400話 【速報・ユズねぇ、満を持して出陣】
「ふんふーん♪」
ごきげん。
僕はごきげんだ。
おいしいもの食べて、その上お風呂に入れるんだ。
しかもひとりで。
……ひとりで!
これ以上の幸せってのは存在しないもんね。
「ふんふーん♪」
ううん、別にみんなと一緒が嫌とかじゃないんだ。
たださ、ほらさ、僕ってばあの中で唯一の男なわけでさ。
田中君とかと一緒ならなんともないんだけども、女の子が相手だとちょっと恥ずかしいもんね。
……昔は一緒に入ってたのになぁ、田中君。
確か中学に入ったときから田中くんの方が嫌がってたんだっけ。
なんでだろうね。
わかんないや。
でも嬉しいから今はどうでもいいや。
「~♪」
「……廊下を、普通に歩かれるだけで……!」
「どれだけ虐げられてきたのか……おのれ人間」
「どうやら聖女という役割すら見下す文明の様子。主様に進言を」
「そんな生活だったのに恨みもない、純真な心……これが、聖女様ですか……」
「いえ、これはきっと、高潔なる許しの精神……しかし、私共には、そんな真似は到底……!」
「ふんふーん♪」
メイドさんたちは、仲のいい人同士でこそこそ話して盛り上がってるらしい。
うん、こういうのって良いよね。
みんなと一緒だけど、静かにしてたいときはそっとしておいてくれるのって。
◇
「え、要らないです」
「そんな……!」
「聖女様……!」
「どうか、どうかお世話を……!」
「聖女様、一般的な世界では高貴なお方は着替えなど、我らメイドのような者に任せるのが……!」
着替え場らしい部屋。
……なんでか知らないけども、お風呂を案内されてそのままおててをわきわきされてる僕。
小部屋に10人以上のメイドさんがぎゅうぎゅう詰めになりながら入ってきて、その両手なもんだから20以上の手が――100本の指が、妙にぬるぬるとした動きでわきわきとしている。
あと、顔が怖いよ……?
なんだかみんな……理央ちゃんみたいな感じになってきてない?
気のせい?
「さぁ聖女様、ぬぎぬぎしましょう?」
「大丈夫です、怖くありませんから」
「ちょっとだけ! ちょっとだけ――はて? 何がちょっとなのでしょう?」
「良く存じませんが、主様を気持ちよくして差し上げるのと同等の高揚が……?」
「ひ、ひぇぇぇぇー……」
◇
「――では行きますっ!」
「おう! ――お前ら、行くぞ。焼き払え」
ごうっ。
高高度――ボスフロアというにはあまりにも広く、「恐らくは最下層~次の最下層までの空間丸ごとなのだろう」と結論づけられた、戦場の真上。
コウモリ型のモンスターたちですら届かない、絶対的な制空権確保の状況。
そこから――数十のワイバーン、加えてなぜか着いてこられるニワトリ(コカトリスらしきもの)やハト(巨大・ぐるっぼーと野太く鳴く)やらのキマイラ勢が参加し、それへ夢魔部隊がバフを掛ける形での総攻撃。
炎のブレス、石化や毒の雷撃、ぐるっぼーと音波攻撃――それらが一斉にコウモリたち「仮称魔王軍」の航空戦力を飲み込み、そのまま余波が地表へ到達。
「う゛ぁー……」
「ケケッ!?」
メインの炎で――ほんのり焼けていただけで平気そうだったゾンビたちが、直撃を受けた範囲から炭に――そして結晶へと変わっていく。
逃げようとした、巨人種の亜種――視聴者たちは「フランケンシュタイン」と呼んでいたが――や、包帯で巻かれたマミーたちも、石化で動けなくなったり毒や音波で足止めを食らったところを、次の炎で焼かれていく。
それに対処する手段は――最初から存在しなかった。
【うわえっぐ】
【制空権確保してるからね……】
【空の安全って、大切なのね……】
【制空権ってのの大切さ、今知ったわ】
【俺も】
【てか……あれ、何……? ユズねぇの新作モンスターたち】
【草】
【新作言うな草】
【どこでいつの間にテイムしたんだろうね……】
【よくわからんがすげえ数だし士気も高いな】
【そらまあユズねぇにテイムされるんならやる気も出るだろ】
【\500000】
【どっかのおじさん末裔もそう言ってるぞ!】
【草】
「今よぉ! みんなで狩りのお時間! 外から食い破りなさーい!」
「わふっわふっ」
「にゃああん!」
「ココココココ」
「ウキー!」
「ぐるっぼー!」
「なんだかもう、こっちの方が魔王軍っぽくない?」「魑魅魍魎だから妖怪じゃない?」「じゃあ百鬼夜行か」とコメントで流れていたような異形の群れ。
それらが柚希の姉もとい母の元から飛び出し、モンスターとしての本能で互いに連携を取りながら、つい今しがたに空からの大規模な爆撃を受けて半壊しつつある軍勢へと襲いかかる。
戦場は、一致団結していた。
――「ユズちゃんを早く連れ戻さないと、絶対なんかやばいことになるから急がないと」――と。
◆◆◆
ユズちゃんが400話を迎えてしまいました。
柚希くんもよく分かっていないようですが、まだ続くようです。
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