31話 光宮さんプロデュース、スタート
「んぅ……」
なんだかちくちくする感覚で目が覚める。
ちくちくもふもふふさふさな感覚が……。
「……まぁた吸ってたの……? だから僕はおっぱい出ないってばぁ……」
「きゅー」
僕のシャツの中に潜り込んで、毎朝器用にどっちかを吸ってるおまんじゅう。
……って言うかこの子のサイズが入って、良くシャツ破けないね……ああ、毛でかさ増ししてるだけかぁ……。
「……んっ」
「きゅっ」
僕が起きても懸命に吸い付いてるのを引っぺがすと、ちょっとぴりっと痛い。
「ああもう、ふやけてるし、よだれが……」
なんでこの子、ここまで執拗に吸ってくるんだろ……やっぱりお母さんとか恋しいのかなぁ。
吸盤みたいに吸い付かれるし、なによりよだれでふやけて……まるで女の子みたいになっちゃってるじゃん……真っ赤だし……。
「あ、そうだ。 お母さんと言えば、僕のお母さんが居るから……頼んで、吸わせてもらえば」
「ぎゅい」
「え? やだ?」
「きゅいっ」
……普段の鳴き声とかは普通にかわいいのに、なんとなくで分かってるらしい会話にNOを出したいときは明確にヤな感じのニュアンスが混じってる。
「お母さんに懐いてたじゃない、おまんじゅう」
「ぎゅいぎゅい」
「もー、わがまま……あんっ! こらぁ!」
最近毎日吸われてるせいで、小学校から中学校のときみたいに敏感になっちゃってるのを勢いよくかぶりつかれて変な声出ちゃったし。
「やんっ! こらぁ……んぅっ! ……もー! 僕はお母さんでも女の子でもないってばぁ!」
「きゅいきゅいー!」
引っぺがそうとしても絶妙な加減で吸い付かれて、痛いから引っぺがせない。
しかもぴりぴりするときに、腕の力抜けちゃうし変な声も出ちゃう。
そんな格闘が……毎朝のごとくに数分続いて、息が上がってきたころ。
……ぴんぽーん。
玄関からの音……何でこんな朝に?
「……あ、お客さん。 まだ朝だけど……?」
きゅぽんっと力尽くで吸引力から脱出させた先端を、軽くティッシュで……って言うか、吸い付き直されたせいで両方じゃん……拭いて、急いで玄関へ。
うぅ……ぴりぴりするぅ……。
「ごめんねぇゆず、お母さん、お化粧してないから……」
「良いって良いって、男だから僕の方が安全だし」
「……本当はゆずの方が危ない気がするけど……」
今日も、朝から起きられているらしいけども着替えたりはしていないお母さん。
最近調子良いから、このまま元気で居てくれたら嬉しいな。
◇
「柚希先輩! おはようござい……ま……」
「おはよぉ……今日も元気だねぇ……」
「くぁぁ」っとあくびがひとつ。
そういえば僕、眠かったんだよね……吸い付かれたぴりぴりで忘れてたけど。
「……寝ぼけて顔も洗ってない先輩がかわい過ぎです!」
「あ、そうだよ、布団から出て来たばっかりだから……」
「……でも、せめてちゃんとちゃんと着てください……男の人が見たら……」
「あ、うん」
「ぶっちゃけいがかわしいので、今後は絶対気をつけてください」
「? うん」
いかがわしい?
なんで?
って、そうだった。
なぜかパジャマのシャツのボタンが全部取れてて、おまけにシャツもめくれ上がっておへそ見えてたんだった。
しかも長く伸びた髪の毛はぼさぼさ、さっきの格闘で息が荒くって、多分顔も真っ赤。
うん。
こういうのって、マンガでよくあるよね。
運動してきたみたいになってるから、他の人が見ちゃうと「ごめん、忙しかった?」ってなるやつ。
「………………………………」
でもなんでこの子、真っ赤になってるんだろ……しかも今、僕のこと写メしたし。
別にいいけどさ。
ひりひりする先っぽを意識から押し出して、真面目に。
昨日、この子……光宮さんに押しかけられて、いろいろたたみかけられて。
それで1度は光宮さんのプロデュース?で配信者やるって言ったけど……でも。
「……やっぱその……無理かなぁって」
「とりあえずでロードマップ作ってきたので説明しますね! おじゃましまーす!」
やっぱ断ろう。
そう、眠くなるまで考えてたのは……一瞬で吹き飛ばされた。
「え? ……えっ?」
「きゅいっ」
いつの間にかに廊下に来ていたおまんじゅうが、光宮さんに抱っこされて連れてかれてる。
「柚希先輩? 早く入ってください」
「あ、うん」
………………………………。
……そうだよね。
やだとは思うけど……配信とかしないと、僕、一生このままの生活なんだよね……。
うん、分かってるんだ。
市とか国とかの補助とか、光宮さんとか田中君の援助とか受けたらなんとかなるって。
でも、それはイヤ。
……そういう僕のわがままなんだから、それを通してくれる光宮さんのプランには従わないとね。
◇
「ということで、柚希先輩は『ユニコーンに愛されし乙女、ユズちゃん』として活躍してもらいます。 女の子として」
「きゅい!!!!!」
「え? えっとぉ……」
なんかおまんじゅうがものすごくご機嫌だけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃないよね。
「えっと、あの」
「柚希先輩? 昨日説明しましたよね?」
朝も早いのに、田舎なのに、きっちりと整えてある彼女の目元が僕に迫る。
「柚希先輩は、もう『ユズちゃん』としてネットで有名になっちゃってます。 ダンジョン前の実況で、おまんじゅうちゃん抱っこして歩いてたのは……まぁしょうがないんですけど」
「きゅい」
そうだった……この子、普段はほとんど僕に譲ってくれるけども、どうしてもってときはこうして事実を並べてくるタイプだった……。
「というか、なんでこの子抱っこしてのこのこ歩いてたんです? 母性でも生えたんですか?」
「生えるって……いや……その。 何となく……?」
あのときはまだ、おまんじゅうに懐かれて嬉しかったからってのもある。
でもそれを言うのは……女の子に言うのは、恥ずかしいじゃん?
「……まぁ良いです。 で、そのときにもう軽く……いや、結構大騒ぎになってるんです。 『S級のレアモンスター、ユニコーンのテイマーがこんな田舎にいる』って」
「……そんなに珍しいの?」
「珍しいなんてもんじゃないですよ? ユニコーンですよ?」
「?」
「……ああ……いえ、先輩はそのままで居てください……」
ユニコーン。
「きゅい?」
……角が生えてて体が白い馬、だよね。
羽が生えてたらペガサス。
つまりはただの神話の存在の馬だもん。
珍しいけど……そこまで?
あ、でも、初心者講習の人もそんなこと言ってたような……?
「……こーゆー先輩だから懐いたのかね? 君ぃ」
「きゅいぃ」
「分かる。 分かるよ、その気持ち……こうして抜けてるところが良いのよねぇ……」
「きゅいー……」
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