73話 そういえばテイマーだった僕
「……やぁーっ!」
「……ひなたちゃあん……がんばれぇー……」
僕は眠気をこらえながら、駆けて行ったひなたさんを見る。
分かってる、寝ちゃいけない。
モンスター相手、しかもボスモンスター、しかもしかもリストバンドは動かない。
命の危険がある。
……なのに、眠くて眠くて溶けちゃいそうなんだ。
【草】
【かわいい】
【ロリが寝そうになっている】
【もうひとりのロリは元気に走っている】
【これが……ロリロリ……!】
【ユズちゃん、さっきはあんなにかっこ良かったのに】
【ま、まあ、魔力使う職は、魔力使い切るとこうなるから……】
【普通はそうならないように調節するんだけどね】
【ユズちゃんたち、それしようとしてこれだから……】
【1回の冒険で何回攻撃できるか試してたところでだからなぁ……】
【なんかもう、ことごとく間が悪いのね、ユズちゃん】
「ブモッ!?」
「良かった、強いけど後ろ脚、片方ダメージ入っててスピード出ないんだね! ……それなら!」
大剣を体の前で、斜めに構えながら立ち向かって行ったひなたさん。
彼女は突進してくるボスを……直前でひらりとかわし様にずばりと、剣を横薙ぎに。
【ぅゎょぅι゛ょっょぃ】
【ユズちゃんが遠距離っょぃょぅι゛ょだとすると、ひなたちゃんは近距離っょぃょぅι゛ょか】
【何その言い方草】
【しかしこの空間、見事にロリしか居ない】
【だってお姉ちゃんたちから離れちゃったから……】
【ロリっ子たち、早く元気で討伐しなさい お姉ちゃんに元気で怒られるために】
【大丈夫そうだけどな】
【さっきのユズちゃんの、かすったように見えて後ろ足、あれ、部位破壊してるな】
【あー】
【どう見ても遅いもんな】
【ユズちゃんお手柄!】
「んぅ……まだねちゃだめぇ……」
【草】
【かわいくて草】
【ユズちゃんおねむ】
【ユズちゃんがんばって勝って! 睡魔とね】
【草】
【ユズちゃん……いつもおいしいなぁ……】
【そんなこと言ってる場合じゃないのに、いちいちかわいくって……】
眠くてぼんやりして、ときどきくしくしして無理やり起きるけども、そのたびにひなたさんが……彼女に向かって突撃するイノシシさんを危なげなくかわして、そこへ横一閃って流れを繰り返している。
「……だいじょうぶそう……」
【ユズちゃんがだいじょばなさそう】
【もうだめそう】
【草】
【まぁ、ひなたちゃん、もうハメパターン入ったしな】
【低レベルの突撃系倒すときのいつものパターンだもんな】
【なるほど、自分よりレベルが上でもこうやって部位破壊すれば……いやいや無理だわ、自分よりレベルが上のモンスターの手か脚を狙って破壊するのとか】
【そらそうよ】
【魔法でも狙えるかどうか】
【あんなに速いからな、まぐれで当てられたらラッキーだし】
【でも外すこと考えると無難に胴体に当ててダメージだすよね】
【それな】
【罠とか張ったり、広く展開して一斉攻撃ならできるんだが】
【それできたらもう中級者よね】
【偶然の産物とは言え、ユズちゃんもがんばった】
【おねむだけどね】
【あ、ユニコーンも寝てら】
【草】
こくっ、こくっと、気が付けば頭が下を向きかけていて、そのたびにくしくしして起きる。
「だめ……ねちゃったらせんせいにおこられる……」
【ここ学校じゃないよユズちゃん!】
【ダンジョンだよユズちゃん!】
【ボス戦だよユズちゃん!】
【起きてユズちゃん!】
【ユズちゃんがんばえー】
【草】
【あ、ひなたちゃんもがんばって!】
【ついででとか、ひでぇ!】
【ま、まあ、ユズちゃんとひなたちゃん、今どっちが危ないかって考えると……】
【弱ったボアよりも強い睡魔さんだもんな!】
【じょ、状態異常攻撃は強いから……うん……】
【草】
【お前ら、だから……えっ!?】
【え】
【あっ】
「――――――! ――――――!!」
「……?」
なんだろ。
とっても眠いのに、誰かが叫んでる。
とっても眠いのに、誰かが寝ちゃダメって言ってる。
くらくらする。
ふらふらする。
「……ゆずきちゃーん! そっち、モンスター! 起きてぇ――――――っ!!!」
【ヤバくない?】
【やばい】
【HPが一撃でやられる水域になって怒り状態発動、で、ルーチンリセットされて攻撃対象切り替えちゃったか!?】
【ユズちゃん起きてー!】
【せめて真横に飛んで避けられたら助かるが……】
【弱っていてもボア系、ひなたちゃんよりは速くって追いつけない……】
【このままじゃユズちゃんが……!】
なんとか目を開ける。
……何かがこっちに向かってきてる。
怖い。
なんだか怖い。
何かが怖い。
「おまんじゅ……」
おまんじゅうを探す。
居た。
僕の腕の中。
すーすー気持ちよさそうに寝てる。
起こしちゃ悪いかな。
けどどうしよう。
このままだと僕たち、何か怖いのに――――――。
『――――――――?』
「……? だれぇ……?」
そんな僕に、何かが語りかけてくる。
『――――――……』
「……うん、守ってぇ……」
よく分かんないけど、なんだかあったかい声だから、話しかけられてるのをそのまま返す。
【ユズちゃーん!?】
【ダメだ! なんか寝言言ってる!】
【草】
【草じゃないぞ!?】
【あれ? これ本当にマズくね?】
【一撃くらいならユズちゃんでも耐えられるだろうけど……】
【そ、そうだ、ボアだってHP低くて攻撃対象切り替えたんだし】
【よっぽど打ち所悪くなければ、倒して速攻引き上げられたら救護班の治療でなんとか……!】
『――――――』
「……えへ。 お願い……ね?」
【あっ(尊死】
【そんな場合じゃないのにかわいい】
【というかもう目の前……】
【ひなたちゃんも、さっきの理央ちゃんみたいに泣き叫んでる……】
【配信観てる理央ちゃんあやちゃんも……】
【ユズちゃん、せめて直前でどっちかに――】
世界が遅くなる。
どすっどすって重い何かがこっちに来る。
怖い。
けど――あったかい何かは、するりと音も立てず。
僕のほっぺたに軽く触れたかと思うと、僕たちのあいだには――僕とおまんじゅうとのあいだにある――ああこれが「テイム」ってやつの感覚なんだ――それと同じ感覚が、なんとなくお互いのことが分かる「それ」が通じ合う。
「頼んだぁ……おやすみぃ……」
「大丈夫だよ」って言ってくれた「それ」に言うと、僕はようやく眠くて眠くて仕方なかった感覚に身を任せられた。
◇
【ユズちゃーん!?】
【だめだ、このタイミングでこてって寝ちゃった!】
【草】
【草生やしてる場合じゃないのに草】
【よ、横になって寝ちゃったから、逆にダメージ受けにくいし……】
【けど、思いっ切り踏まれたら……】
一瞬で夢の世界に入り込んでしまった柚希。
そんな彼に向かって、傷だらけのボアがあと1歩というところまで迫り、そして――――――。
「ゆずきちゃあああん!! 逃げ――!」
必死で投げた剣も外れ、ひなたの顔色が真っ青に。
彼女は、「お友達」に向かうモンスターの後ろ姿を見ているしかなく――――――
――――がいんっ。
「ブモッ!? ……………………ぶもぉ……」
……どさっ。
「…………………………へ?」
【は?】
【え?】
【何が起きた】
【分からん】
――ボアは、柚希の胴体へ体当たりしようと、残っている力で勢いをつけており――それは、モンスターの怒り状態のルーチンにより、自分にも跳ね返る自爆攻撃のそれを試みた。
だが、柚希の体から30センチくらいのところに――突如として「四方が2メートルほどで厚みのない、銀色の平たい板」が出現し。
それは、あまりにも薄いのにあまりにも硬く――ボアは衝突のダメージを一身で受け――すぐに結晶化した。
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