449話 【悲報・おいたわしさで心が痛い】
「なぁっ! これ、きっとユズも気に入ると――」
「おやびん様。お静かにお願いします」
青い顔をしたエリーが、普段より低い声で諫める。
今の彼女には――普段のように単純で直情的な、同僚のおやびんを気遣う余裕など、なかった。
「お、おう……そっか、ダメなのか……綺麗なんだけどなぁ、宝石みたいで」
きらきらと輝くミラーボールを反射していたおやびんの瞳は、しょんぼりとした。
「俺様、欲しかったんだけどなぁ……エリーが怒るんならしょうがねぇや……」
「ええ、ですから……え? あ、ちょっ!? おやびん様!?」
すっかりしょげたおやびんを見て、エリーのメンタルが少しだけ回復した。
【草】
【おやびん……】
【かわいい】
【ピュアっ子だから……】
【ユズちゃんと同じだから実質小4くらいの子供だから……】
【たぶんここに来たユズちゃんもおんなじ反応したから……】
【草】
【口先曲げてぶーたれてるのかわいい】
【かわいそうがかわいい】
【わがまま言わないのはえらいね】
【えらいね】
【ユズちゃんよりもえらいね ステイできる分、何倍も】
【草】
【ユズちゃんとそっくりだから……】
【ユズちゃん……どうして……】
【ユズちゃんに吸い寄せられたおともだちだからね……】
【ミラーボールくらい……あ、haruzonで売ってたわ】
【ちっちゃいなら1000円台からあるのか……うわやっす】
【そんなん、このインパクトに比べたら豆粒だよ】
【お、ゲーミングミラーボールもある】
【草】
【とりあえずみんなで買っておやびんに送りつけるか?】
【いいなそれ】
【すっごく喜んでくれそう】
【これが……プレゼントを選ぶ親、あるいは祖父母の気持ち……!】
【草】
【ちゃ、ちゃんとあとで優ちゃんかあやちゃんに相談してからよ……?】
【お家に大漁のミラーボール送りつけられてきても……いや、やりかねない ユズちゃんとユズねぇとおやびんなら、ノリで家じゅうの天井という天井に飾りかねない……! きゃっきゃと喜んで、みんな羽でひらっひら飛びながら……!】
【電気代えぐそう】
【そしてエリーちゃんとかあやちゃんがおいたわしくなると】
【草】
【かわいそうに……】
【保護者って大変だからね】
【分かる、うちの子も幼稚園で大変で】
【末裔のママさんパパさんたちは<URL>こっちで雑談してくれる?】
【草】
【あれ? エリーちゃんは?】
青い顔、冷や汗、浅くて荒い息。
丸まった背中、上がった肩――胸元を固く押さえている両手。
それはどう見ても――
【何かを察したらしい】
【なかないで】
【かわいそう】
【心が痛い】
【おいたわしい……】
【エリーちゃんに救いの手を……】
【せめてもう1人くらい心労を分かち合える被害担当を……】
【優ちゃんとあやちゃんはまだ下だしなぁ】
【つっても、この前ユズちゃん助けようとしてたときみたいにすっげえ速さだけど】
【もうすぐ七稜角タワー(仮)の1階層にたどり着きそうだと】
【観光名所の七稜角タワー(旧)が心なしかしょんぼりしているよ】
【草】
「……し、城の制御コアというものは、あのような光り輝く摩訶不思議な――」
主人のしでかした事態に急性の深刻なストレスを覚えつつ、エリーが尋ねようとしたが――
「それは決してあり得ません断固として否定します遙か昔の魔王様が手に入れた秘宝を何千もの術式で意のままに操るすべての世界を観測した上でも上位にする奇跡の存在のはずでございますこれだけは神族からも一目置かれ定期的にその完成度をひと目見たいと表敬訪問があるほどの存在です至宝です魔王様が統治されています機械文明の素晴らしい技術を導入しまして多少歪な見た目ではありましたけれどもそれは機能美というものでありまして……間違っても……間違っても、このような……このような……奇っ怪な存在では……!」
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません、ユズ様が我らの主が誠に申し訳ありません……何をされてしまったのかさっぱり分かりませんけれどもとにかくお詫びを……」
メイドは――魂から絞り出す慟哭を発し、エリーもまた魂から謝罪した。
【草】
【草】
【かわいそう】
【かわいそすぎる】
【おいたわしい……】
【すげぇ、今のメイドさんマジ切れだったぞ】
【そらそうよ……】
【おすましでかわいかったメイドさんがすごい形相に】
【こわかったよー】
【※国宝どころか全世界の宝?的なものを、忍び込んだ子供が好奇心のあまり勝手に作り替えちゃったみたいな大惨事です 大切な宝石を割っちゃうよりたぶん悪質です あれです、柔らかい素材だけどとんでもない価値のある芸術品を粘土みたいにこねこねして意味のないものにしちゃった的なやつ】
【草】
【怒るに怒れないし悲しむに悲しめないな】
【かわいそう】
【かわいそう】
【ユズちゃん以外のすべてがかわいそう】
【おやびんのことも忘れないであげようね】
【そうだね】
【草】
【ユズちゃん……どうして……】
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




