356話 【ユズちゃんのわくわく雑談配信】1
「……ということで、すぐにとは行きませんけど……そのうちまた、潜ります」
高難易度――上級者向けダンジョンへの挑戦。
僕――とお母さん、僕たちのテイムしてるエリーさんからキマイラさんたちとみんなとは、出力の差があまりにも大きい。
レベルとかは測ってないけども――そもそも僕、★とかついてたから普通のレベル測定じゃ判定不可能だし。
でも、実際には中級者向けダンジョンからスタートすることになるだろうって優さんが言ってた。
あと、僕たちは魔力を相当使ったから実際に日常使いできるのがどのくらいかも不明だからって教官さんも言ってた。
【なるほど】
【分かりやすい説明助かる】
【え? ちょうちょ? リリスじゃなくて?】
【リリスにしては色気がなさ過ぎる……ちょうちょだ】
【やらしくないしむらむらしない……ちょうちょだな】
【草】
……っていうのを、事前告知も兼ねて話しておいてって言われた僕は、帰ってから久しぶりすぎる配信をしている。
もちろん簡単に外に出られないから家の中で――雑談配信ってやつ。
【でも大丈夫? ユズちゃん、ぽろぽろ大切なこと、こぼしちゃわない?】
【ちょうちょだよ?】
【もうだめだ……】
【もうおしまいだ……】
【総員対ショック態勢!】
【草】
【ひでぇ】
【でもなぁ……】
【実績がなぁ……】
【身構えちゃうよね】
「む。僕だってちょうちょって言われたりしますけど、これでも高校2年生なんです」
成績だって中の上なんだぞ。
それより上には行けないけども……やっぱり塾通いに夜中まで勉強できる体力は持ってないから。
あと、これまではバイトで忙しかったからってのもある。
【高……校……?】
【2……年……?】
【????】
【ユズちゃん、そろそろ白状しようよ】
【中学2年なんだよね?】
【いや、それはユズねぇの年齢だぞ】
【そうだったわ】
【え? じゃあ小2?】
【草】
【小2よりは……ちょっとくらいは……】
【うん……】
【でもめっちゃ頭良くって早熟の小2ならこれくらいか……?】
【あー、並みの大人より物知りな小学生って感じか】
「……僕、体力がなかったので、横になって静かに考えてるときより頭の回転は落ちてるかもしれません。けど、小2はひどいですよ」
むすっ。
ちょっと怒る――けども、それ以上になれないのが僕だ。
小学生の頃は――確かいじめっ子たちがなぜか顔を真っ赤にし始める前まではバカにされてたけども、怒り切れなかったのを思い出す。
……ネットは、友達数人にされる程度なら我慢できるいじりが、何百倍の数叩きつけられてくる空間。
だから、嫌なことは嫌だとはっきり言うべき。
そう理央ちゃんが言ってたから、ちゃんと怒っておく。
でもなぜか高学年になってから、僕がぼんやりしてなよなよしてるからって理由でのいじめはなくなったんだよね。
なんでだろう。
あ、でも、顔も怖いし背も高かった田中君が、みんなに人気だった理央ちゃんと一緒に僕のそばに張り付いてるようになったからかな。
【え? でも、ユズちゃん……】
【ちょうちょ言ってるの、嫌だったらごめんだけど】
【でも……】
「でも……なんですか。言ってみてください」
【かわいい】
【かわいい】
【 】
【むすってしてるユズちゃんで飛んだ末裔が】
【だってかわいいもん】
「かわいいとか言ってごまかさないでください。お母さんなら簡単にごまかされますけど、僕はそんなわけには行きませんよ」
お母さんは、僕と一緒にお出かけした先で「お姉さんなのかな?」って、同世代よりも下の高校生とかに言われるだけでも舞い上がってなんでも言うこと聞いちゃうダメダメな女の人だ。
だけど僕は男なんだ。
そんなにちょろくはないんだから。
【でもさぁ 初心者ダンジョンとか潜ってたとき……】
【しょっちゅう壁とかなにもないとこぼーっと眺めてて……】
【みんなの話について行かなくって……】
【みんなが目を離すと勝手にちょろちょろ歩き出してなかった……?】
【だから「ちょうちょ」って言われてたんだよ……?】
「あ」
そうだった。
僕が学校ではいつも先生とか学級委員長とかに付き添いされてたのは、僕が勝手にふらふらどっか行っちゃうからだって。
「……あれは……興味深かったんです。だから頭がちょうちょとかじゃないです」
と思う……たぶん。
【草】
【草】
【そっかー、興味深かったんだねー】
【ごめんごめん、ちょうちょ言いまくるのは自重するから】
【でもちょうちょするのは抑えようね】
【そうそう、これは形容詞じゃなくて動詞だから……】
【草】
「違うんです。あれは……ほら、壁とかって、よく見てみるとおもしろい凸凹とかシミとかついてるじゃないですか。ダンジョンの」
そうだ。
ダンジョンの中は――教室の中も廊下のあちこちも体育館も校庭もどこもかしこも、おもしろい形でいっぱいなんだ。
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