61話 「お友達の優しいゆずきちゃん」3
「ぐすっ……ぐすっ……」
「その柚希さんが怒っていないのなら、私も怒りません。 ……それだけ反省しているのですから、絶対に次は」
「しないもん……お友達、したいもん……」
「……ええ。 それで、良いのですよ」
怒られると思ってたら……あのときのゆずきちゃんみたいに優しく撫でてくれるお母様の手。
それにもっと泣いちゃって、しがみついて泣いちゃって。
子供みたいに泣いちゃって。
「次に会うときは、軽くお礼を。 人気の菓子を……持ち寄って一緒に食べる。 その程度にしておきなさいね」
「……うん。 おいしいの、探す……」
涙を拭ってくれる、お母様の指。
「その柚希さんと言う子も、お金を渡されそうになって、きっと傷ついたでしょう。 悲しかったでしょう。 悔しかったでしょう」
「……うん……」
「でも、その後はなかったことにしてくれたのでしょう? なら、ひなたから申し訳なさそうにしたり、謝ったりするのはお止しなさい。 申し訳ないなら余計に、お友達として。 仲の良い大切なお友達として……ね?」
「……うんっ」
お母様の言う通り。
私は、これからずっとゆずきちゃんのお友達するんだ。
お友達して、いっぱい楽しいことして……2人ともお嫁さんになっても、
「?」
「どうしましたか?」
「……ううん、なんでもない……」
どうしたんだろ、私。
なんか、ゆずきちゃんのウェディングドレス姿思い浮かべたら、なんかちょっとやな気持ちになっちゃった。
……嫉妬かなぁ。
ひなたって悪い子なんだ、きっと。
◇
「……良い子とパーティー組めたんだねぇ」
「もう、おばあ様。 いい加減にひなたさん本人に言ってあげたらどうです?」
「私が嫌な役をやることで、親戚や付き合いのある家からあの子に面と向かって嫌みを言ってくることもない。 これで充分よ」
向日ひなたが自室に戻って、すぐ。
そこへ……ずっと隣室で聞き耳を立てていたらしい彼女の祖母が入って来る。
「どうしてもやってみたいと言うから『勝手にしなさい』と突き放した形にしてねぇ……悪いから、最初はこちらでパーティー組む相手も決めてたんだけどねぇ」
「まさか、初心者講習でひなたさんと同じ女性の初心者が2人。 さらに今日、彼女たちの友人の経験者が1人加わるだなんて」
「協会に脅……協力してもらって身辺を探らせたけど、最初の2人に背後はなかったそうだ。 個人情報とか言うので細かくは教えてくれなかったけどね。 念のために今日の子も最低限は探らせるけど……あの調子なら大丈夫そうだね」
「ええ。 ひなたさんには適度に歳の離れた女の子たちの友人ができて、非常に良い経験になるでしょう。 大学生、高校生が2人ですから……けど」
「ああ、聞いていたよ」
祖母は、取り出したタブレットを慣れた手つきで操作。
「実は、ひなたの配信をつまみ観しててねぇ」
「あ、ずるいです! 私に来客のお世話をさせて!」
「まあまあ良いじゃないか。 どうせ何かあったら連絡が来るのは私なんだからさ……でね」
「ひなた」と表示されているチャンネル。
もちろん「登録済」になっているステータス。
『――大きな借りがあって、大きな貸しがある関係。 それは少しずつ、「あんなにお金貸して……あるいはもらっちゃったんだから」って僕はひなたちゃんに遠慮して、何でも言うこと聞くようになって』
『ひなたちゃんは「お金、貸したりあげたりしたんだから、これくらいはいいよね」って、気がつかないうちに思っちゃう。 自然に、自分の手下みたいに思っちゃう。 上下関係ある、お友達。 ……そんな友達には、なりたくないな。 僕だったら』
「……こんなことを落ち着いて、パニックになっていたあの子に、あの子の目線で諭せる……アルバイトをして母親を養っている少女なんて、そうそう居ないね。 気丈で、良い子だ」
「こんなことを……ええ。 素敵な子ですね」
2人がのぞき込む画面。
そこには……ひなたも柚希も、顔自体は少し変えられているものの、発言内容自体はそのままのはずのもの。
「今どき珍しい……いや、居るんだろうね、たくさん。 こういう子は。 でも、うちのひなたに教えてくれたのは、この子だよ。 他の誰でもない、この子だ」
「ええ」
タブレットを母親に預けた祖母は、立ち上がると……スマートフォンを取り出し、どこかへと掛ける。
「……私だよ。 うん、この前調べてもらった子たちのうち、ゆずき、という子の身辺調査をお前たちに頼みたい。 ……ああ違うよ、ひなたにとって大切な子になるだろうから、穏便な方だ。 決して悟られてはいけないし、過度に介入も厳禁……ああ、その期間、近所の警護くらいはしておやり」
「……ひなたさんには先ほどあのように言いましたけど」
「うん、頼むよ。 ……大丈夫、あの子にはバレないようにするからね」
母親から祖母に渡ったタブレット。
スワイプした画面には――「星野柚希・問題無し」と言う文字のみ。
「『孫の友人の範囲』で、少し環境を整えてやるだけさ」
「お願いしますね? 私があんなことを言った建前……」
「分かっているよ。 ……あくまで彼女の家が、何か悪い奴らにむしり取られたりしていないか。 あと、配信で多少は地元民も存在に気が付くはずだから、何か悪さしてこないか。 それを見守る程度だよ。 母娘の暮らしだ、守ってやらにゃあね」
「……もう。 本当にひなたさんには甘いんですから」
「当たり前よ。 私のかわいい孫だからね、その孫の大切な友人は、もう私の護るべき対象だからね」
ひなたの居なくなった部屋で、そう話し合う2人。
――そんな彼女たちも後日の調査結果で、まさか「星野柚希」が男だとは夢にも思わず。
後にそれを聞いたときには――母親は自分の目を疑い、祖母は疑いに疑い、やっと本当と分かってから腰を抜かして――1週間入院した。
「男の娘をもっと見たい」「女装が大好物」「みんなに姫扱いされる柚希くんを早く」「おもしろい」「続きが読みたい」「応援したい」と思ってくださった方は、ぜひ最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に&まだの方はブックマーク登録で最新話の通知をオンにしていただけますと励みになります。応援コメントやフォローも嬉しいです。




