらへ向く。


 そこに立っていたのは、深紅の夜空を纏ったかのようなドレスを身につけたルイーズ様と、その隣に立つエディーだった。

 ルイーズ様のドレスは、彼女の瞳と同じ深紅でありながら、夜空の星を散りばめたかのように繊細な輝きを放っていた。

 そして、エディーの装いは、以前にも増してルイーズ様に寄り添うように誂えられている。彼はまるでルイーズ様の影であり、同時に光でもあるかのように、彼女の存在を引き立てていた。



 会場の視線が、一斉に二人に注がれる。好奇、驚嘆、そして僅かな困惑。


 様々な感情が渦巻く中、ルイーズ様はまっすぐ前を見据え、その口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。彼女の隣を歩くエディーは、以前のようにルイーズ様の背後に控えるのではなく、一歩も引かず、彼女の隣を誇らしげに歩いていた。

 その表情にはどんな陰りもなく、ただ、ルイーズ様への絶対的な忠誠と、そして深い愛情が満ち溢れている。


 二人の間には誰にも邪魔できない、まるで奇跡が紡いだかのような、神秘的な絆が確かに存在していた。



 あたしはその光景をただ、ぽうっと見とれていた。

 あの東屋での、ルイーズ様とエディーの姿が脳裏をよぎる。

 あの時、ルイーズ様が流した一筋の涙。そして、エディーの包み込むような抱擁。


 彼らはたった一週間前、長年の苦しみと呪縛から解放され、今、本当の愛の形を見つけたのだ。


 あたしが知っていた『乙女ゲーム』のどんなルートよりも遥かに深く、美しく、そして尊いものだった。


 近くにいたアレクシス様が、ぽつりと呟いた。


「妹のあんな穏やかな表情、初めて見たな……」


 ちょうど通りかかったジルベール様が、その言葉に頷いた。


「ええ。あの頃の様子からは、想像ができません」

「本当は、あのように微笑まれる方だったのですね」


 マクシム様も加わり、眩しそうに二人のことを見つめていた。


「それにしても、見事な美しさですわね。まるで、この世のものではないようです」


 ミシュリーヌ様が目を輝かせながらそう言った。彼女の視線も、ルイーズ様とエディーに釘付けになっている。



 ヘンドリック様の温かい手が、再びあたしの手をそっと握りしめる。

 あたしはゆっくりと彼の方に顔を向け、微笑んだ。


「ありがとう、ヘンドリック様」


 あたしがそう言うと、ヘンドリック様は少し驚いたように目を瞬かせ、それから優しく微笑み返してくれた。



 この世界は、もうあたしにとって、『物語』ではない。

 これは、あたしたちが今を生きる、かけがえのない現実なのだ。


 そして、この新しい始まりはきっと、誰もが望む未来へと繋がっていると、あたしは心からそう信じていた。

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