56話 「可愛らしいのに、優しい柚希さん」1
「……はぁ……大変でしたけど、素敵でした……」
夢月あや。
19歳。
この歳になってダンジョン適性が判明して……大学生になってからという、「遅咲きにもほどがあるわね」と自分のことながら笑ってしまった、大学でのダンジョン適性講習。
そちらからすぐにダンジョン協会の方に連絡が行って、事務員の方も「毎年数名ですが居るんです。 まだ学生のうちですから、決して遅くはありません。 おめでとうございます!」と祝福してくださって。
……でも、私、ダンジョンには興味がありませんでした。
だって、恐ろしい場所だから。
ダンジョン。
10年前――私が小学生のころに出現した、未知の世界。
そこへは次第に民間人が解放されて行って、途中からはほぼ強制の形で学校の行事として適性を見る遠足のようなものが導入されて。
ダンジョンの適性は、大体半分くらい。
だから確率としてはそれほど高くはないのですが……毎回引っかからなくて、私は正直安心していました。
モンスター。
地球外生命体、ゲームの中の倒すべき存在、知性は無く、ゲームの中と同じように人間を見るや「食べよう」としてくる存在。
あんなものと、命の斬り合いをする?
私には無理です。
特に、最初期の報道で――「人が食べられる」シーンを観てしまってから。
だから毎年の――私の学年だと、中学の終わりから毎年になりましたね――適性を見る講習で「適性がありませんように」とお祈りしていましたから。
――なのに、今年になって。
もうすぐ20になるから、ダンジョンとは無縁の、普通の、無難な、差し障りのない、危険なんて無い仕事に安心して就けて。
あんなに恐ろしい世界とは無縁の人生を送れる――実際、こんな時代になっても大半の方はそうですから――そう、思っていたのに。
「ダンジョンは、副業でも良いから潜るように」。
「実入りが良いので、副業でも普通のアルバイトなんかよりずっと儲かりますよ」。
「サポートは万全です」。
「副業禁止の会社は、もう存在しません」。
それが、国の意志、国の方針。
10年前から変わった世界の方向。
「夢月あやさん……はい、確認できました。 適性は魔法使いですね。 しかも複数属性……女性が最も活躍できる、魔力を使った属性です。 きっとどこのパーティからも引っ張りだこですね。 おめでとうございます」
「……はい、ありがとうございます……」
嫌だったけれど、この話を両親にしたらとても喜ばれ、初心者講習に出ない選択肢はなくなって。
さらには「座学のあとにダンジョンへ潜る」と聞いていて、きっと私の顔は酷いものだったでしょう。
でも、そんなとき。
『はい……星野です……』
あの、小学生の子……ではなく高校生だったのですよね、高校生……それも2年か3年、つまりは私とそれくらいしか違わない――。
………………………………。
……柚希さん……本当に高校生なのでしょうか?
いえ、彼女の後輩の理央さんがそう言っていましたから、間違いはないのでしょうけれども……その、言動が……。
◇
星野柚希さん。
高校2年生……と言うことですが、きっと、ダンジョンが出現してから導入された飛び級制度の対象の方なのでしょう……とても幼くて可憐な方。
もうひとりの受講者が……こちらもまた幼い小学生の向日ひなたさんでしたから、今の時代では才能のある2人に挟まれていたので、初心者講習の最初のころは窮屈に感じていました。
だって、おふたりはきっと、これから先……副業という形か本業という形かは置いておいて、若年層のかなりの割合がしているような「ダンジョン潜り」という職業になる。
ダンジョンは、ただ攻略するものではなく……最前線の方ならともかく、基本はパーティーで潜るので、どちらかと言うと人間関係と自分の役割に応じた能力が重要。
それはやはり、若ければ若いほどに良いとされているもので。
なので、なぜか大人になる直前でぎりぎりに通ってしまった私とは違って、彼女たちはきっと大成する。
特に田舎ですから……ええ、私の歳でも既に家を建て、子供を育てている人もそれなりに居るくらいですし。
――ええ、19でようやく適性が開花した、私とは違って。
当日の講習では3人で潜りました。
大剣使いのひなたさんが前線、テイマー……モンスターを使役する柚希さんと魔法を扱う私が後衛という、パーティーとして一応成立するグループでのチュートリアルでした。
……もっとも、途中までは柚希さんのこと、あまり見ていませんでした。
だって、教官役の方と私の視線の先は。
『ええと、もし間違っていたら申し訳ないんですけど……多分そのモンスター、これかな……と』
『ユニコーンですか!?』
彼女の抱いている、小さなぬいぐるみさんのような……そう言えば今日は少し大きくなっていましたけれど、重くなかったのでしょうか……モンスター。
ユニコーン。
目撃数が少なすぎて、よく分かっていない種族。
彼女は、そのモンスターに……どう見てもものすごく懐かれていました。
けれど。
ユニコーンと言うことは。
『確かお姫様みたいな子に懐くんだよね!』
『……そうですね。 清らかと言う意味では』
……だから、教官の方と私は、すぐに察しました。
『……あの、教官さん? そうなりますと、万が一彼女が彼氏さんを作った場合に、その……お付き合いをされて、男女の仲になりますと……』
『……もし生態がそのままだとしましたら……よほど納得の行くお相手でないと排除、敵対的になりかねませんね……恐らくは懐く条件は、いえ、ほぼ確実に処女性でしょうし……暴走などをし出したら……』
ユニコーン。
純潔の乙女を好むという神話を持つ種族。
……つまり、柚希さんは。
とても整った顔つきで、華奢で、自然な態度と髪型なのが魅力的な、まだ幼くとも成長すれば素敵な方になるでしょう彼女は。
もしテイマーを、このユニコーンを従わせ続けたいのなら……少なくとも引退までは、男性とお付き合いはできず。
――ユニコーンにとっての「処女性」が、はたして「肉体的な関係」に至るものなのか……下世話な話ですが、その関係が……「処女を失う行為」までか、それともそうでなければセーフなのか。
「男性を好きになる」という気持ちの問題、あるいはそれ以前に「男性と親しげに会話する」と言う「ネットスラング的なユニコーン」まで行くのかは不明ですけれど。
仮に学校で気になる男子などが居ても、ずっと抱きしめるくらいに好きなユニコーンと、常に天秤に掛ける人生になる。
それには、間違いがありません。
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