398話 【悲報・優ちゃんWSS】
「柚希先輩をぉ……返せぇー!!」
「大丈夫だと思うけどなぁ」
「で、ですが、今の柚希さんはおひとりで、チョコちゃんもついていませんし……」
燃えさかるゾンビ軍団が押し寄せる中、水・氷魔法や物理的な堀、盾で前線を完全に封鎖し、どうにか均衡を保つことができている人類戦力。
ダンジョンの中、しかも100対100を優に超える大火力戦、さらに軍と民間人が揃っての大決戦とあって、士気は高い。
しかし――延々と城の周囲からやってくるその数が圧倒的なため、どう見ても、そう簡単には柚希の元へたどり着けないのは誰の目からも明らかだ。
「柚希先輩がぁ……柚希先輩がぁ……!」
【大丈夫でしょ】
【まちがいないね】
【賭ける?】
【成立しないから解散で】
【りょ】
【草】
【でもユズちゃん、チョコちゃんっていう頼れる護衛がいないし……】
【確かになぁ】
【チョコちゃんは頼りになるもんなぁ】
【それ聞くと不安になってきた】
【賭け開催する?】
【するぅ……】
【草】
【あの、ユニコーン】
【あの駄馬、今まで護る方面で活躍したことあったか?】
【こ、攻撃は最大の防御って言うし……】
【ちょっとは活躍したじゃん 詳しくは覚えてないけど】
【あいつ、よく観察してるとさ、隙あらばユズちゃんの方を向いて吸おうとするんだよなぁ……服の上からでも口開けて】
【それを毎回すばやく止めさせてるユズちゃん……】
【淫獣、お前……】
【気にしてないのか諦めてるのか】
【ユズちゃんだからなぁ】
【ユズちゃんにとってはただのいたずらっ子なんだろうけど】
【普通に許されないけどユズちゃんが許してるから保留なだけだぞ偶蹄類!】
【草】
【まーた馬が叩かれてる】
【相応のことはしてるからね……】
「――あ゛あ゛あ゛あ゛! 早く! 早くあの城に行かないと……柚希さんが、柚希さんが見知らぬ主とやらに……あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「優ー、落ち着きなー」
「キャラぶっ壊れてるってー」
「『聖女様』とか、明らかに特別待遇っぽかったしー」
「そもそもあの子、サキュバス――あ、いつもみたいに無自覚で男を誘っちゃったり? 主様とやらも男だろうし」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
――理央のシャウトよりはまだ人間の域を出ないものの、喉の奥から絞り出す魂の叫び声が、最前線の中央から響き渡る。
「あ」
「地雷だった、ごめーん☆」
【悲報・優ちゃん、壊れる】
【かわいそう】
【かわいそう】
【普段真面目な優等生ほど、1回壊れると……】
【優ちゃんしっかり】
【みんなのリーダーを巧みに精神破壊……おのれ魔王!】
【いや、今のはどう見たって味方のFFっていうか……】
最前線で――予備の大盾を借りて防御しつつ、堀へ落ちたゾンビをちくちくと倒していた彼女が、涙を流しながら盾を振り上げる。
――ぐしゃっ。
「う゛ぁー……」
彼女の渾身の一撃で、なまじ柔らかいせいでなかなか倒せないはずのゾンビが数体、潰れて倒れる。
「お前たちの……お前たちのせいでぇ……ぐす……」
「優ったら、こういうとこは男の子よねぇ……NTRの気配で発狂するとことか」
「やば」
「てか、こうなる事態もあり得るからさっさと1発――無理か、優ったら幼いかわいい子には押せないから」
「普通の子相手には壁ドンとか告白ごっことか得意なのに、ユズちゃんにはできないもんねぇ」
優の周囲を固めるのは、彼女のパーティーメンバーたち。
……もっとも、彼女たちはそこまで心配していないのか、優を煽る形でおしゃべりしつつ攻撃しているだけだが。
【草】
【優ちゃんかわいそう】
【かわいそう】
【え? 味方にNTR煽られるパーティーリーダーだって?】
【草】
【緊張感ゼロで草】
【ま、まあ、現状ユズちゃんがお持ち帰りされた以外の被害も出てないし】
【この子たちの言う通り、唯一の懸念はユズちゃんがユズちゃんすることなんだよなぁ……それも、一応は慣れてる理央様たちの手の届かないところで】
【草】
【草】
【ちょうちょならまだ良いんだけどね……】
【うっかり紐になったりしたら……ふぅ \20000】
【分かる】
【えぇ……】
【あの、男&百合女特攻兵器はねぇ……】
「視聴者の末裔さんたちも、まだ相手居ない子はさっさと意中の子にアタックしなよー? じゃないと勝手に脳破壊されるから。『僕/私が先に好きだったのに……』っていうBSSとかWSSってのはただのヘタレの証だから。あ、でも優みたく子供相手は相手の親御さんも口説かないと条例だからね?」
【高速詠唱で草】
【はーい】
【はーい】
【先生! 優ちゃんの脳破壊したのはあなた方ではないでしょうか!】
【草】
【良い空気吸ってるよな、この子たち】
「――伝令! 城より新しいモンスターを確認です!」
「あれは……人型のキマイラ! あと包帯だらけの人型!」
「! 飛んでくるモンスター……コウモリか!」
上空から少しずつ、もはや火の塊となったゾンビたちに、彼らの間を抜けて防御の陣を形成している人々へ遊撃を繰り返しているジャック・オー・ランタンを削っていたワイバーン・夢魔部隊が、新たな情報を緊急で発する。
【キマイラて】
【フランケンシュタイン!?】
【でっっっ】
【包帯のはマミーって言うんだよサキュバスちゃんたち】
【サキュバスさん……えっち】
【言ってる場合!?】
その情報を受け、出口周辺がにわかに慌ただしく動き出す。
「――最下層の出口は!」
「はっ! 今のところ出られなくなる現象は起きていません!」
「リストバンド、問題ありません!」
「電波出力……上層もクリアです!」
「現在、5階層ごとに設置してあります駐屯地より応援を派遣中とのこと! 第1陣は10分後です!」
「遠距離攻撃職を優先して来てもらっています!」
「……分かりました。お母――姉様」
状況把握を終えた教官は――「切り札」に声を掛ける。
「……ところで教官さん。その……あの子は、何を?」
「『ゆずと属性かぶってるしー』……とのことで……」
最前線を柚希たちに任せ、自分は悠々と――ちゃっかりと、士気のために運ばれていた酒を堪能していた彼女が――母親が、動き出した。
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