191話 怒ると怖いお母さん
「ハッハッハッハッ……」
「ニャン!」
「もう、ゆずったら。 いいわよいいわよ、見て愛でるだけにするからっ」
「お母さん……だからそれ、モンスターだってばぁ……」
おねだり攻撃をしてきたお母さん。
僕には通じないって分かったらしく、子供みたいにほっぺたを膨らましてふわふわと離れる。
「まったく……いい歳して子供なんだから」
【ん?】
【それユズちゃんが言う……?】
【草】
【ユズちゃん、このコメント読んだら1回自分のアーカイブ見直してみ??】
【純ロリのひなたちゃんよりロリ扱いされてるよユズちゃん!】
【総ツッコミで草】
【あ、でもユズママが……】
「だいたい無理に決まってるでしょ……そんなでっかいの。 おまんじゅうたちとは……お母さん?」
ふと目を離すと、すぐに居なくなるのがお母さん。
まったくもう、これじゃどっちがお母さんか子供か分からないじゃん。
そう思って振り返った僕は――――――――――。
「――――――――――GAA!」
「NAAGO!」
「! お母さん!」
「え? どうしたのゆず――」
さっきからずっと塀をがりがりしてたモンスターたちが――塀の上で、その大きな爪を振り回していて。
初めて生えた羽で飛ぶ勢いを間違えたのか、お母さんはその目の前まで飛び出しちゃってて。
おっきな爪と、その真ん前にあるお母さんの顔。
そんな光景を認識した瞬間、僕の意識はスローモーションになる。
やばい。
やばいやばい。
お母さんが、モンスターに食べられちゃう。
お母さん。
女手ひとつで僕を育ててくれたお母さん。
ほんわかしてるお母さん。
最近は元気で嬉しかったお母さん。
今日もなぜか元気で嬉しかったお母さん。
「きゅいーっ!」
「ぴぴぴぴぴっ」
世界はスローモーション。
必死に手を延ばすけども、肉体がついてこない。
そんな中、手だけ伸ばしてる僕の横を勢いよく飛んでいく2匹。
2匹からも、危機感最大な意識が伝わってくる。
焦り、恐怖、後悔。
そんな、僕たち人間とおんなじ感情が。
【えっ?】
【あっ】
【ユズママ!?】
【生えたばっかの羽でふらふら飛んだから】
【にげてー】
「お母さん、逃げ――――――――――」
奥歯が痛い。
お腹が痛い。
逃げて。
助けなきゃ。
届かない。
僕は、唯一の家族を。
いろんな感情が、一瞬で頭を駆け巡って、体が嫌な感じになって。
すべてがスローモーション。
息が荒い。
それしか聞こえない。
僕は。
お母さんを失ったら、僕は何のために――――――――――
「――こら、ダメでしょ! おいたはいけませんっ!」
「キャインッ!?」
「ニ゛ャンッ!?」
「え」
モンスター数匹が、お母さんの目の前に。
――僕も、体がふわっと浮いた感じになって、なぜかお母さんのすぐそばまで来ていて。
おまんじゅうが攻撃する寸前で。
チョコが変形しようとしてて。
そんな、瞬間。
――――――――――ぺちっ。
お母さんの手が――モンスターたちを、引っ叩いていた。
「……え?」
お母さんの両手が、モンスターたちの鼻面に――大きく口開けてたのに、その上の鼻のとこを、思いっ切り叩いてて、いい音が響いてて。
「?」
「?」
「?」
チョコとおまんじゅうと僕が、お互いに同じ信号しか送れなくなって。
「……キュンキュン、キューン……」
「ナーゴ、ナーゴ……」
引っ叩かれたモンスターたちが……そのまま丸くなってて。
「外構は高いの! それにその塀はお隣さんと共有なの! 壊しちゃったら大変なんだから! どちらのお宅がどれだけ出すかですっごく揉めるんだから!」
「え? ……え?」
「きゅ、い……?」
「ぴ? ぴ? ……??」
「そんな悪い子にはあげません!」
「キューン……」
「ニャン、ニャーン……」
お母さんに叩かれた個体は、くるりとひっくり返って降参のポーズ。
近くに居た個体も速やかにお腹を出して……お腹の毛、もふもふしてるなぁ。
「?」
その、一瞬で。
塀によじ登ろうとしてたモンスターたちが、今や塀の下で降参アピール。
「GRRRR…………」
それを見たその周りのモンスターたちは、警戒しながら後ずさりしている。
「………………………………?」
え?
「?」
え?
なに?
どうなってるの?
【なぁにこれぇ……】
【????】
【ユズちゃんが固まってる】
【ユズちゃんでも固まるんだ……】
【お前らユズちゃんのこと……いやしょうがないわ】
【ユズママ……モンスターをビンタした……?】
【両手で……? 襲ってきてた2匹を……?】
【え? え?】
【モンスターたち、お腹出してるぅ……?】
【草】
【悲報・ユズちゃんの固有能力、ユズママも持ってた】
【朗報では?】
【速報だと思う】
【もうそれでいいや……】
【んにゃぴ……】
【見ろよ、ユニコーンとスライムどころかユズちゃんすらあっけにとられてる……】
【そらそうよ……】
【ユズちゃんでも敵わないのか、ユズママ……】
【ユズちゃんの上位互換だからね!】
【え? モンスターって平手で降参するの??】
【分からない……もう、なにもかも……】
【とりあえず俺、近くのダンジョン化したとこ突撃してくる……】
【俺も……】
【待て、早まるな】
【そうだぞ、早まるな だって今の、ユズママが自前の羽でモンスターたちの開けた口を飛び越して鼻っ面を引っ叩いたから……いやそれでも普通なら無理だわ、確実に捕食されるわどう考えてもおかしいわなんでそれでぱくっとされてないのなにこれなにこれ俺の頭がおかしいのか?】
【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】
【??????】
【これ、現実? 俺たちの妄想じゃない??】
【正気取り戻すために、理央様たちの配信に移動しないと……】
【あはははは! お父さんの仇があんな無様に!!】
【壊滅した隣町のこと、トラウマになってたけど、なんか楽になったわ】
【あんな、野生捨てたペットみたいになってるの見て、なんか怖くなくなった気がする】
【俺も】
【あははははは】
【おお、もう……】
【ユズママが食われるかと思ったら……なぁにこれぇ……】
【せかいのほうそくがみだれる】
【たった今、ユズママがとんでもないことをしでかしたことだけは理解した】
【それ以外考えるな、なんかこう……いろいろと持ってかれるぞ】
【ユズワールドに?】
【ユズワールドに】
【草】
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