17話 女装してダンジョン講習会へ
「うぅ……すーすーする……」
「きゅっ」
お母さんのとっさの機転。
それがなければ遅刻しそうな時間、僕はなんとか外に出ることができた……わいせつ物陳列罪で捕まらない見た目で。
「きゅっきゅっ」
「おまんじゅうはこんなにご機嫌なのにぃ……」
出て来る涙をおまんじゅうの背中の毛……そういえばまた伸びてるなぁ……で拭き拭き、一路、駅へ――自転車で。
「んっ……おしりに食い込む……」
「きゅ」
そうして僕は乗り慣れてる自転車のサドルに――ぱんつでまたがった。
ぱんつ。
もちろん下に穿いていないわけじゃないんだ。
――お母さんのスカート、あとは「万が一風で吹かれて人に見えちゃったときに、ものすごくびっくりさせたら大変なことになるから、ね?」って渡された、お母さんのぱんつで。
洗濯物畳んでるから知ってるけど、なんで女の人のぱんつってこんなにすべすべしてて薄いんだろ……。
「うぅ……」
恥ずかしいし、なんだかものすごくどきどきして最近の寝起きでじんじんする胸の先がもっとじんじんする。
「きゅっ」
「が、がんばらないと……がんばらないと、野菜代以外で数ヶ月分の食事が……!」
ものすごくご機嫌なおまんじゅうの鳴き声で癒されるけど、それどころじゃない。
普段よりも気をつけて道を選ばないと……タイヤからの振動がダイレクトにお尻からおまたに来るんだよぉ……。
そんなわけで、今日の僕は完全に女の子の格好――女装をしている。
お母さんは最後までワンピースを勧めてきたけど「それだけは」って言い張って、お母さんの昔の服に。
上は花柄のシャツ、「こっちもびっくりさせたら怒られちゃうから、ね? お巡りさんに捕まっちゃったら困るから……ね?」って、都会の怖い法律を教えてもらってお母さんのナイトブラでちょっと盛り上がってる。
ものすごく恥ずかしいけど、でもおかげでじんじんする先っぽが擦れなくて助かってほっとしてる僕。
スカートは上のシャツと合う薄い色ので、膝の下まで隠れるやつ。
学校の制服とか、光宮さんが遊びに来るときに穿いてるきわどい短さのじゃなくって、ちゃんと長くてこれもほっとしてる。
……せめて、この前の裾の広いズボンなら良かったのに……ワイドパンツとかいうやつならまだ良かったのに。
でも、お母さんのズボンもなくなっちゃってるならしょうがないよね。
「うぅ……風ですっごくひらひらしてるぅ……」
「きゅい」
……これ絶対、横と後ろから見たらぱんつ見えちゃってるよね。
女の子ってどうやって自転車乗ってるんだろ……それともみんな、ぱんつ丸出しで乗ってるの……?
ふとももが、風で寒いはずなのに熱い……。
「……車が通り過ぎるときは降りよ……あと人が増えてきても降りて歩こ……」
「きゅいっ」
前のカゴの上では、見たことないくらいにご機嫌なおまんじゅうが――前じゃなく、なぜか後ろ、僕を見上げながらゆらゆら。
「君は良いよね……僕は恥ずかしくて死にそうだよ……」
「きゅっ」
◇
「……着いたぁ……」
自転車こいでるあいだとか駅の待合室とかも含めると2時間の苦行が終わって、ようやく都会のダンジョン協会の施設へ。
「うぅ……」
「きゅっ」
駅のホームでも電車の中でも、とにかくとにかくじろじろじろじろ見られてる気がして疲れ切った。
そんなはずないのにね……ないよね?
みんながみんな、「あ、アイツ男のくせに女装してる! ネットにさらしてオモチャにしてやろ!」とかじゃなかったんだよね……?
僕、学校とかでときどき女子たちに女子の制服着せられるし、なんならお休みの日も光宮さんとかにお母さんとか光宮さんの服着せられるから、女の子の服……女装には慣れてるけども、やっぱり恥ずかしい。
撮られたりしてた気がしたのは気のせいだよね……?
そうじゃなかったら?
1年くらい、フードのある服で顔隠しながら生き延びる。
……普段とそんなに変わらないか。
「おはようございます、講習の方ですね?」
「……はい……お願いします……」
「……体調が優れないようでしたら後日に変更できますが、どうしますか?」
「えっ」
え?
「事前に送付したパンフレットでも、講習会には初心者ダンジョンでの動きなどを……と。 講師が付き添いとは言え、武器などを支給の上でダンジョンに潜りますので……」
「……そうでしたね……いえ、平気です……」
僕はやっぱりバカだった。
「俺が着いていないと何にもできないんだからな! 俺の許可無しに遠出するんじゃねぇぞ! お前はほんっとうにドジでマヌケなんだからな!」っていつも言ってる田中君の言うことが正しかったんだ……。
田中君に着いて来てもらえば良かったのかなぁ……。
でもこの格好、バカにされそうだったし……。
「ではこちらへ……星野柚希さん、じゅうなな……え? ……じゅ、17歳……」
「……はい、小さく見られますけどこれでも……」
「……か、確認取れました……こちらへどうぞ」
「きゅいっ」
やけに機嫌が良くてしょっちゅう鳴いてくれるおまんじゅう。
「テイマーさんですか。 すごいですね!」
「ええっと……まだなったばっかりで、正直実感がないっていうか……」
「がんばってくださいね! 応援しています!」
おまんじゅうを抱っこしてるからか、受付の人はとっても優しかった。
都会にも優しい人って居るんだね。
帰ったら田中君に教えてあげよっと。
◇
「えー、それでは。 本日午前の部は3名ということですので、リラックスして受けてくださいね」
「はーいっ」
「よろしくお願い致します」
「……はい……」
汗まで出てたのがようやく引いて、「もうここまで来たら恥ずかしがってもしょうがないよね」って開き直れたころ。
まぁこういう格好はちょくちょくしてるし、もう今さらだもん。
で、名前を呼ばれて向かった部屋には、さっきの受付の人に女の子と女の人。
あとさっきの受付の人も女の人だったから、全員女性。
……そんな中に女装した男……うう……。
「本日は……星野さん、向日さん、夢月さん、ですね?」
「はーい! むこうびひなたでーす!」
「夢月です。 短い時間ですが、みなさんよろしくお願いしますね」
「はい……星野です……」
向日さん……見た感じ中学生じゃないから、小学生の女の子。
都会の子だから派手だけど、中学生になると大体みんなやめる、ツインテールにしてる元気な子……きっといつもこんな感じなんだろうなぁ……。
その隣の夢月さんは大人の女性って感じ。
雰囲気はどことなくお母さんに似てるから、多分普段はぽわぽわしてるんだろうけど……お母さんと違ってこんなナイトブラじゃ到底収まらない気がするお胸。
「私12歳です! 来年中学です!」
「あらー、将来有望ですねぇ。 私は大学2年ですー」
きらきら輝いている小学生に、キャンパスライフっていう素敵な時代を生きているはずの大学生。
それと比べて身分的には中卒のフリーターな僕。
しかも男。
「うぅ……」
「きゅいっ」
もぞもぞと胸の中で動くおまんじゅうだけが癒やしだなぁ……。
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