45話 助けに入った彼らが見たもの<百合空間>
「中級者向けダンジョン」、その1階層。
比較的広いそこは結構な迷宮になっており、さらにはダンジョンの中身が更新されて間もないこともあって、マップの作られていないエリアの方が多い場所だ。
だからこそかなり賑わいを見せていて……専業で潜るパーティーや、休みを取って潜る人くらいしか訪れない平日の午前から昼間の時間しか静かにならないダンジョン。
そこへ、ちょうど「そのタイミング」で入り口に向かっていたのは、中級のダンジョン潜りたち――プロをやるにはまだ足りないが、それでもこのダンジョンのレベル的には充分に最下層までたどり着く実力を持っている数人。
そんな「彼」らは、入る直前に……偶然、待機所のモニターに映っていた光景を観た。
少女が4人――少し粗い画質の、ダンジョン内の定点の監視カメラに映るその内の2人は、どう見ても小学生ほど。
それが、モンスターに囲まれている。
「ねえ、あれ……」
「やばくない? あの子たち」
「リストバンド使ってないってことは大丈夫なんだろ?」
「でもさ、よく救助費用ケチってケガする子居るし……」
「あ。 ……もう別のカメラに切り替わっちゃったけど、あれ、1階層でしょ? 余計にケチるんじゃない?」
「それか、トレインすることになるからって遠慮しちゃうタイプか……」
「今どきの子は無駄に礼儀正しいって言うか……まぁ私たちもそう言われるから分かるけどさ」
「………………ちょっとすみません、この数十分で……」
胸騒ぎがしたリーダーの「彼」が守衛に尋ねると、直前に入った少女ばかりのパーティーなら「レベル1の子たちをキャリーするらしい子が通ったねぇ」と告げられる。
――リストバンドでの通報システム。
ゲートを通る際に義務づけられている、両腕へ装備する2つのバンド。
常にバイタルを計測しており、極端に乱れた瞬間にダンジョン内での転移魔法を発動し、最寄りの救護施設へ搬送するシステム。
それがあるから、彼女たちはまだ、大丈夫なはず。
……しかし救助要請――こちらは危険を感じたら自分で通報できる方だ――それが出てはいないものの、状況的には明らかにモンハウに遭遇していた。
しかも、少女の内の1人だけが戦って残りの3人が隅で困る様子。
キャリー。
レベル1。
想定外のモンハウ。
戦力は、1人だけ。
「「「「………………………………!」」」」
彼らは、言葉も交わさずに全員で駆けた。
そうして、彼女たちの元にたどり着くまで、わずか5分。
――だが、たどり着いたと思ったら戦闘は終わっており。
リストバンドがあるから大丈夫とは言え、悲惨なことになっているのではと心配していた彼らは、安堵した。
疲れ切って放心状態だったのもあって念のための治癒魔法も掛けたが、大きなケガはなく。
ただ、レベル1だという3人は……1人の大剣使いの子供は体力、残りの2人は明らかに魔力切れを起こしていた。
だから彼は、残りの2人を抱えた彼の仲間たちを見て、「ぬいぐるみ、もといモンスターを抱えたテイマーの少女」を抱きかかえてゲートまで向かおうとした。
特に他意はなかった。
決して彼の好みだからと言うわけではなかった。
どことなく中性的で、少女らしさの中にふと何かを感じるからではなかった。
柔らかそうだからではなかった。
幼そうだからではなかった。
その顔を見て心臓が跳ねたからではなかった。
純粋をそのまま表したような表情だからではなかった。
絶対に違った。
多分。
……だが、「彼」はその願いを叶えられなかった。
「せんぱぁぁい! どうして! いつもどうして肝心なところで寝ちゃうんですかぁぁぁぁぁ!!! あんまりですぅぅぅ!!」
【草】
【理央ちゃん、魂の絶叫】
【あっ(尊死】
【大声で百合宣言とは……理央ちゃん、やりおる】
【しかもこれ、寝ちゃうって】
【お泊まりとかする仲っぽいし……】
【これ、ユズちゃんのこと狙ってるよな?】
【それ以外に何があると?】
【俺、ユズちゃん推しで来たけど理央ちゃん推しにもなるわ……】
【俺も】
「いつも! いつも! お風呂入るときだって、いつも先輩だけ平然としてぇー!」
【お風呂】
【おふろ】
【JKにもなってお風呂に入る幼なじみ……いいぞ】
【なるほど……これは天然受けの子と、その子が好きだけど毎回告るのに失敗する子の百合ね】
【素敵なカプね……!】
【ああ……!】
【リアルの、しかも高校生と小学生?の歳の差おねロリとか最高じゃない】
【おっと残念だ、ユズちゃんはまさかの高校生だぜ】
【しかもそこの絶叫している理央ちゃんより年上】
【は? 嘘言わないで】
【どう見てもそこの大剣の子と同じじゃない、ふざけないで】
【ウソじゃねぇ】
【草】
【信じてもらえてないユズちゃんで草】
【新参のはアーカイブ巻き戻せよ? びびるぞ】
【つまり年下に見える先輩受けと、年上に見える後輩攻めね? 最高じゃない】
【濃厚な百合に感謝】
【この子たちをウォッチしないと……】
【ってロリっ子にお姉さんも居るじゃない!】
【何この宝の山……ここに定住するわ】
「「「「………………………………」」」」
――助けに来た彼らは、ものすごく申し訳なさそうな顔をした、大学生ほどの女性から無言で見せられたそのコメントの流れっぷりをなんとか追って……大体のことを理解した。
「……えっと……私たち、要らなかった……?」
「むしろ邪魔、しちゃったかなぁ……?」
「いえ、助かりました……すみません、私も眠くって……これ以上モンスターが寄ってきたら……」
「むにゅ……ゆずきちゃぁん……」
リーダーの青年は中腰のまま固まっていて。
少女と女性を肩で支える女性たちは、「ああ、そういえば最近ユニコーンとかなんとか……」と気が付き。
「ゆずせんぱぁぁい! せめて! せめて言い終わってから寝てくださいよぉぉぉわぁぁん!!」
【もしかして:理央ちゃん、不憫属性】
【ああ……】
【元気っ子後輩JKから不憫へ進化してしまった……】
【かわいそう】
【かわいそうがかわいい】
【わかる】
【でもユズちゃんの寝顔は嬉しそう】
【かわいい】
【ユズちゃん……君、いつもこうなのね……】
【理央ちゃんの苦労が忍ばれるな……】
【さっさと押し倒しちゃえよ……って言っても、それすら理解できない可能性……】
【ぶわっ】
【不憫すぎる】
【まさかの突発配信からのダンジョン間違え、からのモンハウにユニコーンレーザーに完璧な連携からのこのオチよ】
【やっぱユズちゃん、なんかもう……持ってるよね……】
【なにしろこの惨状の元凶だからな】
【草】
【もうそれでいいや】
寝落ちしてしまったテイマーの少女を抱きかかえながら、泣きながらぶんぶんと振っている少女は――いつまでも同情を誘っていた。
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