92話 またお風呂を覗きに来た光宮さんと、なくなった僕のと
「……だ・か・ら! なんで光宮さんはいつもいつもお風呂に間違って入って来るのぉ……!」
「だって今柚希先輩のおっぱいがなんとかって!!」
「ほんとどうやったら聞こえるのそれ!?」
「お風呂場の盗ち――愛です!!」
「そんな愛いらない! こわい!!」
いつもの気配がしてきたから、僕はじゃぶりとお湯から上がってドアのところへ。
お風呂掃除の棒を立て掛ける寸前でドアの取っ手をぎゅるんっと回されて、ちょっとだけ開けられた状態で持久戦。
光宮さんは、いつものドジっ子属性でお風呂に間違って入って来ようとするし、その勢いで「どうせなら幼馴染みの成長っぷりを見るんです!」って謎のパッションで手強い。
……ただでさえ小学校から放課後はいつもスポーツしてて、発育も良くって、いつも動いてて……さらにはダンジョンに早くから潜ってて、しかも獲物が自分の拳っていう男らしい武器なせいで、力が強い光宮さん。
対する僕は……生物学的には男だけども、小学校から発育も遅くって背も低いままで、体重も実は光宮さんより軽くって、
「あ! 私がんばってダイエット」
「しなくていい! ほんとどうして考えてること分かるの!!」
「愛です!! だから開けてください!!」
「そんな愛要らない!! 返す!!」
「受け取り拒否!?」
ドアが、ばきばきと嫌な音を立てる。
……ちなみにこのドアはもう4代目とか。
全部光宮さんとのバトルで犠牲になった。
だって光宮さん……僕に腕相撲ならぬお風呂相撲で勝たないと気が済まないんだもん……あ、さすがに壊したドアのお金は毎回遠慮なく請求してるからね。
いつものこと過ぎて、お母さんも「ケガだけは気をつけてねー」って……元気なときでもスルーだし。
とにかくフィジカルでは負けてる僕。
数ヶ月違いの誕生日で、年の間でちょっとだけ同い年になる女の子相手に全く勝てないんだ。
だけども僕には地の利がある。
内開きのドアだから単純に閉める力の方が有利、しかもあっちは踏ん張る場所が少ないのに対して、こっちは狭いお風呂場だから……ものすごく斜めになると、こうして全身でドアを支えられるんだ。
……いつも最後は根負けしてべちゃってタイルに叩きつけられちゃうけどね。
「とにかく! 僕は男! 光宮さんは女の子!」
「理央です!」
「異性の裸なんて見るもんじゃないの!」
「見るものです!」
「きゅいっきゅいっ」
「ぴぴっ」
僕たちが大声でバトルしてるのを遊んでるって勘違いしたらしく、チョコとおまんじゅうが僕の顔の近くできゃっきゃって遊んでる。
「だってもう1週間見てないんですよ!? 欲求不満です!」
「よく分かんないけど僕の裸なんて見て楽しくないよ!」
「楽しいです! あと柚希先輩のおっぱいがどうとかって」
「空耳だから!!」
脚と腕しか使えない光宮さんに対して、全身を使えてる僕が今のところは有利。
……だけども、いつも持久戦で負けるんだよなぁ……お母さん呼んでも「ほどほどにね♪」とかしか言わないし……。
「あ」
ふと、真下を見ようとした僕の目に、重力でちょっと垂れた僕の胸が映る。
「……こうすると、さっきよりもおっきく見える……あれ? さっきよりおっきいような――」
「――柚希先輩のおっぱいがこれ以上成長したら本当に女の子になっちゃいますぅ!!」
「うわぁ!?」
ばんっと……ああ、上の蝶番がはじけ飛んで……弾けるドア。
「あ、ちょ」
いつもとは違うパターンで、僕は両手両脚を突っ張ったまんまの姿勢でそのままタイルへ叩きつけ――――
「……けほっ……ご、ごめんなさい柚希先輩! いつもより思いっ切り……ケガないですか!?」
「え? あ、うん……なかった……んだけど……」
……顔を守ろうとして、思いっ切りお腹から落ちた……はず。
なのに、ぜんぜん痛くない。
なんか柔らかいゴムみたいな感触だけだった。
「……レベルアップしたから……?」
そういや、僕自身のレベルって結局どのくらいなんだろ。
「柚希先輩――ってぇ!? 柚希先輩!???」
「?」
勝負に負けた僕が、いつも通りにじろじろ見られるのを諦めて……どうせ隠しても腕を広げさせられるから、もう脚を開いて僕の恥ずかしいとこを見せる姿勢で居たら、なんかびっくりしてる光宮さん。
「え? ……え? え、ちょっ、柚希先輩!? 柚希先輩のかわいい柚希先輩がぁ!?」
「え? ……わ、無くなってる」
僕の脚のつけ根、おまたに、顔を突っ込まんばかりに近づけながらびっくりしてる光宮の視線を追った僕。
そこには、僕のおまたにある、コンプレックスな小ささなの男の象徴――は、なく。
「……光宮さんみたいな、女の子のおまた……」
「やんっ♥ 私の見たければいくらでも……じゃないですぅ!? どうして!? どうしてぇぇぇ!?」
慌てふためく彼女が僕のふとももの内側に両手を当ててぐいっとお股を広げてくる。
けども、やっぱり……ない。
僕の、大切だった男としての証が。
「……今ので、取れちゃった……?」
「うそぉ!? 男の子のって取り外しできるんですか!?」
「うん、邪魔なときはそのへんに」
「置いとけるんですか!?」
「え、できるはずないじゃん」
「……ですよねぇぇぇぇ!?」
僕たち2人で何度見ても、そこには女の子のおまた。
男みたいに生えてなくって、むしろめり込んでる不思議な形のそれ。
「?」
「? ……じゃないですよぉぉぉどうしてぇぇぇ! 私が最初に使う予定だった柚希先輩の大切なぁぁぁぁ……」
何言ってるんだろこの子……僕のは僕しか使わないのに。
でもほんと、何でなくなっちゃって……あれ?
力をくいって入れたらちゃんと……あるみたい?
「……?」
……僕の大切な証。
僕が女々しすぎて、とうとうめり込んじゃったのかなぁ。
まぁ、見えないけども「ある」って感覚はあるから別にいいんだけどね。
トイレだって普段から座ってしてるし……あれ?
もしかして、これ……無い方が便利?
なにより小学生みたいにこれを見たがる光宮さんも、女の子のになったら諦めてくれるだろうし……。
大丈夫です、柚希くんのジャンルは男の娘もの……TSものではありませんからご安心くださいませ。
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