8話 お役所でテイマーとして登録
「あら柚希君、お母さんのおつかい? こんなに朝早くえらいわね!」
「おはようございます。 でも今日は僕の用事で」
「そうなの。 ええと、学校関係の……え?」
「はい、ダンジョンの申請で」
田舎暮らしは大変だ。
具体的には、近くの役所までは自転車か車の距離ってこととか、働いてる人が誰かの家族とか。
まぁ僕としては、知らない人が多いよりは知ってる人が多い方が気が楽なんだけどね。
どんな人かってすぐに分かるし……苦手な人もだけど。
なにより、初対面で女の子と間違われないし。
まぁざっと見た感じでは、働いてる人の半分くらいは知らない人だけど……最近、市が統合したからなぁ。
人口減少がやばいらしい。
……なんにもない田舎だからね。
あ、髪の毛が邪魔……帰ったら切ろっと。
「見てー、あの子かわいい……」
「本当だ。 小学生かな」
「でも今日って平日じゃなかったっけ」
「……………………………………」
「きゅい?」
僕は、小学生でも中学生でもなく、高校生です。
高校生です。
あとこれはおまんじゅうであっておまんじゅうじゃなくって、あと僕、男です。
男です。
高校生の、男です。
「……………………………………ふぅっ」
そんな気持ちをぐっとこらえて、切るのを忘れてた髪の毛を呪う。
……本当、知らない人ばっかのとこ行くとこれだから。
男が年下に見られたり女の子に見られたりするのって、みんなが思ってる以上にメンタルに来るんだぞ。
「きゅい―……」
「……あ、ごめんね。 苦しかった?」
「きゅい」
「そっか」
「ほら、ぬいぐるみに話しかけてる……!」
「ああ、俺たちにもあんな子ができたら……」
「もうっ、何こんなところで言ってるの!」
「けっ」
けっけっ。
新婚さんは良いですねぇ、僕なんか彼女できたことすらない独り身ですよーだ。
「……っと、呼ばれてる」
どうしてお役所はヒマそうなのにいちいち待たせるんだろう……そんなことを考えながらおまんじゅうをモフってたら、いつの間にか手元の番号がカウンターに表示されていた。
……残念、知らない人か。
まぁ知ってる人相手だと世間話から入るから時間掛かるって言うのもあるし、その方が良いのかな。
「……ええと……こちらはお兄さんのものでしょうか?」
「違うんです。 本人です」
ああ、たまに学生証とか見せるときの反応。
写真見せると「お姉さん」、男って書いてある書類だと「お兄ちゃん」。
いつものこれにまた傷ついた僕は、やんわりと否定。
僕は知らない市役所の人……少し上の歳の男の人に、昨日あの高校生たちに渡された紙を渡す。
「……ああ、ダンジョンから。 大変でしたね……お怪我は?」
「弱ってたみたいで、学校で習ったままに傘を振り回したら……こう、飛び散ってました」
改めてすごいことした気がする。
運動神経も筋力も壊滅な僕が、スライムとは言えモンスターを……だなんて。
ちょっと男っぽいよね。
なんか元気出て来た。
「……スライム系相手には、傘を広げて押し潰す方が安全ですよ? スライム系の体液は大変に危険ですから」
「……そうでした!!」
そう言われると、うっすらと内職……本当の意味での内職……してたときの授業の内容が浮かんでくる。
「まぁ、ケガがないのでしたら。 で、そちらが……」
「あ、はい、おまんじゅうです!」
「きゅい?」
抱っこしてたあったかさが離れる感覚と一緒に、カウンターにそっと置いたおまんじゅうの……あれ、とさかみたいな毛が生えてる。
かわいくてモフりすぎてて気が付かなかったけど、ものすっごくふっさふさしてる。
「………………そのモンスターの名前がおまんじゅう、と。 その理解で?」
「あ、はい」
「きゅい」
おまんじゅうに生えたとさかから顔を上げると……くしゃみでもしたのか、顔が赤くなってる公務員さん。
あー。
都会から来た人とか、すぐに花粉症になるんだよねぇ……山とか近いから。
もうちょっと田舎に行けば、逆に治るらしいよ?
なんにもないとこだけど。
「……それで、何のモンスターかは……確かに分かりませんね。 新種かな……」
「猫みたいな顔しますけど猫じゃないですし、犬みたいな体つきですけど犬じゃないですし……あ、あとオスです」
「きゅいっ!?」
「昨日洗ってあげたので」
「なるほど、オス、と……」
「!?!?!?」
僕の方を振り向いて……またあの顔をして、ぺたりと伏せの姿勢になっちゃったおまんじゅう。
……君、なんとなく言葉分かってる?
もしかして恥ずかしがってる?
気にしなくて良いのに。
男同士、生えてる同士気楽でしょ?
「……ええと……記録によりますと、これまでにテイムされた報告は無いようですが」
「あ、はい。 あの、学校の実習ではテイマーって出なくって」
「……ああ、なるほど。 特殊なスキルはそうなりますね」
するすると話が進んでとっても気が楽。
うんうん、やっぱりお役所仕事は良いよね……僕の見た目とか世間話とかで花咲かせないから。
あと同性の男の人って言うのもね。
「それで、今日はテイマーとして登録されると。 でしたら後日講習を受けられるとよろしいかと……予約されますか? はい、では以下の候補日から……」
「ほぇー」
なんかずっと顔が赤くって目が合わなくなったその人によると、市役所の建物に設置のアラートに反応しないから、おまんじゅうはもう「テイムされてるモンスター」認定。
このまま何かの拍子でおまんじゅうだけはぐれても、人を襲うことはないんだって。
テイマーってすごいね。
で、飼うだけならそれで良いんだけど、ダンジョンに潜るとかそうなるなら……特に守られる系なスキルのテイマーだから、いろいろと教えてもらった方が良いらしい。
もっとも、今どきは学校の実習で適性がある子同士でさっさとパーティー組むし、みんな配信とか観て基礎は知ってるから「パンフレットとかだけでいいです」って子の方が多いらしいけど……ほら、僕、今まで興味なかったから。
「……ええと、最後にひとつ。 その……ええと」
「?」
「……本人確認のための学生証と市のデータを照合できたのですが……星野柚希……さんは、男性……で間違っては」
「……女の子って思ってたんですか?」
「きゅい」
いつものことだけど、でもやっぱりイラッとしちゃう僕の真下で……なんか満足した様子のおまんじゅうの声。
「え、ええとですね! ……そう! クエストの受注やパーティーの募集、臨時パーティーなどでは性別が問題になりますから! ええ! 異性間のトラブルも多いですし、女性限定のパーティーなどもありますから念のためです!」
「あー、なるほど。 そういえばダンジョン配信とかで聞いたことあるかも」
レベルとスキル……つまりは力こそ命な閉鎖空間のダンジョン。
そこでは、女性は警戒してし過ぎることはないらしい。
今どきは支給のスマホと、いざってときに離脱するためのリストバンドがあるけど、それでも悪いやつってのはそこらの繁華街よりも多いらしいし。
女の子の配信だと、必ずと言って良いほどナンパされてるからなー。
そう思うと、やっぱり人の多い都会って怖い。
田舎育ちで良かったぁ。
「……その……再確認ですが、こ、高校生……16歳の男性……と」
「あ、先月17になりました」
「えっ」
「きゅいっ!?」
「? どうしたのおまんじゅう……おしっこ?」
なんかぐるんって首を曲げて振り向いてきたのにびっくりしたけど、どうやら違うらしい。
そう言えばモンスターってトイレするんだろうか。
……帰ったらお漏らしされてないか確かめよっと。
「……は、はい……。 登録しましたので、以降ダンジョン関係の職員には、必要でしたら年齢と性別が強制的に伝わります。 アプリの設定で、普段は非表示にすることをお勧めします……お名前も含めて」
なんか人の言葉にヘンな風に反応しちゃうらしいおまんじゅうを抱っこしてあやしつつ、パンフレットとかをいろいろもらってから市役所を後にする。
「けど君、どんなモンスターなんだろうねぇ……講習でステータスとか分かるから、それまで分かんないかなぁ」
「きゅい」
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