411話 義憤と宣戦布告
「……私は……私には、その資格が、あるだろうか。魔王になる、その資格が。なにしろ私は、こうなる前は……」
ぽつり、と。
「魔王」として――「数十の世界を飲み込んだ吸血界」を統べる吸血鬼として。
けれどもまだまだ幼い彼女は、不安そうに――「全てが年上の」使用人たちを見上げる。
「何をおっしゃりますか」
「我らの仇敵である神々から力を与えられた人間の少女を――あれだけ、愛していたではありませんか」
「哀れな境遇に、涙を流されたではありませんか」
「魂から愛情を抱いたではありませんか」
「怒りで震えたではありませんか」
「それこそが――それこそが、王となるべき器の証でございます」
「他の生物へも平等に愛し、怒り、悲しむこと。それが、生物の頂点として必要なのでございます」
「きっと、聖女様も近い性質をお持ちでございます。――しかし、彼女はいまだ、護られるべき存在です」
「そんな彼女を――手遅れだったとしても。誰かが、守護らねば、ならないのです」
「これは、そのために必要な力でございます――主様」
メイドたちは、皆同じようなトーンで――一様に無表情で、しかし内に秘めた想いと共に、彼女へ伝えてくる。
「……お前たち」
――かつん。
一行は、城の中心――その尖塔へとたどり着く。
「さぁ――この腐った世界を、滅ぼしましょう」
「いけません――いけませんいけませんいけませんいけません!! ――この世界には聖女様と同じように哀れな存在も、きっとたくさん居るはずです」
「それはあまりにも残酷でございます」
「人間を根こそぎではなく、あくまで王、貴族、軍――支配階級を根こそぎで根切りで族滅程度でよろしいかと。まるごとは、あのお方が悲しまれます」
「幸いにして、たとえ乙女を略取するシステムだろうと、システムはシステム――統治機構を、そのまま流用するのが結果として最良と進言致します」
「さくりと支配階級だけを刈り取りまして――まずは寛大な自治で民を落ち着かせ。然る後に、悪を抽出すべきかと」
「聖女様を拐かし穢した者は殺さず、永遠の責め苦を。それが、私共の唯一の願いでございます――主様」
「――分かった。では――――――」
――かつん。
尖塔の、頂上。
そこで――魔王となった少女が、笑う。
「――宣戦布告と行こうではないか。我ら魔の者は、この世界の人間どもとは違い、理を――何よりも、義を尊ぶのだから」
◇
「よし、道は開けたぞ!」
「ハロウィンみたいな魔王軍だったなぁ」
「俺たちも仮装するか?」
「モンスターと間違えて切られても知らないぞ」
「ユズちゃんに切られるなら……」
「うわぁ……」
「「わおにゃあん!」」
焼かれ、刻まれ、溶かされ、凍らされた地面一面に散乱する結晶を眺めながら、ちりぢりに逃げていくモンスターたちをテイムモンスターたちが楽しそうに狩るのを眺めながら進む一同。
【こいつら……】
【気持ちは分かる】
【ユズちゃんにされるならなんでもいい】
【むしろそれが良い】
【分かる】
【\10000】
【えぇ……】
【しかし大決戦だった】
【それな】
【まさかダブルユズモンスター軍があんだけ強力だとは】
【強かったなぁ】
【それに支援された人たちも強かったね】
【そらまあ最前線の出海道の軍人さん&上級者パーティーだし】
【迫力満点の戦闘だったな】
【みんな、自分の配信で登録者もファンも集めたしWin-Winってやつだな!】
【※ただしユズちゃん関係者になりました】
【もうだめだ……】
【草】
【ユズちゃん関係者って時点でね……】
【かわいそう】
【力が抜けていく……】
【だめだ、どんなにすごいことでも「ユズちゃん」で全てが台無しになる……】
【草】
【ひでぇ】
【だってユズちゃんだし……】
【元祖ちょうちょだもんねぇ】
【てかそのユズちゃん is どこ?】
【だから今から全軍で城をって】
【増援も500人以上来たし、これでもう今夜にはユズちゃんも回収してダンジョン攻略達成だな!】
【そうだな! 人類の戦力としてはほぼ最高峰のが揃ってるしな!】
【なによりもユズちゃんへのいろんな想いでパワーアップしてるからな!】
【※「ユズちゃん」のワードで全てがデバフになる可能性があります】
【もうだめだ……】
【草】
【ユズちゃんが強すぎる】
【おいばかやめろ】
【フラグ立てるなって】
【やめてっていってるでしょ!!】
【こわいよー】
【ユズちゃん関係だと、数万のコメントのたったひとつのせいで……ってよくあるからみんな気をつけろよ】
【あれ なんか城の上の方、光ってね?】
【えっ】
【えっ】
「ユズちゃん救出隊」が駆け足で進んでいたところへ――遙か高くから、声が響き始める。
『――初にお目にかかる。この世界の人間どもよ』
――しゅんっ。
真っ黒な城の真上には、明るい立体映像。
燕尾服を赤でアクセントをつけた――「ザ・吸血鬼」のコスプレをした少女にしか見えない存在が――その上半身が、映っている。
幸か不幸か、柚希を迎えたときのような紐で透け透けではなく、吸血鬼コスを着こなした少女の姿だった。
【かわいい】
【かわいい】
【きりっとしてる】
【吸血鬼っ子】
【これが魔王……?】
【なんか幼いよな】
【JK……JCくらい?】
【ユズねぇと同じくらいか】
【銀髪紅目美少女……伝統的な吸血鬼っ子で良いね】
「………………………………」
「? どうしたの? ゆずきちゃんのお――姉ちゃん?」
投影された少女を――気楽なコメント欄で埋め尽くされるほどの美少女を。
現地の人間は警戒してにらみつける中、柚希の母親だけが――。
「……どうしてかしらねぇ」
頬に手を当てながら、ただ1人。
不思議そうな顔をして見上げていた。
「なんだか、不思議な感じがするのよねぇ……あの子」
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