455話 【おいたわしい理央様】
【あびゃびゃびゃびゃ】
【うへへへへへへへへ】
【まんまぁ! まんまぁ!】
【わー、ちょうちょー】
【ちょうちょがひらひら飛んでいくねー】
【飛んででいくねー】
【真っ暗な中をひらひら舞ってるよー?】
【かわいいねー】
【かわいいねー】
【さ、最大限好意的かつ希望的観測かつご都合主義的に考えたら、あのサキュバスユニコーンちょうちょ聖女ロリユズちゃんがどうにかしてダンジョンそのものを動かして、さっさと攻略しやすいよう理央様たちのために中のモンスターを振り落とした……やっぱ無理だよこんなん……なんだよこれ……なんだよこれぇ……普通に考えたら普通にゆっくりそのまま降下させて何もない地面に下ろすだろ! 下ろす下ろす下ろす下ろすああああああ!!!】
【かわいそう】
【ぶわっ】
【おいたわしい……】
【最後まで言い切った勇者よ……】
【ユズちゃん……? ねぇ、同時視聴で上の様子知ってるけどさ……君、ほんと無自覚で何しでかしてるのぉ……?】
【※無自覚なので分かってません】
【※魔王っ子ちゃん、たぶん絶望してます】
【そらそうよ……】
【これは戦後交渉で相当に譲歩せねばな……】
【ああ……】
【場合によっては出海道で許してもらえるかどうかも分からんな……】
【ああ……】
【悲報・人類、魔王軍と本格的な戦闘の前に敗北】
【ああ……】
【ユズちゃんのせいで出海道も人類もおしまい!】
◇
「――――――はっ!?」
理央は、意識を取り戻した。
何秒、何分、何時間呆けていたのか分からないけども、とにかく戻ってきた。
【理央様!】
【良かったぁぁぁぁぁ】
【理央様……理央様!】
【感動した】
【\300000】
「……フロートウィンドウのコメント欄……ってことは、ここは現実……」
座り込んでいたらしい彼女は、目の前で高速に流れる文字列から目を話してみる。
「……理央様」
「エリー……さん……?」
そこには――常日頃から変わらず、いや、最近は室内限定で理央たちの服を着たりして清楚になったりはしているものの、やはり安心する紐でしかない格好のサキュバスが、理央を心配そうにのぞき込んでいた。
「……強烈過ぎる体験をされたせいで、ワタシども程度の治癒魔法では追いつかず……」
「……どのくらい、経ってますか……?」
「あれより、数十分ほどでございます」
「……そっかぁ……」
「ワタシどもが城より飛翔して降下し、理央様たちを運んで参りました」
「そっかぁ……」
「………………………………」
理央は、ゆっくりとその情報を咀嚼し――認識し、受け入れ。
「――数十分!? え、ちょっ!? あれからどうなって!? ていうかここ、お城ぉ!?」
【ぶわっ】
【理央様が! 理央様が正気に!】
【良かった……良かった……】
【他の子たちと一緒に光の戻らない目をしてたから怖くって……】
【バイタルに異常がないと、リストバンドってオートでは転送しないんだな……】
【思考を放棄することでフリーズするとか】
【そら普通はこんなん想定不可能だし】
【できてたとしたらそいつがちょうちょだ】
【草】
【ちょうちょ……まだ居るのぉ……?】
【居ないと思うか? ここに……】
【こわいよー】
「――理央様。まずは、皆様無事でございます。次に、こちらは安全でございます。最後に――ユズ様のため、魔王側と休戦協定が成立しております。戦闘は、不要です」
ひとことずつゆっくりと、かみしめるように、優しく優しく伝える声。
「……そう、なんですか……」
「はい。受け入れ、余裕ができたら声を掛けてくだされば」
そう言い残すと立ち上がり――理央たちが見慣れた、テイムされたキマイラたちが集まってくる姿に「待て」をして順番に撫でていく痴女――もとい聖女。
【わんにゃんがかわいい】
【かわいいね】
【かわいいね】
【もうやだ! キマイラたちが唯一の癒やしなこの状況がもうやだ!】
【おいたわしい……】
【けどね……】
【うん……】
【先に説明聞いて発狂した俺たちだからね……】
【戻ってこられないやつらも相当数とか】
【※救護班の詰め所がパンクしています 放心状態の人たちで】
【そらそうよ……】
【まさか、ユズちゃんがミラーボールの中で完全に迷子とは……】
【草】
【草】
【世界にあるはずのない語彙の組み合わせで世界にあるはずのない現象が起きている……】
【※異世界にももちろんありません】
【だろうな】
【こんなん異世界にもあってたまるか】
【草】
【ユズちゃん……どうして……】
【そのせいで、たぶん中で好き勝手しちゃって、本来なら吸血鬼っ子ちゃんしか制御不可能なはずのお城のコア――制御装置が、なんかね、動いちゃってね、きっゃきっゃqqqqqqq】
【ああ、とうとう文字すら……】
【お前はよくがんばった、ゆっくり休め】
「……そうねぇ。ゆずったら、小さいころに何回かモールとかではぐれたときとか、とにかく上を目指して――」
「成る程……上だな。ならば、我が向かったのは見当違いの方向だったか……」
「?」
理央は、聞き慣れない声に疑問を抱いた。
【あっ】
【理央様、めっ!】
【そっち見ちゃ】
【ああああああ】
彼女が、腰を浮かしてその声の主を見ようとして――――――
「む? 漸く意識を取り戻したか。人間に、あの光景は酷だったろう」
「……ま、ままままままま……魔王……!?」
「うむ。我こそが今代の魔王である」
「今はおはなし中だから大丈夫よぉ」
――そこには、半径2メートルほどの半透明の球体を両手で操作しながら、何かしらの座標を話し合っている――本来は敵のはずの銀髪の少女に、柚希の母親が居て、
「………………………………」
「 」
【おいたわしい……】
【かわいそう】
【意識ってさ、落ちるのがクセになるんだ】
【分かる(柔道部】
【そっちの落ちるじゃないんだけどなぁ……】
【肉体的なストレスでの気絶も精神的なストレスでの気絶も、落ちる側は一瞬なのが救いだね……】
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




