297話 みんなと、買い食い
崩れたお家、傾いたビル。
落ちた橋もあるし、アスファルトの残骸が積み上がってるところもある。
「………………………………」
――僕が、もっと。
なぜかあんなことができた僕が、もっと早くにああいうことできて、もっと上手に戦えていたら。
【ユズちゃんが……】
【瓦礫の前で……】
【ユズちゃん? 気にしないでよ?】
【そうだよ】
【被害も出なかったんだ】
【そこそこのケガ人だけだったんだ 家とか道なんて、また作れば良いんだから】
【そうだよ】
【事前にみんな避難してたんだ、どうしても大切なものとかペットとかは無事だと思うよ】
【このあたりはたぶん、ユズちゃん家がダンジョン化したタイミングから避難開始してたはずだしな】
【な】
【ああ、配信じゃないからコメントも見てくれない……】
【皆様の温かい言葉は、後で我が主にお伝えしておきますね】
【!?】
【ふぁっ!?】
【あの、今の】
【あ、確か、コメント欄とか見ないで読めてたっけ……】
【エリーちゃん! なんで今日はえっちな格好じゃないの!】
【草】
【お前最低過ぎない……?】
【えっ】
【お前……】
「……こほん。 ユズ様、そちらは気にせずともよろしいかと。 この地区の被害のほとんどは、魔王の取り巻きを女神が屠った勢いでのものですから」
――その女神様引き寄せたのも僕だから、つまりこの光景は僕の。
……っていうのはさすがに自惚れだとは、僕自身も分かってる。
けども「もし」はぐるぐると駆け巡るんだ。
「何しろすさまじい数のミズチと、それを同時にしていた女神の戦闘力。 あれ、女神がよっぽど気を遣わなければ、今ごろこの一帯更地ですよユズ様」
「……そうなんですか」
「はい、恐らくはユズ様の住まわれる場所と判断し、極力被害の出ない方法を取ってくださったのかと」
女神様。
あのとき声が聞こえて、手を突っ込んだら手を握ってくれて。
お母さんとちゅーして、どかーんってダンジョンを縦にくり抜いて。
僕たちがあの蒲焼きさん――じゃない、おいしかった鰻さん――じゃないじゃない、魔王さんと戦ってるあいだに他のをみんな相手してくれてた人。
――で、僕のこと男だって、1発で見抜いてた人――じゃない、女神様。
「柚希先輩!」
「……なに?」
理央ちゃんの声は、どうでも良いこと言ってるトーンだから気にしないどこ。
「今度女神様が来たら、ツーショット撮らせてください!」
「……そんな発想できるの、理央ちゃんだけだよね」
「ふふーんっ!」
「……理央ちゃん? ゆずにあしらわれてるの、自覚してる……?」
「えっ」
【今日も理央様はユズちゃんにちょっかいかけてる模様】
【ただしまともに反応してもらえていない模様】
【理央様……】
【不憫すぎて……】
【ユズちゃんの塩対応って理央様にしかしないもんなぁ……】
【ま、まあ、ある意味特別だから……】
【※普通に告っても流されます】
【かわいそう】
【かわいそう】
【理央様? まずはご自分の感情を抑制する術を身に付けるべきですわ!】
◇
「駅前……お店、普通にやってるんだ……」
「警備の都合上立ち入りは制限していますが、禁止ではありませんから」
「『町を壊滅から護ってくれた柚希さんが出歩くため』と伝えたら、大半は自主的に、お店自体は開きつつもこの午前を休憩に当ててくれるという形みたいです」
「……そう、なんですか」
僕の家の近くとは比べものにならないくらいの都会。
かつて来たときには、たくさんの人で賑わっていた繁華街。
――そこに、がらんとはしているけれども、お店は普通に開いてて。
「……ゆずきちゃんっ」
「え、ひなたちゃん?」
ぎゅっ、と、腕に絡みついてくる彼女の両腕。
「ゆずきちゃん、買い食いとかひなた、憧れてたの!」
「そ、そうなんだ」
「でも、最初のころのゆずきちゃんは、お金ないって言ってたから」
「……そう、だったね」
――そうだ。
最初に、僕の貧乏も伝えてたっけ。
お金も、最初の報酬にプラスで渡そうとしてきて、断って、泣かせちゃったっけ。
……それで、我慢してくれてたんだ。
「……良いですね、買い食い。 今ならどこも並ばずに好きなだけ買えますものね」
「……あやさん」
もう片方の腕は、ちょっと上の方から優しく――お胸でふにょんってなってるあやさんの感覚。
「ああああ!! 私! 私のポジションは!!」
「――――――――――りおちゃん」
「ひぅっ!?」
【速報・ユズちゃん、ひなあやにホールド】
【キマシ】
【すばらしい……】
【ああ……】
【しかも出遅れて抱きつけなくなった理央様がシャウトしてるっぽいのがたまらないんだ……】
【分かる】
【聞こえないはずなのに鼓膜が震える】
【あのマイクが受け止めきれない声量でハウってぶっ壊れるまでの流れがたまらないんだ】
【だから物足りないんだ……】
【草】
【理央様のファン……なのか、これは……?】
「?」
「ううん、なんでもないの!」
今、一瞬ぶるってなったけど……カゼ、引いたかなぁ。
「理央さんは後ろから抱きつかれたらどうですか?」
「! それです!!」
「それって……わっ」
後ろからどんっと、理央ちゃんが抱きついてくる感覚。
「すんすんすんすん……柚希先輩……」
「うるさいよ理央ちゃん、あと嗅がないで」
「あらあらまあまあ」
「ユズ様、大人気ですね!」
「……良いなぁ」
「? 月岡さん……?」
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