480話 【悲報・混沌】
「こまった」
「ゆずが、やっちゃった」
「こまった」
表情筋をなにひとつ動かさないで、ただ「困った」を連呼する女神。
その姿を見、全てが恐怖し――静寂を破ったのは、幼いサキュバスだった。
「な……何がじゃ、女神よ……? あの聖女が何かを……?」
「こまった」
「あら? そういえば貴女、柚希と同じくらいの背丈ねぇ」
「そんなこと言っておる場合か!?」
「あーあ」
図らずも、出現した女神に直接対峙する形になっている柚乃と幼いサキュバス。
そんな2人を、不思議そうな目で眺める女神。
事態は――どう見ても緊迫しているのに締まらなかった。
【草】
【ユズねぇ……】
【がんばれロリサキュバスちゃん!】
【のじゃロリだったっぽいサキュバスちゃん!】
【君だけが希望だ!】
【ユズねぇは?】
【ちょうちょになってるから使い物にならないよ】
【やはりユズねぇもユズの系譜か……】
【草】
【草】
【自称お母さんだけど、高く見積もってもロリ高校生だもんねぇ……】
【ああ……やはりちょうちょこそ最強……】
【最凶だと思う】
【でもさ 女神様が出てきてそうそうユズちゃんを名指しで「困った」とか「やっちゃった」とか言ってるのって……】
【おろろろろろろ】
【ただいま救護班詰め所は野戦病院です 転送されてきてもすぐには治療できません】
【草】
【がんばって気を保とうね……】
「ゆずは、つよい」
【草】
【うん、強いね……】
【ある意味ね……】
【あどけない容姿と子供でしかない言動で警戒を解いたところで精神汚染で気がつかないあいだに侵食してきて気がついたらもう手遅れ……怪異みたいな存在だからね……】
【草】
【草】
【それだ】
【そうだ、怪異だ】
【しっくり来たわ】
【怪異:ユズワールドか】
【草】
【やめて】
【おなかいたい】
「なるほど、ゆずわーるど」
こくこく。
女神が、何かに納得する。
「何が、『なるほど』なのじゃあ……?」
「あら! 貴女たち2人、背丈が同じよ! ユズと同じくらい!」
「今はそれどころではないのじゃあ……」
こくこくと頷く女神に、視線がぐるぐると回り出したサキュバス――そして吹き飛ばされた元凶の酒瓶に口を付けてラッパ飲みをし出す柚乃。
「ぷはぁ♪」
事態は――混沌としてきている!
【サキュバスちゃんが混乱している】
【あの、ユズねぇが堂々と】
【今は見るんじゃありません! 飲み込まれますよ!】
【草】
【草】
【ロリサキュバスちゃんはユズワールドに飲み込まれていない貴重な「ユズ」だからね……大切にしないとね……】
【草】
【「ユズ」……それは恐怖の象徴……】
【サキュバスこわい……】
【大丈夫大丈夫 エリーちゃんとこの子はこわくないよ】
【一緒に胃を痛めてくれるサキュバスだ、貴重だよ】
【草】
「ゆず。ゆずー」
……てちてち。
女神が室内を歩き始める。
【かわいい】
【かわいい】
【え? マジでユズちゃんと女神ちゃん、お友達?】
【もしかして:精神年齢も】
【あっ……】
【草】
【そうか、それで影響を受けないのか……】
【なるほど】
「いない」
黒髪の女神は、具合の悪そうなエリーを眺めて言う。
「 」
――どさっ。
「エリーさぁん!?」
エリーは崩れ落ち、泡を吹いた。
「いない」
てちてち。
紅目の少女は、真っ青になっている教官を見上げる。
「この度は人類が誠に――――――」
教官は――言い終える前に、卒倒した。
「教官さぁん!?」
「む、あれはいかん、頭を打っておる……どれ、治癒魔法をば」
教官のところへ魔王がひとり、またひとりと駆け寄ってくる。
【あっ】
【かわいそう】
【今、頭、石畳に……】
【でもリストバンドが】
【魔王様たちの治癒魔法が】
【感動した】
【やさしい】
【もうこの人たちに統治してもらおうよ】
【そうだね……】
てちてち。
阿鼻叫喚に気がつかない女神は、次の目標へたどり着く。
「いない」
優を見上げる。
「お初にお目にかかります、女神様」
優は――精いっぱいの儀礼的な笑顔を浮かべ――泡をぶくぶくと吐き出し始める。
「優さぁん!?」
「おお……耐えたか」
「あのおなご、なかなかやるな」
「うちの魔界で勇者やってくれないかのぅ」
【草】
【すげぇ】
【そしてさりげなく勇者のオファーが】
【え? 勇者って魔王様が指名するの?】
【あっ】
【もしかして:マッチポンプ】
【知ってはいけないことを……】
【ごめんなさいごめんなさいゆるして】
【草】
てちてち……ぴた。
どうやら尋ねるべき相手が居ないと気づき、女神は顔を伏せる。
「……ゆず、いない……」
女神が、悲しんでいる。
それはまるで、休みの日に友達の家に遊びに行った先で「え? うちの子はもう別の子と遊びに行ったみたいだけど?」と聞かされた少女のようだった。
【おいたわしい】
【おいたわしい】
【かわいそう】
【かわいそう】
【被害担当の3人が真っ先に】
【もしかして:ユズちゃんの知り合いと思しき女神、ユズちゃんが頼りそうな人を真っ先に追ってる】
【あっ】
【草】
【だよねぇ……のっけからユズちゃんの名前連呼してるし……】
【あれ? むねがいたい】
【たすけて】
【なぜか存在しない記憶が】
【ああああああ!!!】
【え、なに、今の記憶……マジで知らないんだけど……】
【悲報・何割かの人類が突如として悲しい謎の記憶をフラッシュバック】
【こわいよー】
【怖すぎる】
【どうしよう ユズちゃんが何やらかしたのか知りたいけど知りたくない、この気持ち……】
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