396話 メイドさんたちは優しい
「んむんむんむんむ」
「お口に合いますか?」
「ふぁい、おいひいれす!」
メイドさんに案内された先の食堂みたいなとこ。
すっごく長細い、白くて綺麗な布がふぁさってかかってるテーブルに、たくさんの料理が並べられていて。
見た目も味も香りも、どれも初めてのものばかり。
つまり……おいしい!
――う゛ぁっ……これ、毒――――じゃなくって、わさびだ!
普通の葉っぱみたいな顔して、鼻の奥からつーんってする!
「くぴくぴくぴくぴくぴ」
ふぅ。
あー、お水がおいしい。
しかもさっぱり……あ、レモン入ってる?
そっか、別の世界の料理だと、苦手な食材とかも食べてみないと分からないんだ。
……次の食事のときからはリクエストしていいかな。
えっと、わさびとからし、にんにく、七味、唐辛子、ピーマン、パプリカ、ナスにネギでしょ、それから……。
「もむもむもむもむ」
そういや、ダンジョン潜り始めてから携帯食料メインの料理ばっかりで、そろそろおんなじ味だなーって思ってたんだ。
そんなところに――見た目と香りじゃ分からない苦手なのが混じってたりするけども、基本的に全部おいしい料理が出されてる。
……この感じ、おフレンチかな?
新しいお家に引っ越してから案内されたりした、メニュー見たら泣きそうになる金額だけども冷静に考えると今はそれだけお金あるんだってほっとするお店とかで出てくる感じの。
「「「………………………………」」」
「?」
ふと顔を上げると――部屋の中に何十人も並んで立ったままで僕を見つめているメイドさんたち、そのすべてと目が合う。
……はー、みんな美人さんだね。
「ほぇー」
「「………………………………!!」」
なんだかどっかで見たことある気がする顔だけども、みんなそれぞれ個性がある感じ。
「ほー」
「……同じような顔が並んでいて、気味が悪くは?」
「え? 綺麗だなーって」
「「!?」」
あ、言うほどには似てないっぽい。
あれだ、スーツ着て髪の毛お団子にしてるお姉さんたちがみんな同じ人に見えるだけで、話してみたら全然違うって感じ。
「……この方、おかわよくないですか?」
「おかわよいですね」
「お持ち帰りは?」
「駄目でございます、主様のものでございます」
「主様は?」
「ただいま入浴中でございます」
「うらやましいですね」
「でもこちらもなかなか」
「必死においしそうに食べている小動物あるいは子供というのは、かように……」
「主様に子をねだるタイミングでしょうか」
……僕を見ながらおしゃべりしてる。
「聖女様。お味はいかがでございましょう」
「あ、メイドさん」
顔を上げると、
「ぐっ……!」
「?」
僕を連れてきたメイドさんが見てきて――いたけども、入り口の方を見ている。
「?」
「……失礼を。お味に問題が無いようでしたら、ひとつ、よろしいでしょうか」
あ、苦手な食べ物、言おっかな。
でもいいや、この人のを先に聞こう。
「私共が、毒、精神汚染薬、洗脳薬や媚薬を盛るとは考えなかったので?」
「?」
「ああ、目が! 目が!」
「汚れのない目が、私たちを苛む……!」
なぜだかこそこそ盛り上がってるメイドさんたち。
仲が良いみたいだね。
けど、毒とか……うーん。
「ごはんはおいしくいただくものってお母さんが言ってました」
そもそもこの人たち、そんなに悪そうには見えないもんね。
連れてかれたときも抱っこしてくれたし、今だってこんなに優しいし。
「「「………………………………」」」
「?」
「尊い……」
「ええ……」
「これが聖女、ですか」
「人の中でも、特に純粋無垢な乙女……なるほど」
「一切に人を、どころか魔族すら……」
「そうでなければ神族に喚ばれないと」
「……失礼しました。お母様のお言いつけでしたら仕方ありませんね」
「はい、とってもおいしいです」
「しかし、一部の料理で顔をしかめておられたのは」
「あ、そうなんです、実は僕、苦手な食材が……」
よく分からないけども、おいしい料理を食え食えってされてる以上、おいしく食べないわけにはいかない。
そのへんの道草のえぐみとか無い味をたくさん経験してきたんだ、それに比べたら苦手なのだっておいしすぎるほど。
……けど、特に辛いのと苦いのとネギだけはリクエストしていいよね……?
◇
「「「キヒヒヒヒ!!!」」」
「なんだアレは!?」
「カボチャの頭……!?」
「ジャック・オー・ランタンか!」
「こんなの初めて見るぞ!?」
「カボチャの頭に――ゴブリンの体か?」
「キマイラか……初見だから厄介だぞ……!」
「なんだかあの淫獣と鳴き声が似てる気が」
「おい、こいつ、火を……!?」
数十分。
教官の指揮する軍隊に、月岡優の指揮するダンジョン潜り。
そしておやびん率いるワイバーン部隊にエリー率いるサキュバスインキュバス部隊。
彼らは――少しずつ坂を後退しつつも、不死の軍団に善戦していた。
――だが、そこへ追加の戦力が現れた。
「キヒヒヒヒ!!!」
「う゛ぁー!!」
――ぼうっ。
【!?】
【ジャックたちがゾンビたちを攻撃!?】
【燃やしてるぅ】
【ひぇっ】
【同士討ちとかひどくね?】
【……いや、あれは……】
「――総員、20メートル後退! 物理攻撃が得意な方は指示する場所を攻撃、簡易的な堀を作ります! 敵の目的は――最初の懸念の通りに、私たちを巻き込んでの自爆です! 火災で、私たちをいぶし燃やし尽くすつもりです!」
ゾンビの軍団、その後方。
そこから――体長40センチほどのモンスターたちが入り込み、次々とゾンビたちへ火をつけて回っている。
一方でゾンビたちはそれを気にすることもなく、人々へ――ただまっすぐに押していくだけ。
つまり――火の塊が、飲み込まんと進んでくる。
「……ずいぶん戦略的な行動……テイマーでも居るのでしょうか――アイスアロー!」
「ゆずきちゃんたちの方がかっこいいもん! ――轟剣!」
「ひぇーん、私、もうグローブがぐっちょぐちょで臭いぃー! しかもみんな距離取ってますぅー!!」
「ご、ごめんねりおちゃん……」
「ごめんなさい……でも、もう緑の物体で染まっていますし……」
隊列を組み、見事な前線を築いている人々の中――理央の周囲だけは誰も近寄らない。
だって、彼女がゾンビを攻撃するたびに体液とかが飛び散るから。
緑色で臭い液体が。
それは、彼女の拳や服にもついているわけで……つまりはえんがちょになっていた。
「ひぇーん……柚希先ぱいぃー……」
「ゆずきちゃんなら気にしないんだろうけど……」
「ごめんなさい、お風呂はご一緒しますから……」
申し訳なく思いつつも、やっぱり汚い。
それが、今の理央を取り巻く状況だった。
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