488話 「ネバーランド」
魔王城は――いや、配信を通じて地球全土が……絶望に包まれていた。
魔王が、負けたのだ。
ユズという子供の悪戯で……そのストレスの余りに。
「魔王様……」
「おいたわしい……」
少なくとも……側近の魔王たちや世話役のメイドたちからすらも、そう映るしかなかった。
ゆえに、玉座の間は葬式会場も同然。
誰も言葉を発せず、誰も目線を合わせず。
ただただ、事態に恐怖するだけだった。
「申し訳ありま……うぇっ……」
「エリーさん……良いんです。もう……良いんですぅ……」
吐くもののなくなったエリーと、静かに抱き合う理央。
その顔は悲痛でありながら――どこか、幻想的だった。
【え? 対ユズワールド最高戦力がここで脱落?】
【脱落だね……】
【常識人代表が……】
【真人間……真魔族だからこそ、ちょうちょのストレスが……】
【尋常ではなかったか……】
【ユズちゃんのためにってやったことが全部裏目ったらそうねぇ……】
【遠隔精神攻撃で?】
【遠隔精神攻撃~ユズワールド~で】
【遠隔精神攻撃・ユズワールド】
【効果:脳が回帰する】
【ユズワールドこわい】
【どうせ逃げられないんだから諦めろ】
【鱗粉で?】
【鱗粉で】
【目に見えない鱗粉が舞ってそう】
【冗談で言ってたけどマジで舞ってそうでこわい】
【なんなら配信越しでも届いてそうで怖い】
【じょばばばばは】
【嘘だと言ってよぉ……】
【無理だよ】
【だって回帰しちゃったもんね】
【どこに回帰しちゃったんだろうね……】
【脳みそがひっくり返った?】
【先祖返りしてそう】
【草】
【草】
【あーあ】
【本気で世界が滅びそう】
【大丈夫、ユズちゃんだよ みんな仲良くお花畑に旅立つんだよ】
【三途の川の両岸がカラフルになりそう】
【ゲーミング三途の川か……閻魔様が殴り込んできそう】
【大丈夫大丈夫 閻魔様もこうなるから】
【ああ、いい人ほど即効性があるのか】
【なにしろ、あの理央様がへっちゃらだったんだぞ?】
【草】
【草】
【理央様の株は数十回ぶりに紙くずに】
【さっきマイナスになってたからプラスになったな!】
【草】
【悲報・ユズちゃん、地獄にも迷惑掛ける】
【地獄っていうかもうすでに現状が地獄っていうか】
【悪くはない人生だったな……】
【うん、最後は笑って逝けるもんね】
【まぁユズちゃんに滅ぼされるのなら……】
【嫌だ……やっぱりギャグで絶滅するのなんて嫌だ……!】
【それはそう】
【でも対抗できないよ?】
【そうか……ギャグを脳に取り込めば……】
【ああうん、滅びを認識することはないかもね】
【救いは……涅槃は、ここにあったか……】
【表裏は一体 ギャグとシリアスを使いこなして地獄と天国を反復横とびしろ】
【天使と悪魔がセットで殴りかかってきそう】
【大丈夫大丈夫 地球人類が全員一斉にやるから手出しできないよ】
【草】
◇
――どすん、どすん。
「もう……だめだ……」
「おしまいだ……」
「世界は……沈むんだ……」
広い幹線道路沿いのコンビニ前。
そこに駆けつけていた軍隊、ダンジョン潜りたちを始め、なにかできることはないかと駆けつけていた民間人。
そのすべては……頭を垂れていた。
「けひひひひひ」
「ぎゃー、ぎゃー!」
「きゅっぷい」
「ぽんっぽんっ」
その前を堂々と横断している――百鬼夜行を。
その先頭を歩くモンスターたちは、どれも通常の体格の数倍以上。
色もサイズも、細かい特徴もなにもかもが未確認のモンスターたち。
幹線道路は――その後ろにずらずらと際限なく続くモンスターたちの行進に占拠されていた。
「ああ、ユズワールド……」
「どうせもうすぐに地獄行きだから、襲ってこないってわけか……」
「お母さん、あのわんちゃんにごはんあげたい!」
「良いわ、行きましょう……その方が、ひと思いに楽になれるから……」
人々は――いや、世界は、完全に状態異常を引き起こしていた。
【かわいそう】
【かわいそう】
【やっぱ引きこもりこそ最強】
【ほんそれ】
【映像で見るだけなら羽ばたくだけで済むからな……】
【画面越しと現地とではねぇ……】
【あ、子供がわんこにエサあげてる】
【わんこ(5つ首のケルベロスを超えたなにか】
【わんこわんこわんこわんこわんこ】
【あはははわんこ! わんこわんこわんこわんこわんこー!】
【かわいそうに……】
「ばうっ」
「ばうばうばうっ」
「ばうばうばうばうばうっ」
「へっへっへっへっへっへっ」
「おかあさん、見て! わんこが尻尾振ってる!」
「ええ……これが天国なのかしらねぇ……」
「? なに言ってるの?」
「そろそろ会えるわ……ええ、11年前に別れたお父さんに……」
1つの胴体、4つの脚、1本の尻尾に5つの首を備えたキマイラの一種――ケルベロス。
それが、5歳くらいの子供が差し出した、コンビニで買ったばかりのソーセージを――器用に、その牙で子供を傷つけないようにと唇で慎重に受け取り、ちゃんと5等分して食べる姿。
それに喜んだはずの子供は、自分を連れてきた母親が――なぜか涙を流しながら空しか見ていないのを、不思議そうに見上げている。
【かわいそう】
【かわいそう】
【ああ、子供には罪はないんだ】
【そうか、子供……子供だけは無事なのか】
【鱗粉も子供には効かないか……】
【子供だけは残るかもしれない それが、唯一の希望だね】
【大人は姿を消し、残るは子供だけのネバーランド そうか、ユズワールドとは……】
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




