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453話 【勇者優ちゃん】

「ああ……」

「これは、もうだめだ……」


「無理なんだよ、もう……なんだよちょうちょって、なんだよユズワールドってぇ……!」

「脳が……すべてを拒む……」


頭上の、巨大構造物――禍々しい巨大ビルが、自分たちを見下ろして浮遊している――しかもそれは魔王の城をたたえ、中には無数のモンスターがこちらをうかがっている。


それを認識してしまった人々は、一気に正気を失っていき――


「せ、精神に異常をきたす前にリストバンドで離脱を! 肉体の損傷は治癒魔法で回復できますけど、精神のそれは時間がかかりますので!」


――しゅんしゅんしゅんっ。


支援部隊を指揮していた教官のその声に――半分近くのダンジョン潜りたちが、一斉に離脱。


自分の意志で、あるいは強制的に。


ただ恐怖しただけで――生命の危機に準じる恐慌がバイタルを直撃したせいで。


「あっ……そ、そうですよね……柚希さんの作り出す理不尽を何度と経験していないと、心、折れますよね……そうでした、ごめんなさい。私、もうすっかり柚希さんの作り出す何かのこと、当たり前だって思ってしまっていて……」


教官の彼女は、悲しい目をしてそっと伏せた。


【かわいそう】

【なかないで】

【気がつけば常識人枠兼おいたわしい役の教官ちゃんも、ユズワールドに汚染されていたか……】


【やっぱ最強、精神汚染】


【しかも悪意がないパターンのね】

【脳が……浸る……】

【脳髄まで汚染されそう】

【草】

【ほんとにかわいそう】


「りおちゃん、なんとかしてね」


「え゛っ」


じとっと理央を見上げるひなたが、前へ進みながら言い残す。


「ちょっ!? ちょっとひなたちゃん!? ひなたちゃーん!?」

「理央さん、我慢してください……きっとひなたさんも、この光景に……」


ふらふらと――両手で持っている大剣の重みで、普段になく頼りない足取りのひなた。


その背中は……年相応の、小学生のものだった。


【あー】

【あー】

【賢いロリだからなぁ】

【むしろよく耐えてる】


【並みの大人でもバイタルに異常が出るところを、本当に良くがんばってるよ】


【えらいね】

【えらいね】

【ショタね】

【えら――誰だ今の】

【草】


【しかしひなたちゃんまで異常行動を……いよいよまずいな……】

【ああ、精神汚染はいよいよ深刻だな……】


――七領郭頭上。


そこには、つい少し前に――柚希も含めたみんなで攻略しかけたダンジョンが、地下にあったはずのダンジョンごと浮遊している。


そのサイズは、人類が好んで建築し合っている、いわゆる高層ビル――それの世界最大のものをもしのぐ全長、それとも深さを備え。


――当然ながら、その質量は果てしなく。


【これ、急に堕ちてきたら……】

【じょばばば】

【しない……しないよね……?】

【ユズちゃんだいしゅきヤンデレちゃんだから、大丈夫なはず……】


【え、でも、ユズちゃんだいしゅきヤンデレちゃんだからこそ「他の泥棒猫は要らない」とか言ってさ、あの質量ごとぷちっと……】


【あっ】

【ひぇっ】

【リ、リストバンドでなんとか……】


【ユズちゃん! ヤンデレにしたらちゃんと面倒見なさい!】

【そうだぞ! ていうか今本当に何やってるんだユズちゃん!】


【知りたいか……?】


【理央様たち攻略組配信は良いよね  この程度の脅威でまだ済んでるから】


【そんな脅威、それとも驚異  知りたいか……?】


【知りたくないな……】


【教えてやろう】


【知りたくないな……】

【そろそろ教えさせて  脳がすり切れそうなの】


【草】

【かわいそう】


【※さっき優ちゃんが顔面スライディングした時点とは比べものにならない深刻さです  ひらっひら羽ばたいてます】


【もうだめだ……】

【あばばばばばば】


「……コメント欄を見る限り、柚希さんが柚希さんをしていますけど、致命的な事態には陥っていない。……みんな、がんばりましょう。せっかくここまで来たんです!」


――ざっ。


天性のカリスマ、それとも真面目にダンジョンパーティーのリーダーとしての心得を様々な講習や書籍、動画、そして先輩に学んできたからか。


混乱の極致に居た全員から数歩走り、背負ったマントをばさりと翻し――よく響く中性的な声で語りかける、優。


いや、張り上げた分低くなり――それはまさに、青年の叫び。


「……優さん……!」

「ゆうちゃん……」

「優さん……!」


「柚希さんは――『ユズちゃん』は、もう目の前。頭上のダンジョンも、私たちで既に一度――いえ、魔王城がなぜか最上階に転移している以上、この真上にある最下層はもぬけの殻。……たとえ戦力が半減しようと、突破は容易です。だって、私たちは一度、クリアしているのですから」


光を受け、彼女を固める黄金と赤と青のまぶしい甲冑が、一堂を照らす。


「行きましょう。私たちには、彼――女を救出し、正気に戻し、魔王も説得し、穏便に去ってもらう――それ以外に、勝ち筋はありません。それ以外を考える意味は、存在しません。悩む前に、助けに行きましょう」


【おお】

【キャーユウチャーン!】

【これはカリスマ】

【これは勇者】


【かっこいい】

【男でも惚れるわこんなん】

【女はみんな即沈です】

【そらそうよ……】


「……ええ! みなさん、あと半分です! 今から部隊を編成し直し――!?」


――ごごごごご。


重低音が突如として「頭上から」響き渡り、勇気を取り戻しかけていた全員の視線が、上に吸い寄せられる。


「……あ、え……?」

「なに、あれ……」

「……落下……いえ、回転している……?」


――彼女たちの頭上の構築物。


多層巨大ダンジョン。


それは――ゆっくりと、その巨体を「中心部から」回転させ始めていた。


「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」

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