373話 久しぶりに田中君と2人きり
「……でね? 理央ちゃんってば何歳も下のひなたちゃんにしょぼんってしててね」
「……ああ……」
田中君のお家、田中君のお部屋。
……場所は、お家ごと――や、地域ごとお引っ越し――どうやったのかな――してるから変わってるけども、彼のお家もお部屋も全然変わってない。
田中君のお母さんも出迎えてくれて、いつもみたいに「なにかあったら困るでしょう?」って僕たち男同士の仲に入ってこようとしたのを、そっとチョコを渡して居間に戻ってもらった。
チョコも楽しそうだったし、彼女も珍しいものを見たっておもしろがってたから良いよね。
そうだ、なんとなく今日は静かにしたかったんだ。
ここのところずっと――ずっと、女の子にばかり囲まれてて疲れた気がしたから。
「女子たちって途切れることなく話してくるから疲れるよねぇ」
「ああ……」
ぽちぽち、ぽちぽち。
いつもみたいに、田中君がゲームをしているのを僕が本を読みながら眺める時間。
そうだ、バイトが忙しくなくって――ダンジョンに潜る前は、いつもこうだったんだ。
「昔はもっとみんなで遊んだのにねぇ。あ、でも、男子しか集まらなくても理央ちゃんが必ず来てたけど」
「ああ……」
ああ、懐かしいな。
小学校までは、男女関係なく放課後に一緒に遊んでたんだ。
や、中学校でもそうだったかな。
で、高校生になっても――こうして田中君の家でぼーっとする時間はそれなりにあったんだ。
けども、1年の途中からお母さんのお薬代が高くなって。
なんでもお薬の材料が高くなったとかで、倍くらいになって――だから、僕がバイトでなんとかするか、諦めて市役所の人に援助を求めなきゃいけなかったんだ。
「田中君とこのお店も引っ越したの?」
「ああ。……ああ、そうだな、町そのものを重機で移動させてたからな」
「へー」
田中君は、いじめっこ。
だけども暴力はしてこないし、ガキ大将らしく「あれやれこれやれあれやるなこれやるな」って命令してくるだけ。
「……あ、えっちな本がなくなってる」
「ああ……って、お前なぁ……」
ふと思い立って、ごそごそとベッドの下をまさぐってみるも、出てきたのはホコリだけ。
「理央ちゃんが来てたらがっかりしただろうなぁ」
「……アイツはデリカシーないからな」
「………………………………」
「………………………………」
ぴこぴこ。
ぺら、ぺら。
静かな時間。
……あやさんとか優さんとか、誰か1人しかいないときはわりとこういう時間もあるけども、やっぱり女の子は女の子だからか、2人以上になるととたんにおしゃべりが止まらないんだ。
「……なぁ」
「うん?」
ふと――あ、田中君、負けてる――僕を見てきている田中君。
金髪に染めた、ちょっと怖い顔の、座っても背の高い男子。
「……お前はそれで、良いのかよ」
「?」
「それ」って?
「……女に囲まれて……ってのは昔から同じだから良いとして、女みたいな扱いされてよ」
「………………………………」
「………………………………」
しばらく考えた僕は、
「……それって幼稚園のころから同じじゃない?」
「……同じだったな」
「むしろ田中君も、昔は『男女のくせに』とか『女みたいなくせに』とか言ってきてたよね?」
「……悪かった」
「や、別に気にしてないよ。今でもお母さんそっくりって言われるし」
男らしく見られないって悩んでたのは、もはや過去のこと。
僕はどうあがいても男には見られないんだから、もうしょうがないなって最近は思うようになってきたし。
……あと、いくら男らしくしても「かわいいね」ってみんなに言われちゃうんだ。
ならむしろ、自然体の方がいくらか男らしい――気がするんだ。
「それに、みんなは……理央ちゃんたち、なぜか家に泊まってるみんなが、今は僕のこと、男って分かってくれてるんだ。それで充分だよ」
「……そうか」
ずっともやもやしてた、みんなへの嘘も解決してる。
あのときはちょっと大変だったけども、今から思えば懐かしいできごとで。
ぽつ、ぽつ。
僕たちの会話は、心地良いテンポ。
こういうのって、良いよね。
「……ところで、ひとつ聞いて良いか?」
「うん?」
かたり、と、コントローラーを置いた彼が――真剣な目で、見てくる。
「……あいつらと……理央とは、どこまで行った?」
「? どこまで?」
「……リリスモードってのは」
「普段はならないよ?」
「……そうか、分かったから良い」
「? そう?」
田中君は、ときどきよく分からないことを言う。
けど、大したことじゃない。
そういう関係が良いんだ。
◇
「へー、男の子同士ってこんな感じなんだね」
「あの柚希さんが……」
「なんだか珍しいものを見た気がしますね」
「ふふんっ。私はもう柚希先輩と籍を入れたので! 結婚してるので、田中先輩に警戒しなくて良いんです!! もちろん万が一を警戒して監視はしますけどね!!」
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