454話 【崩壊する理央様たち、崩壊するモンスターたち】
――ずずずずず。
そうとしか表現できない――空中で巨大な物体がスライドする重低音が、出海道じゅうに響き渡る。
それはまるで巨大な生物の蠢き。
モンスターの中で最も恐ろしい存在であるドラゴンをすら超える、異質の恐怖。
それが――理解できない運動をしている!
【 】
【 】
【 】
【 】
【 】
【あ、決死の覚悟でリポートしてたヘリのキャスターが気絶してるわ……兵士さんがナイスキャッチしなかったら自由落下してたわ……まぁハーネスあったけど】
【かわいそう】
【かわいそう】
【パイロットさんたちは根性で意識を保ちつつ、空域から離脱中】
【これはプロの意地】
【感動した】
【あの……これ……その……ダンジョンの中身は……?】
【あっ】
【あっ】
【え?】
【ヒント:ダンジョンの天井と床は普通にあるけど、なぜか壁が一部ありません】
【草】
【草じゃないけど草】
【なぁにこれぇ……】
「 」
「 」
「 」
「 」
――しゅんっ。
バイタルの異常を感知したリストバンドにより――柚希に耐性のあった理央やひなた、あやに優、そして教官に加え、たった数名のクラスメイト/親衛隊。
彼女たち「以外の全員」が――故郷へと戻った。
「……しょうがないよ。ゆずきちゃんだもん」
「ゆずきせんぱぁぁぁぁぁぁ――」
「うるさいよりおちゃん」
「ごめんなさい……」
「……ううん、ごめんね、うるさいって言って……でも、ひなたももう、わかんないの……ひなた、どうしたらいいのかって、いくら考えてもなにもわかんないの……」
「ひなたさん……」
ひなたの何かがぽきりと折れ、大剣から手が外れ――ずしんと倒れるのにも気がつかず、ひなたが理央にすがり付く。
「ねぇ……おかしいのかな……? ひなた、ただゆずきちゃんが好きなだけなのに……ひなた、ただゆずきちゃんとみんなと一緒に居たい、だけなのに……!」
「ううん、おかしくないの。ただちょっと……うん……おまんじゅうちゃんを拾ってからの柚希先輩は、ことごとくに変なことに自分から突っ込んじゃうだけだから……」
理央は、慈愛の瞳で幼い子供を抱きしめ――目で声をかけたあやと一緒に、その小さな体を思い切り抱きしめる。
【ぶわっ】
【ひなたちゃん……】
【さすがの財閥ロリも耐えきれなかったか……】
【そらそうよ……】
【頭上で理解不能意味不明奇天烈な事象が起きたらねぇ……】
【むずかしい漢字ばっかり使ってる】
【全部含めて「ユズちゃん」って言うんだよ】
【それなら分かる のうが……書きとりをかいしする……】
【草】
【草】
【あーあ】
【理解しようとするからいけないんだよ】
【そうだよ、あんなん無理だよ】
【ユズちゃん……どうして……】
【ほぼ確実にユズちゃんがやらかしてる確信だけはあるな!】
【この動き……ミラーボールの……】
「「「――――――ァァァァァァアアアアアア……!」」」
【!?】
【なんだ!?】
【あっ(察し】
【あっ(絶望】
何か。
何か、小さな声が――無数に舞っている。
優は、勇気を振り絞り、面を上げる。
「……――あははははははは。あは、あはは。あははははははははは」
彼女は――高らかに笑った。
【あっ……】
【かわいそう】
【教官さん、リストバンド!】
【これ精神やられたやつ】
【マジでかわいそう】
【こんな場面でもみんなを勇気づける演説するほどのガチ勇者を一瞬で混乱状態に叩き落とすちょうちょ】
【ちょうちょこわい……】
【こわいよ?】
【こわいよー】
【優ちゃんが……あの優ちゃんが、ひっくり返った裏声でひたすら笑ってる……】
【かわいそう……】
【憐憫の情しか浮かばないね……】
【なぁにこれぇ……】
【考えるな、感じろ 感じても無駄だがな】
【感じたら最後、ユズワールドが襲ってくるぞ】
【草】
【あれが……ユズワールドか……】
――空から降ってくるのは、無数のモンスター。
翼のあるものは、まだ、救われている。
羽ばたきながら滑空しつつ、地上を目指せるから。
でも――そうでないものは。
「ヴァァァァァァァァァ――――――」
「ひぃっ……」
――真っ逆さまに堕ちる、新七両郭タワー(ダンジョン)からはみ出る形で降ってきたモンスターとあやの目が、一瞬だけ合い――そのまま下へと、百数十メートル下へと落下していく。
――ぱぁんっ。
恐らくは地面と――の音。
「……うっぷ……おぇっ……」
それを見てしまったあやが――せめてもの理性としてひなたから手を離して距離を取り、強烈な横隔膜の反射でうずくまる。
「あやちゃん……なにがあったの……」
「知らなくて良いの……! ひなたちゃんは、なんにも……!」
直接には見ていないものの、次々と降ってくる――本来は敵として、何よりも通常の個体は知性もなければ生物でもないと結論づけられており、倒せば魔石となるため一切の感情を抱かずにトドメを刺せるはずのモンスターたち。
それらが――あまりにも哀れに、無残に、非道に、悲鳴を上げながら地面へと落下していく姿。
――どしゃっ、どしゃっ。
幸運でも不幸でもなく、そのまま七領郭の最上階に叩きつけられ、瞬時で魔石へと物言わぬ姿へ変わっていく、グロテスクな光景。
幸いにして、モンスターたちはどれもHPが0になった瞬間、本来なら破裂するはずの肉体になる前に、ただの石へと変化する。
だから、見た目上は、ただの石の流星群。
――だが「人」というのは、ときに敵にでも――自分たちとはまったく違う存在である無機物にでも共感と同調を覚えてしまう、無駄に高度な存在であり。
それを見てしまう理央も、耳だけで察してしまうひなたも――笑い続ける優も、年長者であり現場責任者としてのプライドだけで意識を保っている教官も――――――精神に、癒えない傷を植えつけられていた。
他ならぬ、愛しているはずの柚希のしているだろう行為の結果によって。
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




