２４７話 またみんなに押し倒された
「きゅう……」
寝かせてあげたエリーさんは、いつもの理央ちゃんみたいになっている。
このあと起きるとおとなしくなるんだよね、いつも理央ちゃんで知ってるから大丈夫。
「ふぅ」
【ユズちゃん……】
【ユズちゃん、やり切った顔してる】
【草】
【これがベッドでは強い系ユズちゃんか……】
【なにそれ素敵】
「……はっ！？ いつもの数倍のでつい意識が！！」
近くではまたうるさくなった理央ちゃんの声。
「ほら、りおちゃんじょうぶでしょ？ 息くらい止めてもへっちゃらだよ」
「理央さん……」
【草】
【ああ、こういう経験あるのね……】
【いつものなのか……】
【ていうかさっきからなんかひなたちゃんが】
【かわいい顔して嫉妬しているのか……】
【なにそのかわいいの】
【ユズちゃん……さっさと襲われて囲われて……】
【これもう理央様たちに襲われて既成事実作るしかないよね……？】
【じゃないとほんといつか刺されるから……】
【そうそう、女同士の恋愛はやばいから……】
【男女よりも感情が昂ぶりやすいから……】
【新刊の内容が決まりましたわ！！】
【お嬢様方！？】
【楽しみにしてる】
【通販と電子化もお願い】
【草】
「……ゆず？」
「あ、お母さん。 エリーさんはもう大丈夫」
「ゆず」
なんだかすっごく微妙な顔したお母さんが、僕をのぞき込んでくる。
「？」
そんなお母さんは……僕じゃなくって、足元で寝てるエリーさんへ声をかける。
「……ごめんなさいね、止めてあげられなくって……」
「？」
止める？
なんで？
【草】
【すべてを察しているらしいユズねぇ】
【ユズねぇはまだマシなんだ……】
【ちょうちょはちょうちょでも、まだマシなちょうちょだもんね……】
【草】
「……ゆずきちゃん」
「？ ひなたちゃん？」
ぎゅっ。
とてててって走ってきた彼女が、なぜか抱きついてくる。
【ガタタッ】
【！？】
【ここで追撃か！？】
「……諦めないからね」
「？ うん」
「あやちゃんもあやちゃんも！」
「……ええ、では失礼して」
ぱっと離れたひなたちゃんが――なぜか後ろからもっかい抱きついてきて。
「あやさ――わぷ」
「……醜い私でごめんなさい……でも……」
【！？！？】
【ここは天国だったのか……】
【百合サンドイッチ……！】
【２人で上書きしてる……】
【これが百合嫉妬……！】
「２人ともずるいですー！ えーい！」
「え、理央ちゃ――」
――あやさんのお胸で苦しいところに、真横からどんっとのしかかられて、そのままみんなでどさっとすっ転ぶ。
あれ？
なんだかこれに似たことあった気がする。
いつだったかな。
「きゃー♥」
「ふふっ……」
「ああもう、あの泥棒猫の匂いがこんなにも……上書きしなきゃ……」
【朗報・ユズちゃん、３人に押し倒された】
【するのか！？ 今ここで！！】
【ああ……！】
【この数ヶ月は普段の倍がんばって２冊出しますわ！！】
【なんなら合同誌にも持ち寄りますわ！！】
【応援してます！！】
【今年の薄い本がますます厚くなるな……！】
【サキュバスっ子たちも盛りだくさんでますます捗るな！】
【草】
◇
「理央ちゃん」
「だって、悔しかったんですもん」
ぶーたれてる理央ちゃんが正座中。
「ひなたちゃん」
「だって、構ってくれなかったんだもん」
笑顔のひなたちゃんも正座中。
「あやさん」
「仲間はずれは嫌です……もんっ」
嬉しそうなあやさんも正座中。
【草】
【かわいい】
【ひなたちゃん、楽しそうで良かったね】
【あやちゃんの「もん」……効くわこれ】
【普段後ろからほほえんでるだけの子だから余計に……】
【理央様は？】
【いつものだから……】
【もう見慣れてるから別に……】
【でも無いとそれはそれで困るっていうか】
【物足りないっていうか】
【カレーの福神漬け的な？】
【なくても良いけどないかなーって探す的な？】
【草】
【ひでぇ】
【理央様は福神漬けなのか……】
【ていうか、ユズちゃん……力、強いよね？】
【羽生えてるときは強いよな】
【あー】
【パジャマパーティーのときからそうだったね】
【もしかして:ユズちゃんのレベル相応の腕力になってる】
【あー】
【あー】
【え？ じゃあ今までのは？？】
【固有能力的なので普段はひなたちゃん以下に……？】
【ユズワールドの代償はかくも厳しいものだったか……】
【まぁ周囲への代償よりははるかにマシだから……】
【実際、代償のおかげで魔族２匹をテイムできたから……】
【強烈な力には強烈な代償が伴うんだよ】
【草】
【ひなたちゃん、中級者の大剣使いなのにね……】
【理央様も高校生、あやちゃんも大学生だし、いくら体重に気をつけてそうとはいってもなぁ……】
【押し倒されてたのに腹筋だけで３人丸ごと押し出して、腕でみんなを押し戻してから正座させたしなぁ】
【女の子とはいえ、３人の体重を腹筋と腕力だけで押し返したもんなぁ】
【ユズちゃんが２番目にちっちゃいのにね……】
【いや、あのやせ具合と普段の筋力からして、ヘタするとひなたちゃんより……】
【さりげなくすごいよね】
【さりげなくすごくなくてほしかった……】
【ユズねぇも月岡たちも、察して外に出てたしな……】
【復活した親衛隊たちが画面囲んで鑑賞会兼打ち上げしてるしな……】
【草】
【フリーダムすぎて草】
【「いぇーい！」】
【「あー、ユズちゃんが強くなっちゃったかぁ」】
【「だからさっさと襲っちゃえってみんなでアドバイスしてたのに理央様ったらさぁ」】
【「もう中学生のころからずっとなのにねぇ」】
【「去年までが独占できた最後の期間だったのにー」】
【「そうだろうってみんなで言ったげてたのになぁ」】
【「まぁ理央ちゃんだし……」】
【「危機感がないとヘタレるからなぁ」】
【草】
【草】
【ユズちゃんの味方が誰ひとり居なくて草】
【だって、さっきの流れはどう見ても百合空間だったもん】
【そうわよ】
【この不満こそ薄い本量産の原動力よ！】
【お嬢様！】
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