393話 【速報・ユズちゃん、さらわれる】
「――あなたは、あの城の主からの使節ですか?」
「肯定します」
下を見ると、メイドさんがみんなに囲まれている。
そんな中、教官さんが前に出て――横を優さんが固めていて。
「その方は、魔王と呼ばれる存在ですか?」
「肯定します」
「あなた方には、この世界を侵略する意図がありますか?」
「今のところはございません」
「……今のところ、とは?」
【まともに会話が成り立っている】
【すげぇ】
【教官さん……!】
【優ちゃんも凜々しくて素敵】
【あの、ユズちゃん】
【ユズちゃんに話させちゃ駄目だからね】
【ちょうちょになっちゃうからね】
【いや、精神攻撃で敵を破壊できそうだが】
【でもちょろいからなぁ】
【「おいしいものあげるよ」で着いて行きそうな不安感あるし……】
【草】
【ぼっこぼこで草】
【だって……】
【なぁ……?】
【ユズちゃんはね、マスコットだから】
【そうそう、今みたいにお姫様抱っこされてかわいいねで戦意高揚だから】
【わりとマジでそう】
【完全にマスコットで草】
【かわいいね】
【かわいいね】
「はい。現在、主様の統べる世界がこの異界と接触し、侵攻を受けたものを返り討ちにした――というのが、この状況です」
メイドさんが指した先には――一面に広がる、串刺しのモンスターさんたち。
「……ですが、たとえモンスターだとしても、このような扱いは」
「? これは異な事を」
首をかしげ、不思議そうな声で彼女が言う。
「魔物とは、人の持つ魂――美味な魔力に釣られて世界を渡り歩き、人を捕食して渡る、蝗害のようなもの。あるいは力だけが優れる自称魔王共のように世界を、有機物の全てを根絶やしにして移動するだけの存在ですが……テイムされる個体でしたらまだしも、それ以外の個体へ憐憫の情を抱かれるほど余裕がお有りで?」
【ふぁっ!?】
【そうなの!?】
【……でも、そうだよな モンスターって、なんで人とか襲うのか分かってないんだよな】
【え? え?】
【もしかして:めっちゃ重要な情報】
【それをぽんとくれるだなんて】
【なんて良いメイドさんなんだ】
【教官さん! この人は良い人だよ!】
【なによりかわいいし!】
【メイド服のエプロンから盛り上がるおっぱいも……ふぅ……】
【クラシックドレスを持ち上げるおしりもなかなか】
【えっち】
【えっち】
【ふぅ……】
【草】
【お前ら……】
「なんか難しい話してますね」
「なんか難しい話してんなぁ」
「おやびんさんも分からないんですか?」
「俺様、強くなる以外はどうでも良いし」
「そうですかぁ」
「そうだぜ?」
ふと、下からエリーさんが見上げてきているのを発見。
その顔は……なんか悲しそう?
「あいつ、ときどきあんな顔してくるんだぜ」
「そうなんですかぁ」
エリーさん、なんであんな顔してるんだろ。
あ、でも何回か見たことある気がする。
理央ちゃんがお説教されてるのを眺めるときとか、いつもあんな感じだった気がする。
【草】
【草】
【もしかして:ユズちゃんとおやびん、思考能力がだいたいおなじ】
【かわいいね】
【かわいいね】
【なんてことだ、おやびんまでユズちゃん枠になったか】
【ユズちゃん枠で草】
【そういやおやびん、ユズちゃんのこととりあえずで襲ってきて、負けたらあ
っさり仲間になったりするくらいだったもんなぁ】
【草】
【ま、まあ、根は良い子だから……】
【真っ直ぐな性格のおバカだから……】
【おっぱいもおっきいし】
【\30000】
【えぇ……】
「……エリーさん」
「事実……だと思います。ワタシ共も、断定はしていませんでしたが……」
「成る程、魔物についてお詳しくはないと。ですが、ある程度以上文明の方とお見受けしました。ならば、この魔物の発生する異界において、魔力のある限り無限に増殖するこれらを生かさず殺さずでおけば良い――という理屈にも、ご納得いただけるでしょうか」
「……生かさず殺さず……モンスターのポップを、抑える方法……?」
「もしそれが本当だとしたら……ボスモンスターでさえも、倒しきる必要が……?」
【!?】
【待って 待って】
【もしかして:ダンジョン、定期的に間引かなくても良くなる】
【なぁにこれぇ……】
【本当になぁにこれぇだよ】
「どうやら、この情報は貴女方にとっては貴重なものでした様子。対価を要求しても?」
「……すでに仮説はあったはずですので、そこまで大きなものではありませんが……まずは、どのような」
【おお】
【一瞬でその返しか】
【すげぇ】
【さりげなくピンチだもんな】
【異世界の魔族と対等にやりあってる教官ちゃん】
【すげぇ】
「ええ――――――では、聖女様」
「? 僕?」
くるっと回り、僕を見上げてくるメイドさん。
……なんだかおめめが、ちょっと怖い。
「この方を、我らが主の供物としていただきたく存じます」
「くもつ?」
「ってなんだ?」
おやびんさんと顔を合わせ、首をかしげてみる。
うーん?
本とかで読んだことある言葉だけど……。
「――――――教官さん」
「ええ」
ざっ。
下を見ると、みんなが解きかけていた武装を――全部、メイドさんに向けている。
「そんなの、ダメです。ダメなんです」
理央ちゃんが、下を向いている。
【理央様……】
【なかないで】
「……柚希先輩がいくらかわいくって食べちゃいたいくらいで良い匂いがしてそれはもう柚希先輩がそういうのに目覚めてくれたらいくらでも――――――」
「りおちゃん黙ってね」
「はい……」
理央ちゃんが、いつもみたいになってる。
で、ひなたちゃんがいつもみたいに叱ってる。
「今は大切な場面なの」
「はい……」
「理央さん、さすがにそれは……」
「はい……」
【草】
【理央様の詠唱キャンセル】
【草】
【理央様……】
【理央様の私欲はともかく、ダメだよな】
【ああ】
「――主様は、『善意で』交渉をと命じられました」
メイドさんが――硬い声になっている。
「この異界を攻略してきた貴女方でしたら、きっと理解していると思ったのですが。――この異界で最も強力な魔物たちをことごとく半殺しにし、こうして自らの養分に出来るほど、主様のお力があるのだと。この魔力の湧き出る異界を、完全に掌握しているほどのお力だと」
「――それでも、あげない。ゆずきちゃんは、ひなたたちのだから」
「ええ。私たち――みんなが愛している、柚希さんですから」
「そうですか。交渉は決裂。
では――――――――残念でございます」
「?」
「?」
僕たちの「真横」から、彼女の声が聞こえる?
「?」
「聖女様は先にお預かりします」
「待て、お前――――――」
「――聖女様の安全は、絶対的に保証致します。聖女様の意思に逆らう扱いは、絶対に致しません。それだけは主様の名代として保証致します――――――が、お返しの是非は」
「?」
あれ?
いつの間にか、僕、おやびんさんじゃなくって、メイドさんに抱っこされてる。
ふわりと漂う、メイドさんの香水の匂い。
「すんすん……?」
それに――「どこかで嗅いだことのあるのに似た匂い」?
「きゅひぃっ!?」
「ぴぃっ!?」
「な、なんで俺様から!?」
――おやびんさんとおまんじゅうとチョコが、びっくりしている。
「?」
あれ?
あの2匹……僕が抱っこしてたのに、おやびんさんが抱っこしてる?
「――貴女方が躊躇った存在の魔物たちを、全て倒し。更にはあちらの城の中で待ち構えます、私共配下を打ち倒してからとなります。できなくば、以後干渉されませんように」
「柚希先ぱ――――――」
しゅんっ。
「?」
いつもの理央ちゃんのおっきな声が、途中で消えた?
「――聖女様」
「? はい」
メイドさんが――あれ?
彼女の真後ろに、壁に掛けられたロウソクが?
「ここ、どこですか?」
「はい」
――――――ざっ。
視線を音の方向に向けると――何十人ものメイドさんたちが、頭を下げている。
「?」
「私共の主の城――魔王城、でございます。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ」
◆◆◆
ないないのため、次回の投稿は次週の金曜日です。
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