202話 嫌な予感
一緒に飛んでるのに、気を抜くとすぐにどっか行っちゃいそうになるお母さんの手をしっかりと握りしめつつ、僕たちは出口へ急ぐ。
地上では、おまんじゅうで削ったところに食いついてくれたお母さんのモンスターたちが、僕たちの声を聞いてかお母さんの意志を汲んでか、見つけた出口を守るように展開してくれている。
お母さんのモンスターたちってことは、僕にとっても家族みたいなもの。
おまんじゅうたちに感じてるような親近感とかみたいなのは湧かないけども、それでもできるなら一緒に脱出したい。
「あの子たちもできるだけ助けないと……おまんじゅう!」
「きゅいーっ!」
ぴーっ。
よく見ると、部屋の隅の方から減った分を補充しようと湧き出ているモンスターたちの群れ。
そこへ向けて、もう1回おまんじゅうの攻撃で、少しだけど支援。
【あの、今、モンスターが黒い霧の中からポップして】
【……もしかして、モンスターがポップするのをこんなにはっきり映してるのって……】
【人類、初……?】
【だよな、確か】
【ここまでの近距離はな……】
ちゅぃぃぃんって吹き飛んでいくモンスターたちを見て、一瞬固まるもすぐに別の方面のモンスターたちを集団でなぎ払っていくお母さんのペットたち。
「よし、僕たちはこのままあの通路に突入するよ!」
「みんなぁー、良い感じに追い払ったら着いてきてねぇー!」
「「「うおにゃあああん!!!」」」
うん、お母さんの指示も聞けてるし、危なくなったら逃げてきてくれる……か、セーフゾーンな家の庭にでも避難しててくれるんじゃないかな。
それにしても元気すぎない……?
もし全員脱出できたら……飼う場所、探さなきゃなぁ……。
【草】
【すごい雄叫びで草】
【かわいいのに声は恐ろしい】
【低音のかわいい声で草】
【なにしろ1匹1匹がでっかいからなぁ……】
【でっかい(ボスクラス】
壁に羽が当たらないように、けれども地面に近づきすぎないようにって速度をちょっとだけ落としながら暗がりへ侵入。
高度は5メートルくらいから一気に2メートル。
ちょっとしか飛んでないはずなのに、妙に狭く感じる。
「通路、普通はあんまりモンスターが出ないけど、出ることもあるから気をつけようね」
「きゅっ」
「ぴぴっ」
「ん、おまんじゅうが必要って思ったらお願いね。 チョコもありがと。 お母さん、いざってときにはチョコが壁になるからびっくりしないでって」
ふんすっと得意げな2匹は、いつも通りに頼りになる。
ここから脱出できて、ダンジョン化?が解けて、お家もお庭もあのでっかい野菜たちも無事なら、たっぷりカット野菜と土をあげるからね。
「2匹ともすごいわねぇ」
「僕の子たちだからね!」
【!?】
【ガタタッ】
【ステイ】
【ユズちゃん、「僕の子たち」はまずいよユズちゃん!】
【ユズちゃん経産婦説……?】
【ああああああ】
【おろろろろろ】
【全身にブツブツできてきて痒い痒い痒いぃぃぃ】
【あ、やば、アレルギーで気管支が】
【あ、持病の心臓ちょっと待ってこれまず】
【草】
【大惨事で草】
【約1名! 監視してる公務員さんたち急行してー!】
【ダンジョン協会「リストバンドは予備も含め、所属の方へ数個渡してあります。 ご家族やご友人、知人など、必要な方に渡してください」】
【全国救護班連盟「また、リストバンドの音声入力をオンにしておけば、緊急時に大声で助けを求めることにより、バイタルに異常がなくとも救急センターに繋がります。 臨戦態勢の期間だけでもご検討を」】
【草】
【阿鼻叫喚で草】
【公務員さんたち、マジお疲れ様です】
【ガチでヤバくなった人居たんだろうなぁ……】
【コメントだからノリだと思わない方が良いのか】
【お前らも冗談で言いすぎるなよ? 迷惑かけるぞ?】
【はーい】
【んな大げさな……ユズちゃんが子供って言っただけじゃん】
【そうだよ、冗談でしょ】
【やめてくれ、俺たちはユニコーンの末裔なんだ】
【推しに万が一にでも男から触れらろろろろろろろ】
【そうだぞ、間違ってもユズちゃんが結婚して出さあああああああ!!!!】
【えぇ……】
【視聴者たちのメンタルが脆すぎる】
【この配信っていつもこうなの……?】
【そうだよ?】
【あー、今は普段の視聴者が何十分の1になるレベルで新規が殺到してるからなぁ】
【もはや国内から国内を配信してる中では堂々の1位だからね】
【ダンジョン化の最深層からの脱出配信だもんな】
【あとはダブルユズのな!】
【草】
【ユズワールド全開だからなぁ……】
◇
「……ゆずぅ? ダンジョンの廊下って……」
「ううん、こんなに長いなんて聞いたことない」
ずっと羽をひらひら、2人でぶつからないようにちょっと斜めになりながら飛んでた僕たち。
暗闇の先を警戒し続けてると、首の後ろが痛くなってくる。
そりゃそうだ、体を横にして真ん前を見るってことは、普通に立って真上見るときみたいになるんだから。
けど、なんだかおかしい。
その違和感に、それどころじゃなくなる。
【……1分? もうちょい?】
【ユズちゃんたち、ジョギングくらいの速さだよね……?】
【仮に2人が時速10キロくらいだとして……】
【2キロくらい進んだか?】
【ダンジョンの廊下……2キロとか】
【映像を明るくして見てるけど、途中で通り過ぎちゃった別の通路とかはないみたい……】
【じゃあ……?】
【やっぱり魔族がなにかしてやがるか】
「……ぎゅいぃぃぃぃぃ!」
「何か、居るんだね。 お母さん、速度落として」
「ええ……」
そういえば、お母さんのペットたちが追いついてこない。
や、おまんじゅうがなぎ払ったとはいえ、ワンフロア全部のモンスターVS50匹くらいってのはさすがに数が違いすぎるから、覚悟はしてた。
だから、速すぎないように移動してきたわけだけども……そっか、みんなやられちゃったのか。
そう残念に思う気持ちは、けれども目の前の真っ暗闇に吸い込まれる。
おまんじゅうもチョコも、背筋がぞくぞくするような感覚を伝えてきている。
――もし、この通路が上への通路じゃなかったら?
この先には、もしかしたら。
もしかしたら、僕たちの家がたどり着いた場所が終点じゃなくって、さらにこのダンジョンの先があったとしたら――――――。
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