391話 串刺しとメイドさんと
「――主様。次のお目覚めの前に棺へ触れてしまい、申し訳ありません」
「良い。お前が我を起こす判断をしたのだ、余程の敵なのだろう」
城の最奥――巨大な地下室。
その中央に2つ安置されていた棺のうちの1つは蓋が開いている。
「……くぁぁ……やはり中途半端だと眠いな」
「途中でしたのと……何より主様は、まだ幼体です故」
「幼体も何も、我はこのような存在ではなかったのだがな……む」
大きなあくびをして姿を現したのは、1人の少女。
「……幼すぎないか?」
「いえ、可愛らしいかと」
「……我が可愛くなる意味は」
「あります」
きっぱりと言い切る――棺を開けたメイド姿の少女が、「主」である少女へ、ずいと顔を近づける。
「私共のやる気に繋がります。直結します」
「分かった分かった。それで? 相手は誰だ」
「はい。勇者かと」
「詳細は」
「索敵から察しますに、テイマーでしょう。かなりの高位かと。加え、現地の軍も率いているようです」
「面倒な……まぁいい」
棺で寝ていた少女は――タキシードに身を包んだ銀髪の乙女は、言う。
「まずは武威を示し、然る後に交渉だ。それまで――人間は、殺すな」
「我ら一同、心得ております」
――――ざっ。
棺から完全に目覚めた燕尾服の少女の周囲には、数十のメイド服の少女たちが――頭を垂れながら、美しいカーテシーを披露していた。
◇
「ひぇぇぇぇぇぇぇ」
「ぎゅへぇぇぇぇぇ」
僕は、なんとなくで石を持ち上げたらその下からわーって虫さんが湧き出してきたときとか、お家の中で黒い虫さんが奇襲してきたときとか、あるいは理央ちゃんがお風呂にすっぱだかで突撃してきたときとかみたいにぞわっとした。
「ぎゅへぇぇぇぇ! ぎゅへぇぇぇぇ!!」
たしたしっ。
さっき返してもらったばっかりのおまんじゅうが腕の中でもがいてるけども、そんなのは気にしてる余裕はない。
「ぎゅへ――――ぇ゛っ……」
かくっ。
おまんじゅうが落ち着いてくれたみたい。
良かった、ちょっとうるさかったから今は助かった。
もうちょっと静かにしててね。
「そ、総員! 警戒!」
「ゆ、ゆずきちゃん……」
「ひなたさん……あまり見ない方が」
「……なんですかこれ……柚希先輩……」
「柚希さん、気を確かに……!」
そこには――――――無数の墓標があった。
それも、「まだ生きている」墓標が。
【グロ】
【おろろろろろろ】
【あ、ミラー配信の全部が一斉にモザイクかかった】
【そらそうよ……】
【これ……串刺しなのぉ……?】
【おう、串刺しできゃっきゃできたミヅチとは違ってガチのだぞ】
【ぐろいよー】
【こわいよー】
【モンスターが……見渡す限りに、モンスターが……】
【串刺しにされてるぅ……】
【ユズちゃん大丈夫……? 気絶とかならまだいいけど、うっかり羽ばたいたりリリスモードでやらかしたりしない……?】
【草】
【そっちの心配……するわな】
【するでしょ】
【実績があるもんな!】
【草】
僕たちは、慎重に進んできた。
階段の出口――そこは高台な地形になっていて、僕たち100人以上の人でもぎゅうぎゅう詰めになることなく展開ができて。
しばらくおとなしくしてたけども、ボスモンスターはやっぱりある程度進まないと起きないみたい。
そう結論づけた僕たちは、ゆっくりと高台から坂になってる地面を降り――何十メートル下の「大地」に足を下ろして。
ちゃんと警戒はしてた。
僕たちよりずっとすごい人たちも一緒に、警戒は、してたんだ。
教官さんが10メートルおきに部隊を止めさせてリストバンドの電波をチェックしてたし、全方位に警戒もしてたし、索敵ができる人も見てくれていた。
けど。
けども――空から見てくれてた紐の人たちが、見つけてくれた光景は。
「ユズ様は、落ち着いておられるのですね」
「はい、びっくりもしましたし、ぞわぞわもしましたけど」
エリーさんが――たぶん無意識で手を重ねてきている彼女からは、強い恐怖の感情が伝わってきている。
……エリーさんですら、怖いんだね。
【ユズちゃんが落ち着いてる】
【すごい】
【ああ、子供って怖がらない子は怖がらないよね】
【何が怖いのかまだよく分かってないからね】
【まぁ園児さんならしょうがない】
【草】
「やはり、見間違いではなく……本当に」
「はい。モンスターさんたちが……死なないまま、串刺しです」
僕たちの前には――見渡す限りに、いろんな角度に刺さっている――数メートルの槍。
その大半に、蠢き呻くモンスターさんたちが。
「……ひどい」
「モンスターたちは――魔族や、テイムされたりしてはっきりとした自我を獲得したモンスター以外は、動物未満の自我、意識しかございません。いえ、人間様方のよく知る概念では、プログラムされた機械と同等です。ですが、これは……!」
「………………………………」
しん、と静まりかえるほどにかすかに聞こえる、動く物の音。
「……モンスターとはいえ、私たち人間は憐憫を覚えてしまいます。この元凶へ対処するためにも――――」
教官さんが、震える手を上げて攻撃の指示をしようとしているのを見ていた僕の――視界の隅で、ふと動くものがある。
「――こちらの『ボスフロア』の魔物たちは、私共と敵対しました。ある程度進んだ社会を構築する人間に対しては『正当防衛だった』――と言えば、有利に働くと聞きますが」
「え? えっと、正当防衛なら、襲われた人たちが死にそうだったりするんなら……?」
「では何も問題はございませんね。私共は、この者らと生存競争をしたまでですので」
「そう、なんですか。……………………?」
ぽつり、ぽつり、と。
「?」
聞き慣れない声がして――ふわりといい香りの香水を嗅いだ僕は、そちらへ視線を向ける。
僕の、真横。
理央ちゃんたちが――串刺しを見て怯えて抱き合ったからできた空白が、埋まっている。
そこには、
「メイド服のお姉さん……?」
「はい。お初にお目にかかります――この世界の、聖女様」
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