485話 おまんじゅうが降ってきた
「……ほら、よく見てよ」
ぺろん。
僕はシスターさんみたいな服――だぼっとした白いワンピースとでも言えば良いんだろうか――の裾をたくし上げる。
「 」
ぷしっ。
ユニコーンさんたちから血しぶきが舞う。
「ほら、よく見て。このぱんつ。男でしょ」
「「 」」
ぷしっ、ぷしっ。
「きゅひひ……」
少しずつ。
ひっくり返って蠢くついでの鳴き声が、減っている。
「女の子ならこんなに膨らんでないでしょ。男なの、おーとーこーっ」
「き゜っ 」
ぷしっ。
僕の真ん前で粘っていた子が、赤い花を咲かせる。
「ゅ゛っ」
「ひ ▼」
ぱんっ、ぱんっ。
あっちこっちで花が咲く。
仕方なく、僕はもっと裾をたくし上げる。
「……ほら、見てって。おへそも男のそれでしょ? くびれとかは……痩せてるからあるけど、女の子みたいなのじゃないでしょ?」
くるり。
僕は、後ろでひっくり返ってる子たちにも確かめさせる。
「 」
「 」
ぱんっぱんっ。
ぶしっ、ぶしっ。
そこは、一面の白かった花畑。
でも今は、血の海だ。
「………………………………」
僕は――この際恥ずかしいとか言ってらんないから、裾をくるくるとシャツまで巻き込んで――
「ほら、胸も男のでしょ」
――ぱんっ!
「!?」
びくっ。
すごい音がしたからびっくりして怖くなる。
「………………………………」
「「「「 」」」」
……ゆっくり顔を上げると――
「……みんな、居なくなっちゃった……」
――かつてはお花畑だった場所が、今や真っ赤な血の海の中に点々と残される魔石だけ。
「メルヘンファンタジーが……地獄に……」
僕は、めくった胸まで晒したのに。
元から先っぽとかはぴりぴりしてたし「女性ホルモンが多いのは思春期によくあることで、一時的ですから……たぶん」って定期検診のときに言われてたし、田中君とかからは「女みたいな胸だな」とかからかわれてた、僕のおっぱい。
おまんじゅうが吸い付いてくるから心なしか……手を当てるとふにょんって感じる程度には膨らんでたし、リリスモードってのになるともっと大きくなるけども、それでも男の胸だったはずなんだ。
「……男だから、別に恥ずかしくないのに。プールだって男は隠さなくて良いはずなのに。プールの先生とかはブリーフパンツだから、堂々と膨らんでるの見せつけても恥ずかしくないはずなのに」
僕はいそいそと服を降ろした。
「……でも、女の子にしか興味がないはずのユニコーンさんたちが、みんな爆発しちゃった……どう見ても男ってところを見せつけたのに」
僕はお腹がむかむかした。
「ばか」
――ぱぁんっ。
どこか遠くでたくさんの花火が上がっている。
「ばか。理央ちゃんのばか」
◇
「あ゜っ」
――ぶしっ――どさっ。
深刻な事態の中、理央がいきなりに鼻血を吹き出して倒れた。
「理央さん!?」
「りおちゃんはそのへんの隅っこに寝かせとかないかな、あやちゃん」
驚く面々の中……ひなただけは冷たい目で見下ろしていた。
【!?】
【理央様がぶっ倒れた!】
【なぁにこれぇ……】
【心労がたたったか……?】
【いや、顔を見ろ】
【あー】
【あー】
【ユズちゃん成分が枯渇したか】
【それだ】
【草】
【それにしてもこの百合っ子……実に良い表情で鼻血を流している】
【あ、あやちゃんがなにも言わずに抱き上げて】
【隅っこへ……】
【しかも、わざと絨毯がないところに……?】
【草】
【草】
【ひなたちゃんがもはや存在を無視している】
【今は忙しいときだからね】
【女神様から思わぬ事態を告げられてるのに、理央様ってやつは】
【理央様……株価、マイナスだよ……】
【今大事なときだから、女神様に心配かけないでね つまりは黙って静かに寝てろ、理央様】
【草】
◇
「誰か居ませんかー! 誰かー!」
空はきらきらとカラフルな虹色。
あちこちにかわいいお花がいっぱい咲き誇っていて――無数にある血の花びらさえなければ、あとは地面に突き刺さった魔石さえなければ、日曜日の朝に見てるアニメとかでの妖精さんの国なのに。
「……はぁ……ユニコーンさんたちの、ばか。女の子が生きがいなクセに男と女の区別もつかないだなんて……」
――ぱんっ。
「あーあ。あのへんでまだ生きてた子が居たのに」
ころころ。
できたてほやほやの魔石が、こつりと靴に当たる。
「君たちさぁ……いくら女の子に飢えてるからってさ、いくら女の子って誤解される僕だからって、見ただけで破裂することはないじゃん……」
僕はひとりぼっちだ。
ちょっと前まで――僕が、男だって証明しようとするまでは、みんな生きてたのに。
「ばか。ばか」
こつんっ。
僕は、ユニコーンさんだったものを蹴り飛ばす。
「……おまんじゅう」
僕は、悲しくなった。
「おまんじゅう……もう忘れてったりしないから、出ておいで」
僕は、彼の姿を求める。
「ユニコーンさんたちの中でも、君だけは爆発しないでくれたんだもん。そうだよ、最初の日に一緒にお風呂入ったとき、すごい目でこっち見てきたくらいだったもん」
僕は、思い出す。
「うん。君はユニコーンさんたちの中でもマシな子だったんだ」
僕は、悲しくなる。
「おっぱいは吸うけど、ズボンは捨てちゃうけど……スカートじゃないと言うこと聞いてくれないけど、それでも消えちゃうよりは何倍もマシだったんだ」
僕の目から――涙がこぼれる。
「おまんじゅう……」
僕は悲しくなって、泣きそうに――
「きゅい?」
「え?」
ふと、声のする方向――頭の上を見上げると、なにかがすごい勢いで近づいてきて――
「み゛っ!?」
「ぎゅっ!?」
ごつん。
僕の頭に――柔らかいけどもそれなりの重さのあるものが落ちてきて、僕はすっ転んだ。
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




