30話 休み時間のうわさ話2
男子たちの話は続いてしまっていた。
「つうか星野、ダンジョン潜りたいけど適性見つからないってぼやいてたからなぁ……良かったな、アイツ」
「あー」
「小学校のころからずっとなぁ……」
「で、なれたのはテイマーだっけ? つまりは男の娘テイマーか……ふむ」
ちらりと柚希の友人の彼が覗くと、「男の娘」「女装」「良い」「水着」などと調べているのが分かり……「コイツもか……今後は距離取らないと危険だな」とため息をつく。
「お前は後で病院行くとしてだ……アイツん家、父ちゃん逃げちゃって病気の母ちゃんしか居ないからさ、いつも給食で食いだめとかしてたんだよ。 小学校のころは、みんな、パンとかヨーグルトとかあげたりしてたっけな」
「高校になっても『食べきれないから』って理由で、みんなちょっとずつコンビニで買ってきたのとか、嫌がらない程度にやってるもんな」
「あんまりやると怒るけどな……女子みたいに」
「ギャン泣きするんだよな……小学生女子みたいに」
「あれ、餌付けじゃなかったんだ……」
「まぁ傍目にはどう見ても餌付けでしかないか」
「しかしそうだったのか……接点なかったから知らなかった」
「まー、詳しいことは中学までの奴しか知らないからな。 あ、でも、掛け持ちのバイトしててさ、駅前のコンビニとかで働いてんだぞ。 ……ほら、前に一緒に撮った奴」
男子生徒が映した写メ。
それを見て、ぽろりと漏れる声。
「……俺……その子に告って、めっちゃ優しく断られたんだけど……」
「えっ」
「『お友達から』って言われて連絡先教えてもらって……で、それがなぜか同級生の星野になったから、てっきり間違えたのかと……」
「えっ」
「……そういや星野だったわ……今から思えば普通に毎日学校で見てたわ……でもなんか雰囲気違うし、話し方も女子っぽかったし……なによりあの笑顔がかわいくて……」
「お前……クラスメイトくらい気が付けよ……」
「……でも、星野でも良くない?」
「だから相手居るっての、女子の。 あと帰り病院行くぞ」
◇
「星野きゅんが正式に男の娘デビューしたと聞いて」
「あの逸材が文学部でくすぶってるのはもったいなかったのよ……文学少年男の娘ってことで、それはそれでおいしかったけど」
「しかも男の娘を隠して女装しての女の子デビューとか……やるわね」
「まず見破れないもんね、この配信見ても」
「星野君のおかげで、この2年。 文芸部とか図書委員の人気、跳ね上がったもんねぇ」
「ダサい男子しかいないって思って高校に上がったら、あんなかわいい野生の男の娘が居るって衝撃だもん」
「合流組は特にクるわよねぇ……」
一方の女子たち。
「あれ? でも、あんなにかわいいくせに『男子扱いしてよ!』ってスカート嫌がってたのに、女の子として配信してるの?」
「後に引けなくなったんじゃない? それか、普段着でも着ちゃってたとか? スカート」
「私、近くに住んでるんだけどさ。 たまに会うとお母さんの服着てたりするのよ、あの子の。 もちろんスカートね」
「あー、抵抗感なくなっちゃってるかー」
「うん、『普段着でちょっと出かける程度ならお母さんので良いや』って」』
「もうそれダメじゃない??」
「そうじゃなくても星野きゅん、普段から断れないもんねぇ……」
「先生たちから真っ先に呼ばれて仕事頼まれるし、放課後の掃除とか、他の男子たちからやらされてたもんねぇ」
「それも別に嫌がるでもなく……」
「バイトがあるときは普通に断ってたもんね」
「男子たちも『サンキュー』ってジュースとか奢ってたし、それ目当てだったっぽいし」
「星野君のバイト先とかでたまに会うけど、そこでもスカートだったりするし……」
「かと言ってあの見た目でパンツ、ズボンも似合わないもんねぇ」
彼女たちの大半は「彼」のことを「彼」とは認識せず、「かわいいもの」「ショタっ子」「染め上げたい系男子」として認識していた。
つまりは「女子」と「男子」のあいだの「愛でる存在」として――しかも、「もうほとんどくっついてる相手が居る」ため、ラブなコメを眺めて噂する対象としても。
「どーりで昨日さ、理央ちゃんがめっちゃ急いで電話掛けてきたわけだ」
「あー、彼が登校してる日は休み時間に入り浸ってる1年の子。 ……あれ? まだ押し倒してないの? あの子。 もうてっきり捕食してるのかと」
「まだらしいわねぇ……あの子も案外奥手だから」
「もうできてると思ってた……それかピュアすぎてプラトニックなのかと。 あるいは姉妹って感じで近すぎるとか」
「それ言うなら兄妹じゃない?」
「あ、そうだった」
何にでも恋愛を絡める女子のあいだでは、彼と彼女の関係は「そういうこと」になっているらしい。
「もう校内の誰もが『早くくっつけ』って思ってるのにねぇ……」
「毎日2年の教室押しかけてきてる1年女子だから、もはや公認なのにねぇ」
「あの子が告らないし押し倒さないから、女子どころか男子も告っちゃうのにねぇ……」
「それも、2人ともにね」
「2人とも、最近では稀少すぎる、かわいいのに恋愛とかに興味ないタイプだし。 星野くんは恋愛に興味なくって、理央ちゃんは星野くんラブで。 だからお似合いなんだけど」
「あ、あの子、理央ちゃん……光宮さんね? 昔から知ってるけど肝心なところでヘタレなのよ……ヘタレじゃなかったのは、幼稚園までさかのぼるレベルで」
「あー、小学生になって恥ずかしくなっちゃったかー」
「そーそー。 みんなで応援してたんだけど全然進まないし、でも仲良すぎて実質家族だしさぁ」
「なにそのかわいいの」
「地域の推しカップルよ? 『子供はどっち似になるのかねぇ』ってじーさんばーさんが楽しみにしてるレベルで」
そう言いながら、「でもいつ配信でバレるのか楽しみよねー」とチャンネル登録をしたり、切り抜きを観たりしつつ。
「あれ、でもさ? あのキモい田中が騒いでなかった?」
「田中はいつものでしょ」
「ううん、なんか情報操作されてるー、とか」
「あれじゃない? 実はもう事務所入ってるとか」
「あ、それで星野君のこと、書き込もうとしてるっぽいのも伏せ字に……へー」
「ユズちゃん」こと星野柚希の活躍は――知らない生徒から「スラックス、ズボン穿いてる中性的な女子」、「文芸部で見たことある」、「良く告られてる人気な女子」程度の認知度から……「今をときめくテイマー配信者の男の娘なユズちゃん」として飛び抜けていくのだった。
それはもう――「学校、留年しときゃよかった……」と、後日彼が本気で落ち込むくらいには。
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