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第1章
「君は残酷な人間だよね」
最後に彼女と交わした言葉は、そのようなことだった。発したのは僕だった。それが本心であったのか、それとも彼女を非難するために突いて出た言葉だったのか、うまく思い出せない。それほど、重要な言葉ではなかった。僕と彼女の間では、そのような相手を貶めるフリをしたり、相手をおもんぱかるフリをしたり、互いにそれが仰々しい演技だとわかっていながらも、ごっこ遊びに興じることが多々あった。
だから、彼女がこの世からいなくなったという知らせを受けたとき、僕のその言葉が原因だと思うことはなかった。原因はどこか別のところにあるのだと確信していたし、命日から数か月が経つ今も、その確信が揺らぐことはなかった。
「死にたい」は彼女の口癖だった。おはようやおやすみの数よりも、多く聞いた気がする。僕はそれを慰める術を持っていなかったし、そうしようとも思わなかった。自分にできないことには無理に取り組まない。だから死にたがる彼女の言葉に対する僕の返事は、いつも決まって「そっか」だった。
僕と彼女の奇妙な関係が続いたのは約一年半だった。奇妙というのは、僕からみた関係性の話であって、彼女から見たそれは、今までの人生における他者とのか関わり合いのごくごく平均的なものであった。僕は、出会った当初こそその関係性に違和感を覚えていたものの、次第に当たり前だと思うようになった。完全に毒されていたし、毒されていることがわかっていながらも、その関係性を捻じ曲げたり、抜け出したりしようとは思わなかった。来るもの拒まず去る者追わず、僕のそうした性質は、僕と真逆の人間である彼女との時間を経ても、ついに変わることはなかった。
その時間が果たして実りあるものだったのか、今となってはよくわからない。彼女のことが好きであったのかと聞かれれば、それには肯定する。いくら来るもの拒まず、といえども、嫌いな人間が頻繁に家を出入りするのを見過ごせるほどの度量はない。だから、結果から考えれば、僕は彼女のことが好きだったし、その時間は実りあるものだっといえるのだろうけれど。
僕は、彼女の訃報を聞いたとき、涙を流すことがなかった。