470話 ゲームをしてみた
<【そうか、これが見守り配信……!】
<【赤ちゃんとかの?】
<【そう、赤ちゃんがギャン泣きしたりしたら自動で知らせてくれる系の】
<【草】
<【草】
<【何かあっても俺たちにできることは何もないんだがな……】
「? 配信ですか?」
「さぎょうよう」
「引きこもり仲間?」
「なかま」
ぴこぴこ。
新しい仲間数十匹をないないした僕は、髪の毛が本体みたいに長い女の子の真横に置いてくれてあった座布団に座り、その前に置いてあった冷たいジュースを飲みながら、その子がたくさん開いている画面のひとつを眺める。
「引きこもりさんなんですか?」
「こもり」
「外に出たくないんですか?」
「もうちょっと」
「そういえばあのモニター、枠とかないですし電源コードもないですね」
「りったいとうえい」
「ほへー」
その画面は、まるで3D映画みたいに誰かの配信画面みたいなのを映している。
「……でも、コメントだけ浮いてるって意味なくないですか?」
しかも、結構あっちこっち好き勝手動いてるから読みにくいし。
「あじわいぶかい」
それが味わい深いらしい。
不思議な感性だね。
そんな画面の中ではイラスト風の女の子が動きながらおしゃべりをしていて――「さらに向こう」では、その子とそっくりな女の子が……なぜか一升瓶片手に配信みたいなのをしている。
……これで大人なのかな。
それともそういう種族?
あ、そういや僕もこんな見た目だけど成人扱いだからあの子みたいに飲んでるとこ配信しても怒られないんだよね。
つまり、あの子と僕は仲間なんだ。
「おもしろいんですか?」
「ん」
「そうですか。いいですね」
田中君だっておこづかいの半分くらいを毎月貢いでる配信者さん(おっぱいおっきくてえっちらしい)が居るんだし、推しっていうのはその人それぞれだよね。
けど、そのえっちな人の有料プランってのはなんだろうね。
聞いても教えてくれなかったなぁ……まぁいいや。
ごくごくとジュースを飲みながら、ずっと持ってたから人肌になってすべすべで気持ちいいチョコを片手の中でころころとしつつ、ぼんやり。
……なんかここ、すっごく落ち着くなぁ……。
◇
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「……はっ!? そうだった!」
「ぴ?」
僕はそれに気がついて飛び上がった!
「あのっ! 僕、どのくらいここに居ますか?」
「……いっしゅうかんくらい」
「えっ」
え?
「……あのー……僕、とんでもない数のドラゴンさんたちが地球っぽいとこ目指してるの見て、慌ててるんですけど」
「あわててる?」
「あわててるんです」
僕は足踏みをしてみた。
慌ててるんだよって。
「ふむ」
「だから、帰り道とか……あれ、分かるのかなぁ……?」
なぜか1年くらい居たらしい空間を見回してみる。
……東西南北がさっぱり分からない、1週間、ずっと薄暗い空間。
あれ?
僕、そのあいだに寝たりトイレ行ったり……トイレの方はもしかしたらチョコがちゅーちゅーしてたのかもだけど、そもそもジュースくらいしか飲んでなかったような?
ていうか、そもそも体感としてはせいぜいが1時間とかなんだけどなぁ……?
「………………………………?」
「げーむ」
「え? あ、はい、どうも」
深遠な思考を重ねていた僕は、目の前に差し出されたゲームのコントローラーを受け取る。
「……ムィッチ? にしては大きい?」
「だいごせだいのこぴー」
「あの、僕、こんなことしてる場合じゃ」
「ん」
渡したゲーム機を指差す彼女……電源が入ってる?
「これ、何ですか?」
「げーむ」
「あの、ですから」
「そうさしてくれたら、かえす」
操作?
かえす……帰り道教えてくれるってことかな。
「さんぜんせかい」
「ないない」
「いそがしい」
「……良く分かりませんけど、ゲームオーバーになっちゃっても文句言わないでくださいね。えっと、援軍が来るまでのタワーディフェンス……?」
しぶしぶ従った僕は、その操作説明を読んでいく。
――保護対象は、たったのひとり。
ただいま絶賛魔王に捕まりそうになっている、お姫様。
名前は……「ハル」、で良いのかな。
金髪の女の子。
その子が魔王に完全に捕まっちゃうまでに、魔王が持ってきた「玉」を無力化するのが目標らしい。
……その子のそばに「すごくかわいい」とか「ないすばでぃ」とか「あるのどういたい」とか「てぃーえすっこ」とか書いてあるけど……ゲームの世界観がいまいち分からないから今は良いや。
「……もうすぐ魔王が襲来……ふんふん……あ、援軍を良い感じの順番で運んでくる感じかなぁ」
六角形のタイルが――どんな技術なのか、立体投影ってやつで3Dになっている。
ちょっと戸惑うけど、操作していくと感覚でだんだん分かってきた。
ぴこぴこ。
ぴこぴこ。
「………………………………」
かっこいい。
たのしい。
僕はゲームが得意だ。
これだけは理央ちゃんにも負けない。
田中君には負ける。
クラスの男子たちにも負ける。
駅前のコンビニで良くたむろしてる小学校男子たちにも対戦を挑まれて、やっぱり負ける。
負けるとなぜかみんながお菓子を分けてくれるんだ。
でも、理央ちゃんにもお母さんにも唯一負けない特技なんだ。
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




