58話 「可愛らしいのに、優しい柚希さん」3
星野柚希さん。
どう見ても……がんばって見て、中学生。
ダンジョンや帰り道で戯れる姿は、ひなたさんと同じ小学生。
いえ、下手をすると小学生としては高い身長でもひなたさんの下の学年……さすがに失礼ですね。
身長のことは、中学からは「女のくせにでかいやつ」と……高校生までで告白をしてきた男子からは捨て台詞を吐かれ、大学生になってからはさらに目立ちすぎて嫌な私のことは、いわゆる外れ値として置いておきまして。
恐らくは高校生の平均的でうらやましい理央さんと、小学校高学年としては少し小さいでしょうひなたさん、彼女たちのちょうど中間……よりはひなたさん寄り……いえ、高校生、それも理央さんの上級生ですから理央さん寄りと言ってあげましょうか。
彼女たちのあいだの背丈で、明るくて甘え上手でしょうひなたさんと「理想的な女子」の理央さん。
彼女たちに挟まれると……少し不思議な印象の方。
不思議と気にならないのですが、いわゆる「僕っ子」で、話し方もどちらかと言うと男の子のよう。
あのような一人称は、ともすると同性に嫌われますけど……柚希さんの性格なら、嫌う方が難しいですね。
線は細いのですが、お顔立ちは筋が通っていて光の加減や角度次第では、ふと中性的な男子に見えることがあって驚くことがあります。
髪の毛は肩を越すくらいで、あまりこだわりはなさそう。
まぁ田舎の高校生……ですから、大学に入れば、きっと。
そんな彼女は、私たちに彼女の家のことを話してくれました。
お母さんがご病気のご家庭。
話し方から、恐らくはお父さんは居ない、または離婚。
お母さんのためにアルバイトを……しているので、やはり高校生……いえ、でもそうは見えない気が……いえ、理央さんも頷いていますし、15歳になっていればぎりぎり働けますし……ええ、きっとそうです。
そのアルバイトも掛け持ちをしている忙しい生活。
お母さんのお薬が高額で、恐らくはヤングケアラー。
『ごめんなさい。 この話すると気まずくなるから、小さい頃からの友達にしか言ってないんです。 でも気にしないでください』
そう、困った顔をして告げる彼女は……とても美しくて。
『ゆずきちゃん、お金に困ってるんでしょ?』
『だから、これあげる』
しかし。
「美人というのは、怒ると怖い」。
「普段怒らない人が怒ると怖い」。
その言葉を思い出すような――ひなたさんからの、幼すぎるがゆえの優しさに対して、一瞬だけ真顔になった彼女でした。
多分、その瞬間は私しか見ていません。
本当に一瞬だったんです。
でもその瞬間、私の心は飛び跳ねて思わず――。
『……はれ? ゆずきちゃん、戻って来ちゃったよ? 操作、間違えちゃった?』
『あ、あのっ……柚希先輩はですね、そういうのっ……』
理央さんは……多分、ダンジョンでモンハウを引いたときよりも焦っていて、それで直感的に柚希さんの「地雷」と言うものだと分かりました。
……こんなことでパーティーが。
そう、無意識で思った私。
でも。
そんな私なんかより、柚希さんはずっと大人でした。
『だから、受け取れないんだよ。 優しいひなたちゃんだから』
『うん。 困ってる。 けど、それは僕が解決しなきゃいけないことなんだ。 友達に……言い方は悪いけど、こんなお金をかんたんに……恵んでもらっちゃうのは行けないと思うんだ』
きっと、彼女の家の経済状況としては――恐らくは本当に大金、今日分けた報酬の十数万という金額並みだったのでしょう。
きっと、そのお金は――アルバイトをしている私にも分かります、1ヶ月苦労して働いて得た金額を上回っているもの。
きっと、どうしても欲しいはずのお金。
でも、彼女は優しく返しました。
『僕は、怒ってないよ。 全然怒ってない。 嬉しい。 涙が出るほど嬉しい。 でも、友達だからこそ貸し借りはしたくない』
地面に膝をついて、少し下から見上げるようにして。
そうして、縮こまって小さくなったひなたさんへ優しく諭す姿は……まるで、母親。
どう見ても小学生、いえ、中学生なのに、そう錯覚してしまう姿。
『なら、僕たちはおんなじように思える友達、だね?』
『……うん。 変なことしてごめんね、ゆずきちゃん』
講習の際、すぐにひなたさんに懐かれていた彼女は、きっと……私なんかより厳しい人生を送ってきた。
だから、あんなに優しく収められたんです。
――本来なら最年少に見える柚希さん……ではなく、最年長の私が収めないといけない場面だったのに。
でも、私はごく普通の地味な大学生だから、そんなことはできない。
だから、理央さんの機転に乗って、空気を変えて。
その後はみんなでおいしいお店でお菓子を食べて、まるであんなことはなかったかのように過ごして。
帰り道には、先ほどまでよりももっと懐いているひなたさんと、懐かれている柚希さんの姿がまぶしくて。
……ああ。
私、「なんで今さら」って思ったけど、勧められるままに初心者講習を受けて、この子たちと出会えて――本当に、良かった。
何でも、柚希さんと理央さんは私の実家の、ほんのひと駅隣に住んでいるそうで、全員で住所まで交換してから別れました。
それが、とても楽しくて。
何もできなかったのに、楽しくて。
「……よしっ。 あの子たちとパーティー組めるあいだは、がんばりましょうっ」
今朝までは乗り気でなかったダンジョン潜り、魔法を使うということに……初めてわくわくした私でした。
◇
「……でも、やっぱり柚希さんは……」
帰り道。
バスの中で配信のアカウントをいじっていたら、柚希さんのチャンネルだけが私のそれよりも長くて不思議で……最後の方にシークしてみたら。
【……ところで、俺たちなんだが……】
【ああ……】
【ユニコーンに乗っかってるっぽいカメラが、地面を延々と這っているんだが……】
【そのせいでみんなの会話が聞こえなくなったんだが……】
【えぇ……】
【草】
【ああ、今回はユズちゃんのユニコーンがオチなのね……】
【草】
【主従揃ってオチ担当とか】
【ちょ、おまんじゅうちゃんどこ入ってるの!?】
【待って待って、なんで女子トイレ】
そんな場面が……おまんじゅうちゃんをみんなで探し始めるあのときまで続いていました。
「配信ミス、2回目ですか。 講習のときと言い、今日と言い……なんだかおかしい。 くすっ」
理央さんがいないと特に、おどおどとして守ってあげたくなる柚希さん。
ひなたさんと一緒だと、ほほえましく眺めていたい柚希さん。
……でも、優しくて強い柚希さん。
「……来週の約束が、楽しみ」
ユニコーンという、S級のモンスターをテイムした美幼……少女。
中性的な少年に見えることもあれば、お母さんのように見えることもある。
そんな、不思議な方。
しかも、今日はあんなに活躍して……きっと数ヶ月で素敵なパーティー、いえ、多分事務所から直接オファーが来るでしょう。
でも、それまでは。
それまでは……偶然で運命的な出会いをした、私たちと一緒ですから。
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