350話 僕が男だって、ようやく信じてもらえた
「えっと?」
「つまり……」
「……柚希さんは、本当に……」
「男性……と……? 私みたいに男みたいな女、ではなく……」
「はい。僕は、男です」
僕は、みんなを見つめる。
嘘をついてきたんだ、目を逸らしちゃいけないよね。
「で、でも、ひなたたちとお風呂のときは、女の子の体で……」
「あ、それはチョコなんです」
「チョコちゃん?」
「ぴ」
「……ちょこ、お願い」
「ぴ!」
ぴょんっ――するん。
「んっ……」
スカートから滑り込んできたぬるぬるした金属が、僕のおまたからおへそ、おへそから胸へと広がりながらゆっくりと押し込んでいく。
その感触はぬたぬたしてて、まるで理央ちゃんがお風呂に突撃してきて体じゅうをまさぐってくるときみたい。
でも下心をまるきり感じないから、安心して身を任せられるんだ。
理央ちゃん相手は……以前の僕じゃ、ちょっと怖かったし。
「……ふぅ」
「え……え? ゆずきちゃんの体に……ぴったり張り付いて!?」
「……もしかして、モンスターに囲まれてくれたときに壁になったときや、柚希さんの紐――こほん、服になったように……」
「変幻自在――そうか、意思を持った液体金属が、色まで変えてしまうのなら――」
「はい、こんな感じで」
ぷちぷちっと外した胸元を――あ、ブラジャーしてたから分かんないか。
「よいしょ……ほら、こうして胸も」
ぽろん。
……お胸を出して人に見せるって、すっごく恥ずかしいね。
理央ちゃんは良くこれを男の僕にいつもやってたね。
性欲って怖いね。
ちょっと理解できるようになったからこそ、その怖さが分かるよ理央ちゃん。
「わ、本物のおっぱいみたい……!」
「柚希先輩のおっぱい゛っ」
「りおちゃんは静かにしててって言ってるよ」
「はいぃ……」
ブラジャーをずらしたらぷるんとなる、僕のお胸――に擬態したチョコは、僕の肌そのものの見た目。
……けど、先端とか本当に理央ちゃんが見せつけてくるみたいな本物そっくりだね……まぁ大きさはお母さんと同じくらいだけど……。
「下の方も、見ますか?」
「生えていない柚希先輩のも゛っ」
「言ってるからね」
きゅっ。
理央ちゃんが……ひなたちゃんに締められている。
…………もしかして、上下関係決まっちゃってる?
「……いえ。柚希さんが言ってくれたのですから、信じます」
「あやさん……」
にっこりと笑顔を向けてくれるあやさん。
すっかり落ちついているみたいなのは、さすがは大学生さんだ。
「……そうですね。私も女ということをずっと隠してきた身ですから……言い出せないその気持ちは、分かるつもりです。つらかったですね」
「優さん……」
そうだ、優さんもつい最近まで――僕の配信でうっかりバラしちゃうまで、ずっと男の人って演技をしていたんだ。
これだけかっこ良くて凜としている人でも、人を騙してるっていう罪悪感は辛いんだ。
そう思うと――ちょっとだけ、気持ちが楽になる。
「……ぷはぁ! そうです! 柚希先輩は限りなく女の子に近い男の子なんです! そこがいいんです!!」
ひなたちゃんの――ダンジョンの外だから大幅に劣化するとはいえ、タンクとしての力から抜け出した理央ちゃんが、ふんすと元気になる。
うん……みんな同じくらいレベルアップしてるからね……。
「……このことは、他の方には……?」
「あ、はい。ご近所の人から高校のクラスの人たちまでは」
「そうですか。……え、でも、つまりあの親衛隊を名乗る方たちは、それを知っていてなお『ユズちゃん』と……?」
うん……みんな、なんか盛り上がっちゃってたもんね……いや、僕の家を巻き込んだダンジョンから助けてくれようとしたり、それ以外も周囲の警備とかしてくれてたみたいだしさぁ……。
……でも、同級生とかに「ユズちゃん」はないと思うんだ。
怒ってないけど。
怒ってないよ?
「ふぅん、なのに今まで誰も漏らさなかったんだ。――――――良かったぁ、おばあさまに『お願い』しなきゃ行けない人、居なくって」
「?」
「ううん! ゆずきちゃんのお友達は、みんな良い人だなぁって!」
うん。
僕は人に恵まれた。
それだけは確かだ。
「……私の男装での姿と同じく、少女としての容姿を褒められても嬉しくなさそうだったのは……今から思えば」
「あ、あはは……初心者講習からずっと、おまんじゅうにズボンも捨てられちゃって女の子の服着てましたし……髪の毛も切ってなかったので……」
ちなみに今は、頼めば――いや、頼んでなくてもいろんな服を、主に理央ちゃんが仕入れてくれているから、家の中に何着かズボンがあることはある。
……だけど、手に取った瞬間におまんじゅうがご機嫌ななめになるし、いざ穿こうとしたら一瞬で剥ぎ取ってきて、無駄に高度な転移魔法で虚空に捨てちゃうんだ。
おまんじゅうのばか。
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