表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を辿る旅  作者: Natsusaka
1/1

1

 第1章


「君は残酷な人間だよね」


 最後に彼女と交わした言葉は、そのようなことだった。発したのは僕だった。それが本心であったのか、それとも彼女を非難するために突いて出た言葉だったのか、うまく思い出せない。それほど、重要な言葉ではなかった。僕と彼女の間では、そのような相手を貶めるフリをしたり、相手をおもんぱかるフリをしたり、互いにそれが仰々しい演技だとわかっていながらも、ごっこ遊びに興じることが多々あった。


 だから、彼女がこの世からいなくなったという知らせを受けたとき、僕のその言葉が原因だと思うことはなかった。原因はどこか別のところにあるのだと確信していたし、命日から数か月が経つ今も、その確信が揺らぐことはなかった。


「死にたい」は彼女の口癖だった。おはようやおやすみの数よりも、多く聞いた気がする。僕はそれを慰める術を持っていなかったし、そうしようとも思わなかった。自分にできないことには無理に取り組まない。だから死にたがる彼女の言葉に対する僕の返事は、いつも決まって「そっか」だった。


 僕と彼女の奇妙な関係が続いたのは約一年半だった。奇妙というのは、僕からみた関係性の話であって、彼女から見たそれは、今までの人生における他者とのか関わり合いのごくごく平均的なものであった。僕は、出会った当初こそその関係性に違和感を覚えていたものの、次第に当たり前だと思うようになった。完全に毒されていたし、毒されていることがわかっていながらも、その関係性を捻じ曲げたり、抜け出したりしようとは思わなかった。来るもの拒まず去る者追わず、僕のそうした性質は、僕と真逆の人間である彼女との時間を経ても、ついに変わることはなかった。


 その時間が果たして実りあるものだったのか、今となってはよくわからない。彼女のことが好きであったのかと聞かれれば、それには肯定する。いくら来るもの拒まず、といえども、嫌いな人間が頻繁に家を出入りするのを見過ごせるほどの度量はない。だから、結果から考えれば、僕は彼女のことが好きだったし、その時間は実りあるものだっといえるのだろうけれど。


 僕は、彼女の訃報を聞いたとき、涙を流すことがなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ