399話 おふろがあるんだって 入らなきゃ
「はーい! お姉さんよぉ!」
階段の出口前――セーフゾーン。
そこは、星野柚希の「お姉さん」が待機する傍らに美しい男女(万が一のサキュバス・インキュバスによる護衛兼お酌役)を侍らせて酒の相手をさせるという、実にいかがわしい空間になっていた。
「現在、お子――ごほん、妹さんが囚われの身であり、増援を待っても打開する手立てがありません」
「ということはぁ……私のかわいい子たちの出番ね!」
今回の出陣前に買い物へ出向き、「ユズねぇ」が身につけている服装は――
【ユズねぇ!】
【!?】
【ふぁっ!?】
【ユズちゃん!?】
【いや、ちょっとだけ胸元の膨らみがある……ユズねぇだ!】
【草】
【お前ら……】
【し、身長もちょっとだけあるから】
【ユズちゃんよりお姉ちゃんだけど、並ばないと分からないロリっ子なんだよねぇ】
【自称経産婦で母親な中学生だもんな……】
【しかも病弱属性持ちと母性属性持ちな】
【\100000】
【しまった、ユズねぇ狙いの年上末裔たちだ!】
【おじさんたちってば、自分の財力示すために投げ銭の額がすげぇからなぁ……】
柚希とそっくりのワンピースにケープという――柚希にしてみると「また僕のお母さんが若作りしてきゃぴきゃぴしてこびてる……おぇぇ……」な格好で登場した母親。
「さぁ、みんな? ――柚希なら大丈夫だから無理はしなくていいけどぉ……狩り、したくはないかしら?」
「「わおにゃああんこけーう゛ぉぉぉ!!!」」
――ずしん、ずしん。
階段からわらわらと出てくるも、先が見えない動物の集団は。
【……でかくなってね?】
【わんにゃんがでっかくなってるぅー……】
【なんか……進化してね?】
【鳴き声がなんかもうおかしくて草】
【あと見慣れないモンスターたちが】
【もしかして:新しくテイムしたのも居る】
「柚希に負けてられないものね! お姉ちゃんだから! ちょっとしか違わなくても! ちょっとだけ大きいだけでも、お姉ちゃんだから!」
そこには――正統派のテイマーとモンスターたちの軍勢、およそ300が列を作って続々と出陣してきていた。
◇
「ほぇー。吸血鬼さんですかぁ」
「そうでございます。私共の主様は、数年の眠りから覚めたばかり」
「現在、お目覚めの後の湯浴みを手伝っております」
「主様はまだ吸血鬼としては幼体ですゆえ、保育――介護が必要です」
「介護以外にも、ご奉仕も必要でございます」
「きっと、久方振りに城の外の人間の方と会話ができるのを喜ばれるかと」
どうやらこのお城は、吸血鬼さんのものらしい。
確かに言われてみれば、真っ黒で屋根がとんがってるお城――しかもかなりの高台にあるとか、吸血鬼って感じだよね。
「その人とお話ししたら、帰っても良いんですか?」
「………………………………」
「………………………………」
「……主様が、そう望まれたら」
「そうですかぁ」
このメイドさんたちは、吸血鬼さんのことが大好き。
だから、彼が喜ぶことだけをしたいんだ。
――帰っちゃダメってなったら……戦わないとダメかなぁ。
あ、でも、おまんじゅうもチョコも置いてきちゃったんだっけ。
「………………………………?」
「お考えになられてますね」
「かわいいですね」
「かわいいですね」
「首をかしげておられるのが主様の次にかわいらしいですね」
あれ?
僕……このままこのお城から出られない……?
みんなが来てくれるまで、ここで待つしかない?
「……!?」
僕は、衝撃の事実に気がついた。
……このままだと……まずい!
「何かを思いつかれたご様子です」
「かわいらしいですね」
「かわいらしいですね」
「……なぜか、妙に胸がきゅんとなるような……これは一体……?」
「……聖女様。主様は既に湯浴みを終えられたとのこと。もしよろしければ、聖女様もお体を温められてはいかがでしょうか」
メイドさん――僕を連れてきた、メイドさんたちの中でもいちばんえらい人らしい――顔とか服とか、ほとんどおんなじだけども――が、とんでもない事実に打ちのめされている僕を揺らしてくる。
「え、お風呂ですか?」
「さようでございます」
「主様ご所望の、特注の温泉でございます」
「魔力の回復効果もりもりです、もりもり」
「滋養満点、精力増強とてんこ盛りです」
……温泉。
今回の攻略のために、広くてゆっくりしたお風呂タイムがおあずけになってて。
さらにはここ数ヶ月、みんなのうち誰かかみんながお風呂に入ってくるもんだから、ひとりでのんびりってのがなくって。
「……入ります」
おふろ。
おふろは大事だもんね。
「かしこまりました」
「伝令。聖女様が湯浴みです」
「清掃は? ――了解。完璧です」
「風呂場に着かれる前に換気も終わるかと」
がたっ。
僕が席を立つと、僕を連れてきたメイドさんが廊下へと案内してくれる。
石造りの広い廊下。
左右の壁にはろうそくが灯され、声と足音が遠くまで反響して雰囲気が出ている。
こういうのって、良いよね。
「聖女様が望まれるのでしたら、いくらでもご滞在いただけます」
「足りない食材がございましたら、適宜略だ――交渉で入手いたします」
「ベッドは広くてふかふかで、常に20のメイドがお側に」
「主様と恋仲になられたら、姫として――――」
かつん、かつん。
ダンジョンとか、普通に攻略するとこんな感じなのかなぁ。
……いや、最初の頃はこんな感じで、静かにダンジョンの廊下とか歩いてたんだ。
なのに途中から理央ちゃんが仲間になってうるさくなったし、毎回変なことにばっかりなって。
「こういうの、良いなぁ……」
あ、声に出ちゃった。
まぁいいや、良いものは良いんだもん。
あれ?
何か大切なこと忘れてるような……まぁいっか。
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