443話 台風の目
僕は、「魔力を使い果たしたときみたいな眠気」でもうろうとしている。
何を見ても聞いても、ふわふわしてきている。
『……まったく神族め。融通が利かぬ……が、まずは1人。「還ってきた」あれを見よ。少しばかり持ち出しになるが、奴との約束は守る。だが、最も大切なお前にとって大切な存在が来る――代わりに、父親のことは忘れよ』
「え……」
僕がふんわりとした目で、魔王さんの目線を追うと――
『……ゆずきちゃぁぁぁーん! どこぉー! 生きてたらへんじ、してぇー!』
遠くから――けど、よく響く元気な声が。
今と比べると、とっても幼くて――でも、今と変わらない元気な理央ちゃんの声が――――――
◇
「……ほぇ?」
僕は、目を覚まし直した。
「……今の……ああ、なるほど。だから僕は」
理央ちゃんから視線を戻すと、もうそこには魔王様は居ない。
もういちど目を向けると、そこにはもう誰も居ない。
ただの、暗闇。
ただの、空間。
「………………………………」
情報を整理しきれないと判断した僕の頭が、勝手にリリスモードってのになる。
「お父さんのこと……そういやお母さんも、ずっと……うん、なにより僕が完全に忘れてたのは……幼かった心を、守るため。そして、あの魔王さんの……だから無意識に僕の心は。――『よっぽどのことがないと何も気づかないし、気づけない』、みんなからはちょうちょとか言われてる状態に――」
◇
「申し訳ありません申し訳ありません、我らが主人がそのようなご迷惑を……!」
「申し訳ありません申し訳ありません、お預かりしている身分で目を離してしまうなどと……!」
「申し訳ありません申し訳ありません、ユズ様は……その……少々、目についたものへ吸い寄せられる性質がありまして……」
「申し訳ありません申し訳ありません、それを知りながらお可愛らしさに撃沈され……そのせいで城は現在非常事態でして……」
「いえいえいえいえ……」
「いえいえいえいえ……」
城へ入り、大広間から広い正面階段を駆け上がり――切ったところで情報交換を済ませた2人は、何度目となる謝罪の応酬で何度目に立ち止まり、深々と頭を下げ合う。
【おいたわしい……】
【かわいそう】
【あーあ、ユズちゃんに関わっちゃったばっかりに……】
【あー、そういやエリーちゃんもメイドさんも、どっちも自分からユズちゃんに目をつけたってのは同類か】
【あっ】
【草】
【そして保護者として被害担当になると】
【かわいそう】
【かわいそう】
「きゅ、きゅひ……きゅぴぃ……」
腰を折って謝り合う2人。
その片方――なぜかメイドの腕の中で、まったく気づかれずに圧迫されているユニコーンが蠢いていた。
ついでにそのHPは危険水域まで削れていた。
一方で、その目は血走っていた。
【駄馬は耐えろ】
【おっぱいに潰されるんなら本望だろ淫獣!】
【いっそのことおっぱい圧でぷちっと】
【爆発四散しろ】
【配信カメラさんだけ置いてな!】
【草】
【画面がメイドさんおっぱいで】
【言うか白い布しか見えないけどな】
【なんでメイドさんがユニコーン抱っこしてるのぉ……?】
【ユズちゃんの大切なペットだって聞いちゃったから……】
【あ ユニコーンが喜ぶってことは、このメイドさん……】
【!!!!】
【男子サイテー】
【待て、百合っ子の可能性もあるぞ だってあの魔王っ子ちゃんのメイドだし】
【ふぅ……】
【百合吸血鬼主人×メイドか……】
【百合っ子カップルはどこまでユニコーンの範囲か……悩ましいな】
【それは大変にお美しいですわ】
【草】
【ばかばっか】
「しっかしバカでけぇ城だなぁ……俺様もこんな城に住みたかったぜ。あ、築何年だ? 古いほど良いんだろ?」
「ええと、4万と2000年くらいかと……改修を重ねており、完全に見る影もございませんが」
「すげぇ……! なぁなぁ、俺様、今度泊まりに来ていいか!?」
「お、おやびん様っ! 一応は敵地ですので……!」
ぱたぱたと翼を動かしながら目を輝かせる――中身童女。
【おやびん……】
【おやびんは……うん……】
【ユズちゃんのおともだちだから……】
【草】
【うん、精神年齢はね……】
【い、癒やし枠だから……】
【大人のフリしておしゃけ飲んじゃって仲良くなった仲だからね】
【草】
【けど、建物が古いほど良いって感性が分からん】
【あー、欧州とか建築物がデフォで残りやすい土地では、いわく付きでも古い建物が好まれるんよ】
【なるほど】
【アジアでも古いのはすげぇってなるだろ?】
【アジアは湿気と地震でなぁ……】
【すげぇ(良く残ってたな】
【↑それな】
「……それで、そのコア――制御機構というのは」
「はい、ここから先の玉座の間から奥にございます」
早足で駆けるメイド。
その足は、紅と金で豪華な絨毯の上を音もなく走り抜ける。
【すげー】
【綺麗っていうかすげぇ城】
【こんなの欧州の観光地でも早々ないぞ?】
【ていうか現役の城だもんなぁここ】
【※外ではすさまじい数のミサイルやドローンVS.飛行系モンスター(ドラゴンとか普通に飛び回ってる)の大戦争です】
【※この世界で最大の戦力が囲んでいます】
【※国連の空母打撃群どころか水上打撃群も囲んでます】
【※事実上、この地球の全火力の9割です】
【※台風の目って青空って言うよね】
【草】
【ひぇっ】
【空気が……まるで違う……】
「え? えっと、応援してくれると嬉しいです。具体的には最下部↓の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に、まだの方はブックマーク登録……なにこれ、理央ちゃん」




